85話 コンVSフルレイムⅢ
「ぐっ……早く……。今の内に奴に止めを刺さないと……うおぉぉぉーーっ!」
ダメージを負った体の痛みを気力で振り払いコンは勇ましい雄叫びを上げて地面に倒れ込んだままのフルレイムの元へと向かって行く。
治癒魔法によりかなりのダメージを負わせたとはいえまだ致命傷とまでは至っておらず今止めを刺さねばフルレイムは確実に起き上がり再びコンの前へと立ちはだかってくるだろう。
しかしコンが止めを刺しに向かって来ていることを察知したフルレイムもここで敗れるわけにはいかないとコンと同様に激しい体の痛みから立ち上がりコンを迎え撃とうとする。
そして自身の火属性の根源級の魔力……そしてジルエッタに与えられたコンシエンシアの肉体に宿る光属性の根源級の魔力の両方を最大にまで解放した紅焔の魔法を発動していき……。
「くっ……そう簡単にこの私を倒せると思うなよ……。終焉霊魂の死霊ぉぉぉーーーっ!」
「……っ!、なっ……!」
迫り来るコンの前に立ちあがったフルレイムは凄まじい気迫の雄叫びと共に紅焔の魔力にその身を包まれていく。
その魔力は次第に……フルレイムの体全体を包み込み更にはその何倍以上の大きさの球状のものへと変わっていき、その中心にいるフルレイムと共に再び上空へと舞い上がっていった。
その禍々しくも美しい輝きを放つ紅焔の魔力を纏うフルレイムの姿をはまるで宇宙から光を照らす太陽がこの地上へと舞い下りてきたように感じてしまっていた。
そして礼拝堂の上空からフルレイムは太陽となったようにその放つ光と共に神々しいまでの姿でコンのことを見下ろしていた。
「こ……これじゃあまるであの人が太陽の中にいるみたいだ……」
「………」
「くっ……高圧放水っ!」
天へと昇った太陽となったようにこちらを見下ろすフルレイムの威圧的な視線に気圧されたコンはその焦りから恐らく無駄であると分かっていながら高圧放水の魔法を発動しその手から高圧に押し出される水流を紅焔の魔力に包まれるフルレイムに向けて撃ち放った。
しかし案の定コンの撃ち放った水流はフルレイムを覆う太陽のような魔力に阻まれあっという間に蒸発させられてしまい、只魔力を無駄に消費しただけの結果になってしまった。
フルレイムの魔力に対抗するにはこちらも魔力を最大限に解放するしかない……。
高圧放水の魔法が掻き消されたのを見てそう悟ったコンは動揺した精神を落ち着かせ意識を集中していくのだった。
「駄目だ……あの程度の魔法じゃとてもあいつの魔力を打ち破ることなんて……それならっ!」
「……っ!」
「太陽は神から与えられた温もりであると同時にこの地に渇きをもたらす試練でもある。その試練を乗り越えた者のみが神の温もりを享受することができる」
意識を集中しその身に魔力を溜めていくコンはまた哲学者となったようにオリジナルの格言を口ずさみ始め、それと共にコンの首に掛けた帯が宙へと上がり横に真っ直ぐに伸びてその施された宝石から8つの魔力の球体を撃ち放った。
撃ち放たれたそれぞれ色の違う8色の球体はコンの魔力の高まりに呼応するように速度を上げてコンの体の周りを飛び回っていく。
そしてコンが腰に両手を合わせて構えると共にその手の中に全て収束するように集まっていき……。
「(奴からも私に匹敵する程の凄まじい魔力が溢れ出ていく……。どうやら私のこの紅焔の魔法と正面から撃ち合うつもりのようだ。だが奴から感じられるこの魔力の属性は一体なんだ……。いや……むしろあれだけ強い魔力を発しているというのに激しさや穏やかさ、勇ましさや冷酷さ、神々しさや悍ましさもまるで感じられない。これではまるで奴の魔力が何の属性も持っていないような……まさかっ!)」
「………」
「(まさか今奴の放っている魔力は無の属性……馬鹿なっ!。無の属性の魔力などそんなものが実在するはずがないっ!。仮に実在したとしても己の中にある全ての個を消し去った者のみが至ることのできると言われている無我の境地にあんな子供が……)」
「………」
「くっ……いいだろう。ならば貴様のその魔力が本当に無の属性のものかジルエッタ様の死霊となったことで編み出したこの私の最大の魔法で確かめてやるっ!。……いくぞっ!」
「されどいくら水を得て肉体を得ようともその試練を突破することはできず。他者への愛……そして他者から注がれる愛のみが渇き切った人の心を潤すことができる。ならば我はこの世の全てを愛し……この世の全てから注がれる愛を持ってその試練に打ち勝つっ!」
「落下する太陽っ!」
「無限の閃光っ!」
その魔力を解き放つと共にフルレイムは自身を包んでいた太陽のような巨大な魔力の球体をコンに向けて撃ち放ってきた。
それをコンは無限の閃光の閃光で迎え撃つ。
天から落ちる太陽を地上から放たれる閃光が必死にそれを押し戻そうする形でぶつかり合うそれぞれ2人の最大の威力を誇る魔法だが、その力はまさに互角で2人の間の中心で一進一退の押し合いを繰り返していた。
「うおぉぉぉーーっ!」
「くっ……終焉霊魂の死霊めがぁぁぁーーーっ!」
フルレイムが魔力を込め落下する太陽を押し込めがコンも魔力を込め無限の閃光でそれを押し戻す。
そんな攻防が何度も繰り返して続き2人にはその本の数十秒の間が何時間も経過しているように感じられていた。
それはまさに先に魔力が尽きた方が敗北するという死闘……。
互いにそのことが分かっていたコンもフルレイムも全ての魔力を出し切ってそれぞれの魔法に込めていく。
そしてフルレイムの魔力が限界に達しその力が弱まったと思った時、コンは先程の格言の通りこの世の全てから力を注がれたように限界を超えた状態から更に魔力を込め一気にフルレイムの落下する太陽を押し返していった。
「……っ!、な……何っ!」
「これで終わりだっ!。うおぉぉぉーーっ!」
「くっ……そんな馬鹿な……ぐわぁぁぁーーーっ!」
必死に魔力を振り絞るフルレイムだが最早歯止めが効かず再びその体を押し返された落下する太陽の魔力に包まれそのまま後ろの壁に押し付けられていってしまう。
必死に耐え凌ぐフルレイムであったがその自身を包んだ太陽の魔力と共にコンの無限の閃光の閃光の中へと姿を消していった。
そして再び閃光の中から姿を現した時には……。
「はぁ……はぁ……ぐはぁっ!」
自身が生み出した太陽の魔力に包まれていたおかげかフルレイムはコンが蘇った教会でのジェイス達のようにその身は消え去っておらずどうにか生きた状態で姿を現した。
だがそれでも致命傷に近いダメージは負っていたようで咳き込むと当時に口から血を噴き出し、そのまま意識を失って地上へと落下していってしまった。
辛うじて一命は取り止めているようだがもう起き上がることはできないだろう。
そしてフルレイムとの激闘を制したコンはジルエッタと戦っているサラの元へと向かって行く……。