終章 後編
雪がとけ、春が訪れた。
世間ではゴールデンウイークも明けた。この時期はよく五月病にかかる人々が殆どだが、僕もまた、得も言われぬ倦怠感を抱いていた。
正確には何かを失ったような、心にぽっかりと穴があいたような感じ、と言った方が適切だろうか。今年の冬に何か大事な事が起きた気がするのだが、どうも記憶がない。
仕事にも支障はないので、問題なく過ごしてはいた。
そんな僕のもとに、一通の手紙が届いた。宛先には僕の名前だけが記載されていたが、差出元は書かれていない。
いたずらだろうか。そう思い、手紙を振ってみたが、危険そうなものは入っていないようだ。
ごみ出しを終えた僕は、ポストに入っていたその手紙を家に持ち帰る。
僕は陽のあたる場所の椅子に座り、封をきって中身を取り出した。
中身は手紙だった。文章しか書かれていない。用件は、近況の便りだった。その中にも僕の名前は書かれていたが、差出人の名前は書かれていないようだった。
どうやらこの人は、僕の事をよく知っているらしい。
僕が中学二年生から三年生の間、東京から地方に離れていたこと。そしてそれから東京に戻って働いていることも。
僕がどんな人間なのか、思い出を語るように綴られている。思いやりのある方なのか、僕の身を案じてくれる一文も添えられていた。
そして手紙は、差出人自身の話に変わる。彼女もまた、遠い場所に引越したらしい。引越し先で彼女はひと悶着あったそうだが、けんか相手とも仲良くなり、今では楽しく過ごしているそうだ。
彼女自身も変わり者だと自嘲していたが、それでも彼女が今いる場所は様々な人が多く、そういった意味で迫害を受けることはないようだ。友人もいて、毎日が楽しい、と書かれていた。
最後まで読み終えたとき、じんわりと視界がぼやけ、手紙を汚してしまった。
見ず知らずの人だと思っていたが、手紙を読んでいくにつれ、僕は彼女に会った事があるのではという気がした。
だが、彼女の名前は、皆目見当もつかない。
ただ、差出人が今も健やかに過ごしていると書かれていてとにかくよかった。
じんわりとあいた穴に染み込むように優しく入り込み、喜びと安堵と、寂しさも混じった感情が湧いて出て、僕は心の整理がつかず涙を流す事しかできなかった。
陽だまりの暖かさに包まれながら、僕は脳裏にぼんやりと浮かんだ、名前もわからない少女に、別れの挨拶を告げた。
啝賀絡太と申します。
この度は「東風の便り」を最後までお読みいただき、有難うございました。
最近一次創作の小説を小説家になろうで更新してましたが、本作品の原作である東方projectシリーズがこちらのサイトで承認作品として登録されておりましたので、今回掲載を決めました。
一度は筆が止まりながらも、最終的に啝賀絡太の名義で一書き直しました。
長期に渡り作成した作品ですので、かなり思い入れがあります。
またどこかでお会いできましたら、他作品もお読みいただている方は引き続きどうかよろしくお願いします。
啝賀絡太でした。




