新たな試練
翌日、神城学園の訓練場に澪が足を運ぶと、いつもの光景が広がっていた。
訓練に励む生徒たち、教官たちの指導の声、そして武器がぶつかり合う音。
だが、何かが違う。
いつも通りの戦闘訓練ではなく、何か特別な試練が待っているような、そんな不穏な気配が漂っていた。
「……来たか」
澪がその場に立つと、先に待っていた人物が一歩前に出てきた。
それは、昨日出会った冷徹な男だった。
「黒瀬澪、君の実力を測らせてもらう」
男は無表情でそう言い放ち、周囲の空気が一瞬にして重くなった。
その男の周りには、異質な力が漂っていた。澪はその気配を察し、即座に警戒を高める。
「君の名前は?」
「伊勢だ。伊勢涼。」
「……伊勢か」
澪は刀の柄を握り、素早く構える。
「君の力を確認するために、君に試練を与える。
もし、この試練を乗り越えられなければ――この学園における君の未来はない」
澪の目がわずかに鋭くなった。
「何を言っている?」
その瞬間、伊勢の手から異様な波動が発せられた。
まるで空気そのものが歪むように、周囲の世界が変わり始める。
「これは君を鍛えるための試練だ。精神的な試練だ」
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2.試練の始まり
澪は瞬時に刀を引き抜き、伊勢に向かって切り込んだ。しかし、伊勢は動じることなく、澪の攻撃をさっと回避し、そのまま手を上げる。
「これから君の精神を試す。覚悟しておけ」
その言葉とともに、伊勢の力が一気に放たれた。
澪の目の前に、無数の幻影が現れる。
最初に現れたのは、彼女が最も恐れていた鬼の姿だった。
転生前、澪がかつて名を馳せた“酒呑童子”として、数多の戦いを繰り広げていたその姿。
だが、それだけではなかった。
次に現れたのは、澪が退屈のあまり命を絶った瞬間の、あの断崖絶壁のような孤独な場面。
周囲は灰と化し、澪はただ一人、世界を支配する力を持ちながらも、すべてを失った自分と対峙していた。
その幻影が澪をさらに追い詰め、心を揺さぶる。
「退屈だ」
澪は目を閉じ、心の中で呟いた。
「なぜ、そんな過去に囚われる?」
その瞬間、全ての幻影が崩れ落ち、澪の目の前から消えていった。
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3.試練の真意
澪が冷徹に目を開けたその時、伊勢の冷ややかな声が響く。
「君がそれほど強い理由がわかった。君の力――その強さの根源が何かを」
伊勢はゆっくりと澪の方を見つめ、言葉を続ける。
「君は他人の痛みを知らない。だからこそ、その力を持ち続けている。だが、君は何かを失ってもいないし、何かを得てもいない」
澪は一瞬、言葉を飲み込むように沈黙した。
「つまり――」
「お前は、ただの戦闘マシンだ。戦うことで自分の存在を証明し、戦わなければ存在しないのと同じだと感じている。だが、それは――強さではない」
その言葉が澪に刺さる。
だが、澪はそれを否定しようとは思わなかった。
「じゃあ、どうすればいい?」
伊勢はゆっくりと息を吐き、答えた。
「心を知れ。君が持つ力には限界がある。だが、その限界を超えるためには――君が“人間”を理解し、共に戦うことが必要だ」
澪は一瞬、伊勢を見つめた。
「人間……?」
「そうだ。君が真に強くなるためには、心を持たなければならない。
力を振るうだけでは、永遠に退屈な戦いの繰り返しだ」
その言葉が、澪の中で響き渡った。
だが、彼女はそれをどう受け入れるべきか、まだはっきりと理解できていなかった。
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4.次なる決断
伊勢が再び冷静に語りかける。
「君に与えられた試練は終わった。だが、これが君の選択肢だ。
このまま力だけを求めて戦い続けるか、心を持つ者として、新たな一歩を踏み出すか――」
澪は無言で立ち上がり、刀を鞘に収めた。
その後、彼女はゆっくりと歩みを進め、訓練場を後にした。
心の中には未だ、伊勢の言葉が響いていた。
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5.新たな戦いの始まり
澪は学園内で初めての、仲間を意識することになる。
その日から、彼女は戦いだけでなく、学園内での他者との関係を学び始めることになる。