82話 ルナVSグレイリッヒⅢ
「あ……あなたは……」
「私はグナーデと言う者だ。あそこで戦っているサラとコンの仲間だから安心していい。君は……サラが新たに蘇らせようとしていた夜空瑠那……っという者か」
「そ……そうよ……。私のことは遠慮せずルナって呼んで。それより危ないところを助けてくれてありがとう、グナーデさん。もうちょっとで後ろの壁に激突しちゃうところだったわ」
「ああ……。しかしまさか奴が守護星獣を持つ英霊だったとは……。フルレイムといいやはり赤霊の死霊術師ジルエッタの従えている死霊は桁外れの実力を持った者達ばかりだ……」
「そうね……私もあの金色の牛が出て来て2対1になってから一方的にやられちゃったし……」
危ないところをグナーデに攫われたルナは互いに名を呼び合いながらゆっくりと地面へと下ろして貰っていく。
そして二人で並び立ち共にグレイリッヒとその守護星獣である偉大なる牡牛へと神妙な面持ちで視線を向けていた。
どうやらグレイリッヒが英霊であると知りグナーデも相当驚かされているようだった。
グレイリッヒの方はグナーデのことを厄介な増援が来てしまったと忌まわしく思うような目で見つめその場に立っていたのだが……。
「あの聖職者ギルドの聖騎士やはり生きていたのか……。偉大なる牡牛の力を借りてようやくあの終焉霊魂の少女を打倒せるところだったというのに……」
“モオォォッ……”
「……っ!、偉大なる牡牛っ!」
ルナに打勝つ好機を潰されてしまったことに少し落胆した様子をみせるグレイリッヒだったが、その横で偉大なる牡牛が前足の膝を地面について倒れ込んでしまう。
どうやら先程のルナとの攻防で完全に力を使い果たしてしまったようだ。
ここで偉大なる牡牛に戦線から引かれてはルナと増援に来たグナーデを相手に今度はグレイリッヒの方が立場が逆となって2対1の状況で戦わなければなってしまうが、そんなことまるで気にしない様子でグレイリッヒは自身の為に全力で戦ってくれた偉大なる牡牛へと優しく声を掛けていく。
「どうやらお前に無理を掛け過ぎてしまったようだ。私の無茶を聞いてよくここまで戦ってくれた。後は私に任せてお前は私の中に戻って休んでいてくれ……」
“モオォォッ……”
「……っ!、こ……これは……」
グレイリッヒの自身を思い遣る言葉を聞き入れその肉体の中へと還っていく偉大なる牡牛だが、それと共にグレイリッヒの体がまるで偉大なる牡牛の力を受け継いだように黄金に輝くオーラに包まれていった。
どうやら自身の力で戦うのが不可能だと判断した偉大なる牡牛はその力だけでもグレイリッヒに貸し与えたようだ。
守護星獣である偉大なる牡牛の体は正の霊力によって生み出されている。
つまり今のグレイリッヒは己の自身の身に聖霊級の霊力を宿したということだが……。
「……っ!。あ……あの牛が消えたと思ったら今度はあのデカイ男の体が金色に光始めちゃったわ。あれってやっぱり牛がいなくなった代わりあいつ自身がパワーアップしたってことよね」
「恐らく……。どのようなパワーアップを果たしたかまでは私にも分からな……ぐふっ!」
「……っ!、大丈夫っ!、グナーデさんっ!」
金色のオーラを纏ったグレイリッヒを気にするルナの横でグナーデは突然咳き込み始め、その口を押さえる手からは少量ではあったが血が垂れ落ちていた。
どうやら先程のフルレイムとの戦いで受けたダメージの影響により吐血してしまったようだ。
そんなグナーデの体を支えながらその身を案じるルナであったが、戦いの相手であるグレイリッヒにとってグナーデが深いダメージを負っていることは幸いなことだ。
その力を受け継いだとはいえ強力な相方である偉大なる牡牛を失った今、武人として高い誇りを持つグレイリッヒも余計な拘りは捨て去り素直にそのことを喜んでいた。
「……っ!。増援に来たとはいえどうやら深手を負っているのは向こうも同じのようだな。フルレイムの相手をしていたのだから無理のないことだが今は素直に相手の戦力の低下を喜ばせて貰おう」
「しっかりしてっ!、グナーデさんっ!」
「だ……大丈夫だ……ルナ。私に構わず今は戦いに専念しろ……」
「口から血まで出してるっていうのに何が大丈夫よ……。よくそんな状態で私のことを助けに来てくれたわね。もうあいつの相手は私1人で十分だからグナーデさんはどこかに避難して体を休めててっ!」
「馬鹿を言え……。サラもコン……それから蘇えったばかりのお前まで戦わせておいて私だけ休んでいられるか。この程度のダメージ戦闘を行うのに何の支障もない。それより早く戦いに意識を戻さねば奴が仕掛けてくるぞ……」
「……っ!」
「聖霊級……黄金の弾丸っ!」
「何っ……!」
身を屈めて吐血するグナーデとそれを心配するルナに向けてグレイリッヒはなんとサラやジルエッタ達死霊術師が死霊術を使用する際と似た呼称の名を言い放ち術を発動させた。
しかもその術によって出現したのはサラ達の使用する弾丸の死霊術に似ていながらその生み出された弾丸は正の霊力の青白いものでもなく、負の霊力の暗い紫色のものでもなく偉大なる牡牛の霊体の体と同じ黄金に輝くものであった。
