7話 終焉霊魂を持つ少年……その名は神霊魂っ!
「なっ……こ、これはまさか……。私の灼熱の恒星を片手で受け止め……」
「こ……こいつはさっきの死霊のガキじゃねぇか……。こんなガキに受け止められるなんて……時間を掛けて詠唱しておいてなんてショボイ威力の魔法を撃ってやがるっ!」
「違うわ……ジェイスっ!。彼の魔法には確実にバリアどころかサラ諸共消し去るだけの威力が込められていたはず……。それを片手で受け止めたこの子供の方がどうかしてるのよっ!」
「何っ!」
「そ……それにこいつさっきまで全裸だったはずなのにいつの間にか凄げぇ衣装を着た格好に変わってやがるぜ……。一体どこからこんな服を持って来やがったんだ……」
先程ジェイスに腕を斬り落とされ成す術もなく逃げ帰ったはずの死霊の少年……。
突如として目の前に現れたその少年の格好は全裸であったこれまでとは一転、白く輝くローブに身を包んだものへと変わっていた。
その両肩にはよく羽衣を纏って描かれた女性と同じく、長い帯状の絹でできた布を左右へと垂らすようにして掛けられており、その布にはそれぞれ色の違う8つの宝石の装飾が施されていた。
その美しい装飾の施された布を少年はまるで魔を払う力を持つ神具のように宙へと舞い上がらせて纏っており、その神秘的な姿は何かとてつもない力を感じさせるオーラを周囲に向けて止めることなく撃ち放っていた。
更には灼熱の恒星という最上級の威力を誇る魔法を軽々と受け止めてしまった力強い姿に、ジェイス達は完全に威圧されてしまい身動きが取れなくなってしまっていた。
「マスターっ!」
「待たせてごめん……フォンシェイ」
「……あなたは……」
「ちょっと待ってください……サラさん。……はあっ!」
“パシューーンッ!”
「……っ!、わ、私の灼熱の恒星の魔法が完全に掻き消されてしまった……っ!。そんな馬鹿なことが……っ!」
「……っ!、今のは……」
「今のはマスター得意の魔力中和ですっ!。マスターは相手の魔法の属性とその込められた魔力量を瞬時に見極め……、こちらもその性質を打ち消す魔力を注ぐことにより相手の魔法を完全に無効化することができるのですっ!」
「………」
少年に呼び出された精霊であるフォンシェイは自分達を助けるように駆け付けてた少年の姿を見て喜びを露わにしていた。
しかし記憶を失った状態の少年しか知らないサラにはまだ状況を完全に把握できておらず、魔力中和という少年の力を目の当たりにし感心……そして少し緊張していると思える態度で少年との会話を始めた。
「初めまして……さっきまで訳も分からず迷惑ばかり掛けてごめんなさい、サラさん。僕はこの世界から約1億年前……西暦2041年と呼ばれる時代の世界から蘇えった神霊魂といいます」
「神の……霊魂……ですか。それはあなたが神の御霊を持つ……ということを示す名ですか……」
「そ、そんな大そうな……。父さんと母さんも多分苗字と合わせてそんな意味になるよう名前を付けたんだと思うけど実際に神様の魂なんて持ってませんっ!。それにちょっと名前の区切り方が違いますっ!」
「そうですか……。では神の霊魂……」
「そ……その呼ばれ方だとしっくりこないからさっきのフォンシェイと同じようにコンって呼んでくださいっ!」
サラへの自己紹介で少年は自身のことをコンと呼ぶように促す……。
コンのその親しみやすい雰囲気にサラの緊張もすぐ解れたようで、少し流暢になった口調でコンに更なる疑問を投げ掛けていった。
「ではコン……。どうやら我々を助ける為にこの場へと駆け付けてくれたようですが……もうあなたの生前の記憶……そして本来の力を取り戻したということですか……」
「はい……確かにある程度の記憶は取り戻すことはできました……。今は自身がサラさんの死霊として蘇ったこともしっかりと理解できています……」
