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文に宿る「顔」 / 夜の独白
恋文は、顔を描く鏡のようなものだ。
姿を知らずとも、筆跡の呼吸でその人の気配が伝わる。
墨の濃淡、行の揺れ、余白の取り方。
「丁寧すぎる人は、距離を保ちたい。
書き急ぐ人は、心が追いつかない。」
そして――
「私のように、少し遊ぶ筆を持つ者は、恋も遊ぶ。」
恋は、駆け引きよりも“呼吸”だと思う。
文の間に漂う空白こそ、愛の余韻。
それを理解できる人とだけ、私は文を交わした。
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月明かりの下で、筆を置いた。
灯の火がゆらゆらと揺れている。
「恋って、不思議ね。」
書いている間は、相手のことを思っている。
でも、書き終えた瞬間、もう少し冷静になる。
「まるで恋そのものが、筆の中で燃え尽きるようだわ。」
それでも、人は文を書く。
たとえ返事が来なくても。
たとえ想いが届かなくても。
言葉にした瞬間、それは「存在」になる。
誰かに愛を伝えるというより、
自分の心を確かめるために――。
「私は、書くことで恋をしているのかもしれない。」