それ見たルナとグナーデも一体どういうことかと思いただ驚くことしかできなかったのだが……。
「あ……あれはまさかサラ達と同じ霊力を用いた死霊術による術か……」
「えっ……でも死霊術ってサラさん達死霊術師しか使えないんじゃないの。……っていうことはあいつも死霊術師ってこと?」
「いや……生前に死霊術師となる為自身の属性の魔力を死の属性へと変えた者の魂はどのような死霊術を用いても決してこの世に蘇らせることができないとされている。死霊術は自身の死の属性の魔力をこの世に漂う霊力に混ぜ合わせて使用することができるのだが、死の属性の魔力を持たない奴は恐らく奴の持つ守護星獣の力を借りることにより死霊術を発動しているのだろう。守護星獣は天に輝く星座に地上の生命達が抱く思念の霊力を冥王星から降り注ぐ死の属性の魔力が取り込んで誕生したと言われているからな」
「如何にも……。守護星獣はそれ自体が死霊術を発動させる霊力の源ともなる存在……。守護星獣に選ばれた英霊はその身自体に死霊術師が死の属性の魔力と霊力を合わせて生み出す死霊力を持つに等しいのだ。流石にその死霊力を用いて死霊や死霊の蘇生の儀式などを行うことはできないが、このように霊撃系統の死霊術ならば私も使用することができる。……はあぁぁっ!」
グレイリッヒの説明の通り死霊術は死霊術師が自身の死の属性の魔力とこの世を漂う霊力を合わせることで発動することができる。
その死の属性の魔力と霊力を合わせて生まれた霊力を正式には死霊力と呼ぶのだが、偉大なる牡牛達守護星獣と呼ばれる存在は皆その死霊力によって生み出された霊体を持ってこの世に存在している。
そしてその霊体を死霊力へと変えて主へと貸し与えることができるようだ。
更に守護星獣の持つ死霊力は死霊術師の生み出すものと完全に同じというわけではなく、それぞれ守護星獣によって違う性質であるようだ。
その偉大なる牡牛から与えられた特別な死霊力を用いてグレイリッヒは黄金に輝く死霊術を発動させることができたのだろう。
特別な性質を持つが故に死霊や死霊の蘇生の儀式などは行うことができないようだが……。
それでもその死霊力はグレイリッヒが術を発動せる際に口にしていた通りサラ達死霊術師の生み出す聖霊級に等しい霊力を持っており、説明を終えると共にグレイリッヒはその黄金の死霊術の4発の弾丸をルナとグナーデに目掛けて撃ち放ってくる。
「くっ……火球の弾丸っ!」
そんなグレイリッヒの黄金の弾丸をルナはその技の名の通りファイヤーボールの火球をそのまま銃の弾丸に変えて放ち全て撃ち落としてしまう。
そこまでの威力ではないが通常の魔弾に比べるとかなりの魔力が込められていたようだ。
黄金に弾丸から放たれる霊力の強さを感じ取り咄嗟に通常の魔弾では撃ち落とすのは不可能と判断したのだろう。
しかし相手の攻撃を防ぐことに成功しつつも敵が遠距離への攻撃手段を得たこと、そしてその身から放たれる凄まじい黄金の霊力にルナは苦戦を強いられることを予感し浮かない表情を浮かべてしまっていた。
「くっ……火球の弾丸でようやく相殺できる程の威力だなんて……。どうやら向こうも私の銃と互角に撃ち合えるだけの飛び道具を手に入れたようね……」
「だが相手が1人になったのに対しこちらは私とお前の2人掛かりだ。私が剣で奴に斬り込むからお前はその援護をしてくれ。そして私が敵の気を引いている隙にお前が奴に致命傷となり得る一撃を……。生憎と今の私の力では奴を剣で斬り伏せることなど到底不可能だろうからな」
「そんな……あの鍛え抜かれた体からも分かる通りあいつは接近戦もかなりの強さよ。これまでの動きを見た限りそれなりに体術の心得もあるようだし何よりそのパワーがとてつもないわ。そんな弱った状態でそのあいつの拳をまともに受けたりでもしたら……」
「ふっ……今日会ったばかりの私をそこまで心配してくれるとは……。やはりコンと同じでお前も純粋で優しい者のようだ。お前達のような者がいるというのにハルマゲドン以前の時代は消滅してしまったとは何とも勿体無いことだな……。だがなんと言われようと私の覚悟は変わらん。お前達のような者の為に戦って死ねるなら聖騎士として本望というものだ」
「グナーデさん……分かったわっ!。私の取って置きの一撃をお見舞いしてやるからそれまであいつの相手をお願いねっ!」
「任せておけ……ではいくぞ……っ!」
ルナと共に覚悟を決めたグナーデはグレイリッヒへと向かう姿勢を取って剣を構えていく。
それを受けてグレイリッヒはグナーデの接近を許すまいとばかりに再び偉大なる牡牛の死霊力を使って死霊術を発動していった。
前衛が敵の相手をしている隙に後衛が止めになり得る一撃を食らわせる……。
コンやルナ達がよくプレイしていたゲームでも当たり前の戦術であったが果たしてダメージを負った状態でグナーデはまともにグレイリッヒの相手をできるのであろうか。
グレイリッヒへと向かって行くグナーデを援護する為にルナも両手に銃に魔力を込めて構えるのだが……。




