75話 礼拝堂に向かう者達
「奴はあのまま地上まで落ちてしまったか……。直撃したとはいえ私の灼熱波は奴の光の障壁により大分威力を削がれてしまっていたはずだ。念の為地上まで奴の生死を確認し……っ!。こ……この霊力はまさかっ!」
光の障壁を破られフルレイムの灼熱波の一撃を喰らったグナーデはその衝撃で屋上の外まで吹き飛ばされ7階分以上の高さから地上まで落下し地面に叩き付けられてしまっていた。
その地上の地面に仰向けに倒れるグナーデの姿を屋上から見下ろすフルレイムであったがここからではグナーデの生死までは分からなかったようだ。
念の為地上まで確認に向かおうとしたのだがその時礼拝堂の方から凄まじい霊力が解き放たれるのを感じ取り、慌ててそちらへと意識を向けた。
「この凄まじい霊力はまさかジルエッタ様が終焉霊魂を蘇らせる儀式を……。既にサラを倒し冥王星の星の欠片を奪取したということか……いやっ!。この霊力はジルエッタ様のものではなく間違いなくサラのものだ。だが何故サラが終焉霊魂の儀式を……まさかっ!」
フルレイムの感じ取ったのはまさにサラが4時44分の時刻にこの地に満ちる月の霊力と自身の魔力を同化させて終焉霊魂を蘇らせる儀式を行った時のものであった。
その霊力の波動がジルエッタのものではないと瞬時に感じ取ったフルレイムは胸に大きな不安をよぎらせ最早グナーデの生死のことなど気にもしない様子で慌てて礼拝堂の方へと向かって行く。
それだけ一大事の事態が起きていると感じたのだろうがそれはちょうどその頃テリーを破ったグレイリッヒも同様で……。
「……っ!、この感覚はまさか……くっ、ジルエッタ……っ!」
グレイリッヒもフルレイム同様に何か緊急の事態が起きたといった様子で慌てて礼拝堂の方へと向かって行く。
どうやらジルエッタの死霊である2人は先程の霊力の波動からサラがジルエッタの終焉霊魂の儀式を乗っ取り何者かの魂をこの世に蘇らせたことを悟っていたようだ。
それはつまりジルエッタの身に不測の事態が起こったことを知らせるものでもある。
主の窮地を救う為グレイリッヒとフルレイムは急いでジルエッタの元へと駆け付けなければならなかった。
一方フルレイムの攻撃を受け地上に落下したグナーデは……。
「ぐっ……ぐうぅっ……」
7階もの高さから落下しその身を地上に叩き付けられたグナーデだったがどうにか一命を取り止めていた。
どうやらこの時代の者達はその身に宿した魔力によりその肉体も相当頑丈なものへと強化されているようだ。
更に聖騎士の称号を持つグナーデの魔力量がとてつもなく優れていたこともあったのだろう。
しかし流石にグナーデといえどもフルレイムの灼熱波の直撃を受けた上にあの高さから落下してはその衝撃とダメージにより起き上がるどころかまともに体を動かすことすらできずにいた。
虚ろな意識の中で済み切った夜空とそこに浮かぶサラに終焉霊魂の儀式の為の霊力を注ぎ込んだ綺麗な満月を見上げながらどうにかローブのポケットにしまっている錬金用保存箱へと手を伸ばそうとしたのだが……。
「ぐっ……はぁ……はぁ……ううんっ!。“ゴクッ……ゴクッ……”」
どうにかポケットから錬金用保存箱、そこから更にコンに調合して貰ったエリクサーの薬瓶を取り出し、グナーデは懸命に力を振り絞ってそれを口へと運んでいく。
そして少し口元からこぼしながらも一気にエリクサーを飲み干していき……。
「ぷはぁ……ふぅ……ふぅ……」
エリクサーの効果が効いたのかグナーデは乱れた呼吸を少しずつ整え引き攣った表情も和らいでいく。
暫くして無事上半身も起こすことができた様子でどうにか歩ける程度には体が回復したようだ。
だがエリクサーや他のポーションもそうだが服用した者の肉体がその効果を受け付けるのが限界があり、ポーションに付与された効果にもよるが大抵1日に服用者が効果を得られるのは薬瓶の1本分のポーションまでとされている。
それ以上はいくら服用しても思うような効果が得られない上に場合によっては肉体に負荷が掛かり逆に体調を崩してしまうこともあり得る。
グナーデもエリクサーの効果により自身の肉体が回復できるのはここまでと判断し、錬金用保存箱にはまだ予備のエリクサーが残されていたがそれ以上服用しようとはしなかった。
そしてまだ満身創痍の状態でありながらグナーデは自身と共に地上に落下した剣を手に取りコン達の元に向かおうとするのだった。