78話 ルナVSグレイリッヒ
「よしっ……それじゃあいくわよっ!」
「ルナ……っ!」
「……っ!」
サラとその死霊であるコンとルナ、ジルエッタとその死霊であるグレイリッヒとフルレイム。
まさにどちらが死霊術師として高い実力を持つか決める戦いの火蓋が遂に切られた。
互いに睨み合った膠着していた状態からまず攻撃を仕掛けたのはサラの新たな死霊として蘇ったばかりであるルナであった。
ルナはコンと同じ終焉霊魂を持ちNEVER FORGET YOUR SOULのゲーム内のキャラクターの力も同じように引き継いでいる。
そのゲーム内でルナが最終的に就いていた職業は両手に持った魔法銃、またはマジック・ガンと呼ばれる物に自らの魔力を魔弾に変えて撃ち放つことのできる魔銃士、またの名をマジック・ガンナー。
その力を存分に振るいルナは右手の銃からは火属性の赤い色の魔弾、左手の銃からは風属性の薄緑色の魔弾をとても拳銃とは思えない……機関銃程とまではいかないがかなりの連射速度で次々とグレイリッヒに向けて撃ち放っていった。
それに対しグレイリッヒはルナの攻撃にジルエッタ達を巻き込まないよう礼拝堂を入って右側の方へと礼拝用に並べられた長椅子の間を掻い潜って退避していった。
只退避するだけなく好戦的なルナに対しグレイリッヒは冷静にルナの攻撃を分析しているようだったが……。
「(左右の銃……いや、撃ち出す弾の色によって弾速と連射速度が違う……。そして……)」
「……っ!」
「はあぁっ!」
撃ち出されてくるルナの魔弾に対しグレイリッヒは器用にハンマーを振り回して目の前に並んだ長椅子の2つをそれぞれの色の魔弾に向けて飛ばしていった。
只の木製の椅子にそれ程の耐久力があるわけもなくどちらもルナの魔弾を数発防いだだけで砕け散ってしまったのだがグレイリッヒはその椅子の壊れる様子を見てルナの魔弾の性質を探っていたようだ。
「(椅子を撃ち壊すのに緑の弾が6発掛かったのに対し赤い弾に当たった方は2発で椅子を撃ち壊した上に破片の一部が焼き焦がされている……。どうやら火属性の魔力が込められているようだな。緑の方の弾はその弾速と連射速度の速さから考えて恐らく風属性の魔力が……。だがどちらにせよどちらも恐れる程の威力はない)」
「……っ!」
「はあっ!」
ルナの魔弾を受けて破損する椅子の様子を見て魔弾1発ずつの威力はそれ程でないと判断したグレイリッヒは今度は退避して躱すのではなくその場でハンマーを振るいルナの魔弾がその身に届く前に次々と打ち払っていってしまった。
2種類の属性の魔弾で違う威力や連射速度、着弾のタイミング等にも見事に対応しどれだけ撃ち続けようと最早今撃ち放っているルナの魔弾がグレイリッヒに届くことはなかった。
そしていくら弾薬を装填する必要がなくとも魔弾を連射し続けるルナの魔力にも限度があるようで……。
「くっ……」
銃口から生成される魔弾が止むと共にルナは少し両腕を震わせた様子で垂れるように下ろしていく。
どうやらあまり連射し続けると魔力を消費するだけでなくその身にまで負担が掛かるようだ。
ルナが魔弾を今の威力で連射し続けられるのは最大で10秒程度だろうか。
それでもアサルトライフルやサブマシンガンが1つの弾倉を撃ち尽くすまでの時間より大分長いはずなのだが……。
最大まで魔力を消費して撃ち放った場合ルナが再び魔弾を生成できるようになるまで体に掛かった負担を回復する為5秒程度のクールタイムが必要となる。
ルナは生前のゲーム内でもこのことに気を付けてなるべく魔力を限界まで消費して魔弾を放つことのないようにしていたはずだったのだが……。
「しまった……。蘇えったばかりでまだゲームをしてた頃の感覚が戻ってないのかつい調子に乗って連射し過ぎちゃったわ……。折角コンに何度もトレーニング・モードに付き合って貰って癖を直したはずだってい……っ!」
「はあぁぁぁっ!」
「……っ!」
ルナが魔弾を連射し過ぎたことで掛かる体の負担により攻撃が止まったのを見てグレイリッヒはその場で凄まじい力を込めて大きくハンマーを振り回し、今度は目の前に並んでいた長椅子を大量にルナに向けて吹き飛ばして来た。
それに対しルナは慌ててまだ回復が間に合っていない体に魔力を込めて魔弾を撃ち放つのだが……。
「くっ……気流収束弾っ!」
迫り来る大量の長椅子に対しルナは左手の銃の銃口に先程までは違い1つ巨大な魔弾を作り出しその中心目掛けて撃ち放っていった。
