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宮中の夜、灯の波 / 定子様の微笑み
夜の宮中は、まるで別の国のようだった。
日中の喧騒がすっかり消え、廊の先には灯が波のように揺れている。
香が焚かれ、絹が擦れる音が遠くで響く。
蝋燭の光が金襖を照らし、
薄紅の衣が風にたなびいた。
「この光景、言葉にしなければ消えてしまう……」
筆を持たずにはいられない。
私はそういう生き物なのだ。
やがて奥から鈴の音が響く。
帝の御座が整えられ、月の宴が始まる合図だった。
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中宮定子様——この宮廷で最も美しく、最も聡明な方。
夜の灯に照らされるその姿は、
まるで月そのものが人の形をとったよう。
「少納言、今宵は月が美しいわね。」
「はい。まるで、殿下の御心を映しているようでございます。」
そう言うと、定子様は柔らかく笑った。
あの笑みを見るたび、私は胸の奥が温かくなる。
この方のそばにいられること、
それだけで生きている意味を感じた。
だが、同時に——私は知っていた。
月が満ちるほど、影も濃くなることを。




