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「をかし」の瞬間たち / 「をかし」と「もののあはれ」
一、雨上がりの軒先に残る一滴の水。
一瞬の光がそれに映る。――をかし。
二、殿方が急ぎ足で通り過ぎるとき、
衣の香がほんのり残る。――をかし。
三、文を渡す手が震えているのに、
顔だけは平然としている。――をかし。
四、冬の夜明け、炭の赤い光が命みたいに揺れている。――をかし。
「“をかし”は、美の中にある小さな鼓動。
気づいた瞬間、世界が息をする。」
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「をかし」と「もののあはれ」
後の世の人が言うのだそうね。
「清少納言は“をかし”の人、
紫式部は“もののあはれ”の人」と。
まるで、太陽と月のように比べられるけれど、
私に言わせれば、それは間違い。
“をかし”と“あはれ”は敵ではない。
どちらも同じ心の光と影なの。
“をかし”は、今を楽しむ心。
“あはれ”は、今を惜しむ心。
私は光のほうを見て書いただけ。
彼女は影のほうを見て書いた。
けれど、どちらも“人を愛している”という点では同じなのよ。