「それは良かった……。私もあなたを不完全な状態で蘇らせてしまったことをずっと気に掛けていたのです……」
少年が生前の記憶を取り戻し、死霊としての力も無事機能するようになったことを知りサラは肩の荷が下りホッと安堵したような仕草をしていた。
どうやら少年を不完全な死霊の状態で蘇らせてしまったことに対してかなりの責任を感じていたようだ。
ジェイス達の世界でサラは悪名高い指名手配犯のようだが、少なくとも死霊術師として高い意識と自覚を持っていることが窺える。
「だけどこの……フォンシェイを呼び出したり一瞬でこの場に移動することができたり、そして魔力中和によって相手の魔法を撃ち消したり……どうして僕がこんな力を持っているのかがよく分からないんです」
「それはまだあなたがその記憶を完全に取り戻していないということですか……」
「いえ……この力に関しての記憶はもう完全に戻っています……。だけどこの力は僕達の世界のNEVER FORGET YOUR SOULというVRMMO……。所謂空想の世界でのみ持つ力のはずで現実の僕が使えるはずがないんですっ!」
「NEVER FORGETにVRMMO……それに空想の世界……。申し訳ありませんが私にはあなたの言葉の意味がよく……」
サラはコンの話に出てくる言葉の意味をほとんど理解できていない様子で、コンもそれは仕方のないことであることを承知していたようだ。
自身の言いたいこともっとよくサラに伝えたいのは山々だろうがまだジェイス達に命を狙われている状況は続いており……。
「そうですよね……。僕ももっとちゃんと説明したいですけど今はこの状況をなんとかしないと……フォンシェイっ!」
「はいっ!、マスターっ!」
「サラと一緒に安全な場所へ……。僕がこいつ等を片付けるまでそのバリアを維持してサラさんを守ってくれっ!」
「かしこまりましたっ!、マスターっ!」
「……っ!、待ってくださいっ!。まだ完全に記憶も戻っていないというのにあなただけでこの者達の相手……」
単身でジェイス達の相手をしようとすると言い出したコン……。
その無謀な行動を止めようとするサラであったが、コンの命令を受けたフォンシェイによりその場から退避させられてしまった。
宙を移動するそのバリアの中からサラは不安げな様子でジッとコンのことを見つめていたが、教会の奥へと運ばれるにつれ段々とその姿が遠くなっていってしまう……。
元々コンの実力を知る為に一人でジェイス達の相手をさせようとしたサラであったが、自身の死霊術の儀式が不完全なものであった負い目と予想を遥かに上回るジェイス達の実力を前にその身を案じずにはいられなかったようだ。
「よし……ここまで離れていれば戦いに巻き込まれることはないでしょう」
「本当にコン一人に任せて大丈夫なのですか……フォンシェイ……。力を取り戻したようであるとはいえ私の死霊術の儀式が不完全であったことに変わりありません……。それにあのジェイスという者達も私の予想を遥かに上回る実力を持っていました……」
「心配なさらずとも大丈夫ですっ!、サラ様。マスターならばあの程度の相手一分も立たない内に全滅させてしまうはずですっ!。ですからどうかマスターの指示に従ってこの場から動かずにいてくださいっ!」
「そうですか……」
コンにサラの死霊としての自覚が芽生えた影響が、コンに召喚されたフォンシェイのサラに対する言葉もより敬意のあるものへと変わっていた。
そんなフォンシェイの力強い言葉を信じ、サラもこの場からコンの戦いを見守ることに納得したようだ。
とはいえいざとなれば今度はコンを助ける為自身の方が掛け付ける覚悟もしているだろうが……。
そしてサラ達が無事退避したのを確認したコンと、突然の出来事から気を引き締め直したジェイス達の戦いがいよいよ始まろうとしていたのだが、果たしてフィロソファーとして覚醒したコンの実力は如何なるものなのだろうか……。