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言葉は恋の影 / 恋文の作法
恋とは、心が書く詩。
でも、声に出した瞬間に壊れてしまうこともある。
だから私は、筆で恋をする。
紙の上なら、誰にも邪魔されずに、
心をまっすぐ伝えられる気がするから。
「ねぇ、少納言様。恋って、どうして痛いんでしょうね。」
女房のさよりが、香を焚きながら呟いた。
私は少し笑って答えた。
「痛くなきゃ、恋じゃないわ。
――だって、心のどこかを刺してこそ、恋でしょ。」
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宮中では、恋文のやりとりは一つの芸だった。
墨の色、紙の香り、折り方、言葉の余白。
それらすべてに、その人の心が宿る。
「恋文ってね、読むより“開く瞬間”がいちばんの勝負なの。」
紙の端をほどく指先の震え。
香りがふわりと漂うと、
相手の顔が自然と浮かんでくる。
恋文とは、
相手に心を届けるというより、
相手の心を呼び起こすための魔法なのだ。




