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春はあけぼの
春――。
それは、始まりの季節。
でも、花が咲き誇る昼間よりも、
夜が明ける寸前がいちばん好き。
紫がかった空。
鶯が初めて鳴く瞬間。
ひんやりした空気の中で、遠くの鐘の音がかすかに響く。
「春って、音が生きてるのよね。」
私がそう呟くと、側にいた侍女が少し笑った。
「少納言様は、朝がお好きでございますね。」
「ええ。
だって、朝には“まだ誰も見ていない美しさ”があるでしょう。」
夜の名残と、朝の光のせめぎあい。
それがほんのわずかな時間だけ存在する。
そして、気づく者だけがそれを“春”と呼べる。




