77話 駆け付けて来たグレイリッヒとフルレイム
「ちっ……私の邪霊の閃光を防ぐなんてあの小娘……どうやら終焉霊魂の死霊としての力を取り戻したようね」
「さぁ、いきますよ……コン、ルナっ!」
「了解っ!」
「くっ……。(サラの奴……いえ、あいつ等全員をぶっ殺してやりたいのは山々だけど流石に私1人でサラと終焉霊魂の死霊2人の相手をするのは厳しい……。グレイリッヒとフルレイムの戦局がどうなっているかも分からないしここは撤退も視野に入れておくべきか……)」
終焉霊魂の死霊として目覚めたルナの力を目の当たりにしてジルエッタは儀式を乗っ取られたことに対する激しい怒りを抑え冷静にこの場から撤退することを考えていた。
確かにルナが死霊としての力を取り戻した以上ジルエッタ1人でサラ、コン、ルナの3人の相手をするのは無謀というものだ。
今一瞬の攻防を交わしただけだがルナが先程まで自身と互角に戦っていたコンと同程度の力を持つことは既にジルエッタも分かっている。
この状況で撤退の判断ができるのは臆病なことではなくむしろ彼女がこれまで数々の戦場を生き抜いて来た証拠であるといえるのだがその時……。
「ジルエッタっ!」
「……っ!、グレイリッヒっ!」
ジルエッタが撤退もやむを得ないと考え始めたその時、先程吹き飛ばしたコンと共に打ち破った礼拝堂の扉の方から自身の名を叫ぶ勇ましい男の声が響き渡ってきた。
その声を聞いてジルエッタが後ろを振り向くとそこにはテリーを打ち破った後この礼拝堂で行われたサラの終焉霊魂を蘇らせる儀式の霊力の波動を感じとり全力でジルエッタの元へと駆け付けて来たグレイリッヒの姿があった。
そしてグレイリッヒだけでなくジルエッタのもう1人の死霊も……。
「ジルエッタ様っ!」
「……っ!、フルレイムっ!」
続いて礼拝堂の2階にある右側のギャラリーに上の階から下りて来たと思われるフルレイムが姿を現した。
この場に現れるや否やフルレイムはギャラリーを飛び降り、グレイリッヒと共にジルエッタの元へと駆け寄って行くのだった。
コンとサラ、それから蘇えったばかりのルナを相手に逆境に立たされていたジルエッタだったが、これで死霊術師1人とその従える死霊が2人とまさに数の上では互角であると言える戦力となった。
2人の強力な援軍にジルエッタは撤退の考えを取り除き再び戦意を強めていくのだったが、サラの方は2人とそれぞれ戦っていた自身の仲間達が敗北したことを悟りその身を案じていた。
「いいところに来てくれたわ……グレイリッヒ、フルレイム」
「くっ……あの2人がここに現れたということはやはり……」
「うん……フォンシェイとテリーちゃんはあいつ等にやられてしまってもう僕の中に戻って来てる……。だけどグナーデさんがどうなったかについては……」
「そうですか……。ですが今の我々にグナーデの心配している余裕はありません。どうか彼女が無事でいてくれることを信じて今は目の前の敵に集中しましょう」
「分かったよ……サラさん」
「あの新たに現れた2人があいつの死霊ってわけ……。本当にあいつ等にフォンシェイとテリーちゃんがやられちゃっていうの……コン」
「うん……あの2人は僕達と違ってこの時代に生まれた魂を持つ死霊でその魂が別の人の肉体を借りて宿っているみたいなんだ。それであの2階から下りて来た女の魔術師はその魂も肉体も根源級っていうこの時代で最も強い魔力を持ってるみたいで……僕達死霊の苦手な光属性と火属性の魔力を掛け合わせた紅焔っていう強力な魔法を使ってくるから気を付けて、ルナ」
「強力な魔法か……。ならあいつの相手はあんたに任せた方が良さそうね。私はあの見るからに肉弾戦が得意そうなデカい男の方の相手をするわ。私なら力勝負で勝てなくても対抗する手段はあるし元々接近戦には自信もあるしね」
