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ただの「かわいい」ではない
「をかし」――。
現代で言えば「おもしろい」「かわいい」「趣がある」。
———けれど、私にとってそれは、そんな軽い言葉ではなかった。
“をかし”とは、
世界がふと自分に語りかけてくる瞬間のこと。
花が咲くのを見ても、
人の微笑みを見ても、
心がふっと揺れたら――それが“をかし”だ。
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ある夕暮れ。
私は御簾の陰から、外を行く人々を眺めていた。
貴族の行列。
商人の荷車。
遊女の笑い声。
同じ都に生きながら、
誰一人として同じ歩幅では歩いていない。
「それぞれの生き方が、もう“をかし”なのね。」
と、傍らの女房に言うと、彼女は首を傾げた。
「人のことをそんなふうに見て、楽しいですか?」
「楽しいというより……ありがたいのよ。
人を見ていると、自分が世界の中にいると実感できるから。」
「をかし」とは、
見る目と、感じる心が出会った瞬間に生まれる。
それを知っている人は少ない。
でも、知ってしまうと、もう日常のすべてが輝いて見えるのだ。




