8/29
女房という生き方
人の数だけ、心の形がある。
けれど、それを言葉にできる者は、ほんのひと握り。
私は、そんな“心の断片”を拾い集めることが好きだった。
それが「清少納言」という女房の仕事の一部であり、
趣味でもあり、時に……生きる術でもあった。
「人の心って、ほんと、四季より移ろいやすいのよね。」
そう呟いた私に、同僚の女房・すずなは笑って扇をぱたぱた。
「またそうやって観察しておられる。少納言様、ほんと怖いですわ。」
「怖い? 観察眼を持つ女は怖いって? ――褒め言葉ね。」
私はにやりと笑い、簾の外を眺めた。
そこでは、帝のお出ましに備えて侍女たちが慌ただしく立ち働いている。
風がふっと吹いて、香の匂いが流れた。
淡い梅の香。
――人も、香りも、時が経てば薄れる。
それでも、今日の“をかし”を見つけておきたいと思った。