「ですがグレイリッヒも自身の魂を英霊にまで昇華させた強力な死霊です。詳細は分かっておりませんがその英霊として彼が従える偉大なる牡牛という守護星獣にも十分注意をしてください、ルナ」
「うっ……って言われても全然言葉の意味が分かんないんだけどとにかく気を付けるわ。ありがとうね、サラさん」
「ええ……」
新たに増援として現れたグレイリッヒとフルレイムを相手にコン達は戦いの算段を話し合う。
どうやらルナがグレイリッヒの相手をするということだが両手に拳銃を手にしている彼女が接近戦に自信があるというのはどういうことなのだろうか。
確かにコンの魔法やサラの死霊術より拳銃で戦うルナの方が接近してくる敵に対して対処はしやすいと思うのだが……。
そんなコン達に対しジルエッタ側の戦略は……。
「2人ともここに来たということはもうあなた達が相手にしてた連中は片付け終わったの」
「ああ……大分苦戦したがあの熊に似た姿の精霊はなんとか打倒すことができた。完全に力を使い果たして消滅したようだからあの主の死霊も暫く……少なくともこの戦いが終わるまでもう奴を呼び出すことはできないだろう。だがそれはこちらも同じで偉大なる牡牛も深手を負わされ暫く戦闘に出せそうにない……」
「そう……まぁ、あの精霊を相手にしたんじゃ仕方無いわね。あなたの方も相当なダメージを負ってるようだけどサラを始末する為にもう一働きして貰うわよ」
「ああ……」
「私の方もあの小さい少女の精霊は確実に始末しましたが聖職者ギルドの女の方は生死が確認できていません。ですが致命傷であってもおかしくないダメージを負わせたはずなのでそう易々とこの場に援軍には来れないでしょう」
「なる程……だけど念の為注意が必要ね。戦いを始めた後で援護に来られたら余計厄介なことになるわ」
「はい……それでジルエッタ様。あのサラの元にいる新たな死霊と思われる少女はやはり……」
「ええ……私の不注意で終焉霊魂の儀式をサラに乗っ取られてしまったわ。あなた達もサラが儀式を行ったのを感じてここへ駆け付けてくれたのでしょう。全くあなた達の主として不甲斐ない真似をしてしまったものだわ……」
「いえ……決してそのようなことは……。許すまじきは厚かましくも我らの儀式を乗っ取ったサラの方です。サラの行いにより我々が明確な不利益を被った以上は例え同じギルドのメンバーであるサラを葬ってもギルドの上の連中はジルエッタ様を強く咎めることはできないでしょう。この機会に厄介な敵であるサラを死霊達諸共始末してしまいましょう」
「よく言ったわ、フルレイム。ならあなたには男の子供の方の終焉霊魂の相手を任せる。グレイリッヒは両手に銃を持った小娘の方よ。あの銃はどうやら小娘の魔力を弾丸としてそのまま撃ち出してきているようだから注意しなさい。恐らく銃弾を装填する必要はないだろうし込められた魔力によって撃ち出す弾丸の威力も上がっていくはずよ」
「了解した……」
「サラの奴は私の手で葬る……。この私をここまでコケにしてくれたことを心の底から後悔させてあの世へ送ってやるわっ!」
こうしてサラとジルエッタと双方の側は互いの戦いの算段を終えて臨戦態勢を取る。
奇しくも互いに戦力を割り当てた相手は同じとなったようだ。
だがコンとフルレイム、ルナとグレイリッヒはともかく既にこの場に残った正の霊力を使い果たしてしまったサラはこの城の負の霊力を完全に支配しているジルエッタと明確な力が差がある。
果たしてそれぞれ1対1に分かれて戦うこの作戦はサラとジルエッタどちらの側に有利に運ぶことになるのであろうか。