2.山道にて
2025.9.10
修正しました。
「神社に何があるの?」
「見てからのお楽しみだよ〜」
「気になる」
「がまんしようね」
2人は細い山道を歩いていた。
車道もなく、人2人が通れるぐらいの道。
目的地は音無神社。
2人の思い出の場所だ。
そんな思い出の場所を、端から端まで全てを知り尽くしている有里。
彼女は、体を左右に揺らしながら歩いていた。
2人は、1時間ほど山道を歩いていた。
場所は山の頂上少しした。
「そろそろだね」
無月は呟く。
目の前には石段が見えた。
それは、音無神社の石段。石段を数十分登ると、音無神社がある。
2人は、過去の思い出を思い出しながら上って行く。
「高校入学以来だから3年ぶりかな」
「無月が神社の賽銭箱を壊した以来ねー」
無月は、怒った顔で叫んだ。
「あれは有里がポールを急に投げたからでしょ!あの時は、本当に肝が冷えたんだよ!」
当時、2人は野球をしておりピッチャーが有里でバッターが無月だった。
有里がふざけて急に投げたボールを咄嗟の反射で打ち返した無月。
しかし、打ち返した方向が悪く、賽銭箱に直撃し壊してしまったのだ。
「焦って、すぐに魔法使って証拠隠滅してたもんね」
「それだけじゃ心配だったから。賽銭箱の材質、地域の湿度、天気、黒カビの繁殖の仕方まで色々調べたんだから」
「そのおかげで、魔法の上達したもんね。
....犯罪で上達するって、無月悪いことの才能あるじゃない?」
「も〜〜!」
「ははは!」
何気ない2人の会話が続いた。
有里も先程泣いていたのが嘘のように笑っていた。
階段の頂上付近になった頃、無月が呟いた。
「有里、覚えてかな?私たちが、それぞれ音無神社の木の近くにタイムカプセルを埋めたのを」
「覚えてるよ。大人になったら一緒に取りに行くって約束したでしょ?」
無月はそうだねと合図をした。
「その中に、私が有里に渡す予定の物があったの。それを今日渡すね」
有里は、不思議だった。
幼少期時代2人は、別々にタイムカプセルを埋めた。
それは、大人になったらお互いのタイムカプセルを相手に渡し、反応を楽しむ為だったからだ。
「....どうして、今?」
無月は、質問に答えた。
「理由は3つだよ」
「1つ 約束を守れないから。」
「2つ 私も欲しいから」
「最後は....」
無月は、言い淀んだ。
もごもごしていて、聞こえない。
有里は、言い淀む無月に再度聞いた。
「最後は何?」
無月は、数秒考えた後、
止まって有里の方に体を向けた。
哀愁漂う笑顔で呟いた。
「ーー有里には、いつも笑って欲しいの」
「有里と会えるのは最後かもしれない。
私も寂しい。
異界防衛隊は、年中人手不足だし、死ぬ可能性も高い。それに私の魔法は、貴重だから最前線に出されるのは確実」
無月の発言は間違ってない。
異世界人の侵略行為が始まった以降、子供に異常な変異が発生した。
異世界人の力が、子供達にも発現しだしたのだ。
その力は、”魔法”
魔力を用いて、様々な力を操ることができる力である。
ただし、魔法は、自然現象に発生する力しか操れない人が99.9%。
加えて、1人につき1つの魔法しか操れない。
残りの0.1%は自然現象以外の力を操れるが、特殊すぎるあまり使用が難しい。
だからこそ、彼女の魔法は、無魔法 ガチャ魔法などと蔑称されている。
しかし、そんな無魔法の中でも稀に希少な魔法が発現することがある。
無月の魔法”復元”
壊れた物や物を新しく生成する魔法である。
この魔法は、物などを魔力の限り生成することができる上、破損した物を復元することができる。
更に突出してる点は、人の欠損した部位を復元可能という点。
死と隣り合わせな場所に最適な魔法である。
特殊な魔法、有効的な魔法をもつ子達は、自衛隊に入隊を強制的にさせられる。
無月は、不幸にも合格してしまったのだ。
戦時の為、日本国民は、自由な職場を選べない。
しかし、少ないが何点かの選択肢はあったのだ。
本来ならば限りある選択肢の中で自分自身が選択する機会を与えられていた。
実際、有里も適した業界を選ぶことができ、高校卒業後は、その業界で勤める。
しかし、それすらの自由を奪われ、無月は人生の大半を最前線で生きなければならない。
有里も無月の未来を思うと顔が下に向く。
理想から現実へと戻された2人。
しかし、無月は「それでも」と話を続ける。
「有里が安全に笑って暮らせるのなら、いいの。 有里のためにこの力を使いたい」
有里の手を無月はぐっと握る。
無月は、続けて笑顔で話した。
「だから、私の思い出と一緒に笑ってて欲しいな。 これからの未来辛いことも悲しいことも必ず訪れる。これも、その中の1つ。人生の中で些細なことだと思えるぐらい笑っててほしい」
だめかな?と無月は心配な顔で有里を見た。
2人は、早く両親を亡くした。
兄弟や祖父母も既に他界しており親近者もいなかった。
孤独だった2人は、仲良くなって行く内に一緒に暮らしだした。
苦労はしたが楽しかった日々。
1人ぼっちだった2人は本当の家族ように感じていた。
そんな、家族同様な人との別れ。
有里や無月にとっても辛い出来事。
しかし、無月は最後まで有里を思っていたのだ。
徐ろに、有里は両手で自分の頬を叩いた。
驚く無月。
頬に赤くなったが、気にせず有里は、無月に笑顔で話した
「ありがとう無月。そしてごめんなさい。恥ずかしい所見せちゃって。」
無月も笑顔で返答する。
「いつものことでしょ?私が無月を、あやしてたんだから」
「....そうかも。」
ハハハと、一緒に笑い出す2人。
「じゃあ行こっか夜遅くなっちゃうしさ」
「そうだね」
2人は再び手を繋ぎ石段を上っていく。
頂上に到着したのはその5分後だった。