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中宮定子
ある夜、私は灯の下で中宮様(定子)に呼ばれた。
白い衣に包まれたその姿は、まるで月のように静かだった。
「少納言、あなたの書く言葉は不思議ね。」
「不思議、でございますか?」
「ええ。あなたは、人の心の裏まで見ているのに、
決して悪意で書かない。」
私は少し黙ってから微笑んだ。
「悪意で観察すると、世界は濁って見えます。
でも、“をかし”で見れば、どんな人も少し可愛らしく見えるのです。」
定子様は優しく頷いた。
「……だからこそ、あなたの筆は光るのね。」
その言葉が、胸の奥で小さく灯った。
あの日から、私は書くことを“祈り”のように思うようになった。




