アーラヴァカと勝利とムニ
「信仰というものは、祖先や神々を敬うことよ」
神様は、えへんと胸を張り、語り始めた。
「煩悩によって生じる試練は、信仰によって乗り越えられるわ。
怠らないことで、貴方は境界線を越える。
前向きであれば、先の見えない道も開ける。
智慧を伴えば、全ては滑らかに上手く回り始めるの」
「どうやったら、その在り方は手に入るのですかね?」
人から煩悩はそう容易く消せない。それが難しいのだ。
「四つの徳を意識することが大切ね。
誠実でありなさい。自制を持ちなさい。堅実でありなさい。耐え忍びなさい。
日々を真面目に。ぼんやりと生きないことが、智慧を与えるわ。アーラヴァカ君」
アーラヴァカではないが、私は何とも言えない気持ちになった。
「人間はそう高尚じゃない。神を妄信でもすれば変わるんでしょうかね?」
「妄信はダメよ。敬うことは大切なのだけれどね」
そう神様は言った。私は神棚に二礼二拍手一礼してから、そのまま寝た。
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「美しい人間は好きかしら?」
神様は艶っぽい雰囲気を漂わせて、語り始めた。
「嫌いな人間はいないでしょうね」
「そうね。でもそんな美しい人間ですら、全身から汗や汚物を垂れ流すのよ。
時が経てば老人となるし、時が来れば死ぬわね。
美しかろうと、死体として野に捨てられたら…
ハエや獣が貪り、時と共に何も残らなくなるわ」
神様は私を見つめて、悲しそうに笑った。
「…私もいずれ死にますからね」
「ええ。貴方に限らず、醜い死体が等しく人間の終着点よ。
ゆえに他者と比較して、自分を特別と思ってはいけないの。
理解して貪欲さから離れれば、安らぎは訪れるわ」
そう神様は言った。私は如何わしいサイトへの登録を辞めて、そのまま寝た。
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「ムニというものは、出家して解脱を目指した聖者のことよ」
神様は、目を瞑って仏のように、語り始めた。
「現代社会では、出家して托鉢なんてとても無理ですがね」
「そうね。あとは、不殺生戒というのも、非常に難しいわね」
生き物を殺さないことも、ムニは心掛けていたらしい。
「曰く。頼ることなく。悩まされることなく。欲を知りても、望むことなく。
智慧があり。一人でも怠ることなく、正しく行動をする。
煩悩より生じる過ちを犯さず。人に平等であり、驕ることなく。
世間をよく知り、苦しみを乗り越えた者。が、ムニよ」
「なんですかその超人。私には無理ですよ」
ムニとはなんだ、と私は何とも言えない気持ちになった。
神様はケラケラ笑った。
「人間は面白いわね。初めは皆、無理なものよ。
仏の教えにもあるけど、人の意思や解釈は蛇に似てるわね。
頭以外を掴むと、翻ったその牙で報いを受けるのだから。
だから貴方は、教えや決めたことを歪めないように気をつけなさいね」
そう神様は言った。一旦の締めくくりらしいので、私は普通に寝た。