魔弾の色が薄緑色だったところ見ると恐らくそれにも風属性の魔力が込められていたのだろう。
気流収束弾と称され放たれたその巨大な魔弾は宙を舞う大量の長椅子の中心で爆発すると、周囲に凄まじい乱気流を巻き起こし全ての長椅子を粉々に粉砕してしまった。
どうやら風属性の魔力により急激な低気圧を発生させ、それにより収束した気流を魔弾として撃ち放つ技のようだ。
その収束させた気流を一気に解き放つことで周囲に凄まじい気流の嵐を発生させたのだろう。
しかし体の回復を待たずして撃ち放ったことでルナの体には更なる負担が掛かり……。
「痛……っ!」
「はあぁぁっ!」
「……っ!」
更なる体への負担に痛みを感じルナの動きが止まってしまっている隙を突きグレイリッヒが一気にその距離を詰めて勢いよくハンマーを振り下ろしてルナへと襲い掛かって来た。
ルナは咄嗟に後ろに飛んでそのハンマーを躱す。
躱されたハンマーが地面に激突した衝撃一瞬体が硬直しつつもルナの動きが鈍っていることに気付いてるグレイリッヒは地面に着いたハンマーを今度はすぐさま横向きに振り上げるように打ち放とうとしたのだが……。
「躱したか……だが次で仕留め……」
「……甘いわよっ!」
「はあぁぁっ!」
「……っ!」
グレイリッヒがハンマーを振るおうと少し持ち上げた瞬間、体に痛みを感じ後退したはずのルナが華麗に体を回転させた勢いで強烈な横蹴りを打ち放ってくる。
地面に水平となり綺麗な直線を描いて打ち出されたそのルナの横蹴りにグレイリッヒは咄嗟にハンマーの頭の中心を突き出してそれを受け止めた。
しかしルナの強烈な蹴りの衝撃により足の裏で地面を擦りながら大きく後ろへと弾き飛ばされてしまい、どうにか踏み止まって体を止めるもの残った蹴りの衝撃により未だに手に持ったハンマーから伝わる衝撃により体を震わせてしまっていた。
どうやら魔弾を撃ち過ぎたことによりルナの体に掛かる負担は手と腕に集中しているようで蹴りを放つには問題ない程度だったようだ。
そしてルナはそこから更に動きの止まったグレイリッヒに向けて数発の魔弾を撃ち放ってくる。
ルナは生前のゲーム内で武闘家としても高いレベルを誇っており、この蹴り飛ばした相手に魔弾を撃ち放つのが得意のスタイルだったようだ。
衝撃に震う体を力で無理やり抑え込み再びハンマーで魔弾を振り払うグレイリッヒだったがルナがあれ程威力のある蹴りを放つことができるのが予想外だったようで……。
「その破壊力もさることながらなんと見事な動作で打ち出された蹴りだ……。それに隙を突かれたにも関わらず私の攻撃を咄嗟に反応して躱す身のこなし……。どうやらお前はその両手の銃の扱いだけでなく体術においてもかなりの心得があるようだな」
「そうよ。そもそも私は生前プレイしてたNEVER FORGET YOUR SOULのゲーム内では武闘家をメインとしてた職業に就いてたんだけどある時気が変わって魔銃士の職に転向したの。魔銃士のなる前の私の武闘家……それとそれに魔術師の職の力を併せ持った魔闘家の職業はどっちもレベル999のカンストまで上げてあるわ。NEVER FORGET YOUR SOULのゲームでは1つの職業をカンストレベルまで上げる事にマスタースキル、マスターアビリティが与えられ、更にステータスに大幅補正を受けることもできる。言っとくけど私の格闘戦の実力は普通にレベルをカンストさせずに神拳に転職した奴以上よっ!」
「なる程……その何とかのレベルがどうのというのはよく分からんがお前が並外れた武術の使い手であることはよく分かった。ならばこれからはこちらも迂闊に接近戦を仕掛けないよう注意しよう」
「そうしなさいっ!。最も距離を取って戦ったところで今度は私の魔弾の餌食になるだけだけどねっ!」
「………」
ルナの思わぬ実力の前にグレイリッヒも対策が思い浮かずその場で身構えたまま次にどう動くべきか見出せずにいる。
接近戦でも互角以上に戦われる上相手には魔弾による遠距離からの攻撃の手段まであるとあっては早計にこちらから撃って出ることはできない。
ここから暫くルナが魔弾により一方的にグレイリッヒに攻撃を仕掛けていくことになるのだが、防戦一方となりながらも諦めずに攻撃を防ぎながら反撃の機会を窺うグレイリッヒの不屈の表情にルナも気を抜くことができず、今度は魔力を撃ち尽くしてしまわないよう心掛けながら決してグレイリッヒに隙を与えないよう魔弾を放ち続けていった。




