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夏は夜
夏は夜が似合う。
日が沈んでも、空気の熱は消えず、
遠くの森で蝉がまだ鳴いている。
庭の木々の間を、蛍がふわりふわりと漂う。
まるで星が地上に降りてきたようだった。
「ねぇ、見て。ほら、あの光。命の粒みたい。」
女房たちは扇を手にして笑う。
「清少納言様、また“をかし”なことをおっしゃる。」
私は笑って扇で口元を隠した。
「だって、本当にそう見えるんだもの。」
雷が遠くで鳴った。
空が一瞬だけ光り、蛍たちが散り散りに飛ぶ。
あの緊張と解放の一瞬ーー。
「夏はね、静けさの中に騒がしさがあるのがいいの。
夜は、誰もが少しだけ自分を解放できる時間なのよ。」




