67話 ぶつかり合うコンの怒りとジルエッタの怒り……
「どうやら無事彼女の目を盗んであの場から抜け出すことができたようですね……はあっ!」
コンが閃光弾の効果のある爆液薬のポーションで中央のフロアから城の東側へと通じる廊下へと抜け出すことに成功したサラ。
その全力で礼拝堂を目指しながらジルエッタの追撃を防ぐ為死霊術を使って自身が潜って来た扉を閉めその霊力によって厳重にロックを掛けていた。
最もそんなものではこのアヴィーンガルデの城の霊力を完全に支配しているジルエッタを止めることなのできないだろうが少しの気休めにはなる。
真にジルエッタの追撃を防ぐことができるかどうかはやはりその場に残ったコンの働きに掛かっているだろうが果たして……。
「まさかサラの奴本当に私の終焉霊魂を蘇らせる為の儀式を……。それじゃあこれまで私と戦ってる振りをしながらずっと抜け出すタイミングを見計らってたってわけ……ちっ!、あの腹黒女めっ!。この私に対してそんなふざけた真似をすることが許されると思っているの……サァラぁぁっ……!」
サラの狙いに気付いたジルエッタは凄まじい怒りを露わにしてサラがロックを掛けた扉の前へと舞い下りていく。
当然自身も閉ざされた扉を破ってサラの後を追うつもりだろうが、この場に残ったコンが黙ってそれを見ているわけがなく……。
「ちっ……この程度の霊力で扉を封じたぐらいで私を止められると思っているの、サラっ!」
「待てっ!」
「……っ!」
サラの封じた扉を破ろうと自身の身に霊力を溜めるジルエッタだったが、その扉の前に立ちはだかるように正面からコンが舞い下りて来た。
サラに自身の儀式を乗っ取られようしている上にコンに足止めされたことで完全に頭に血の上ってしまったジルエッタはこれまでにない程の霊力を解き放ち……。
「終焉霊魂の子供がどこまで調子に乗って……。お前も1人でこの私を足止めしようだなんて舐めた真似をしてるんじゃないわよっ!。……邪霊の衝撃っ!」
「……っ!、ぐわぁっ!」
ジルエッタの撃ち放った邪霊の衝撃の衝撃波は目の前に立ちはだかるコンの体ごと吹き飛ばしてサラの封じた扉を打ち破る……。
そしてその凄まじい衝撃によってコンは体を扉にぶつけられながら吹き飛ばされたコンはその先の廊下の床に叩きつけられ倒れんでしまう。
その衝撃と痛みを振り払いなんとか起き上がるコンであったが、その正面の視線の先からは頂点を超えた怒りによって凄まじい霊力を纏ったジルエッタが迫って来ており……。
「く……くそっ……」
「もうただじゃ済まさないわよ……終焉霊魂の子供。サラと共にこの私の儀式を乗っ取ろうと考えるだなんて愚かにも程にもあるわ。サラの死霊とはいえ折角ハルマゲドン以前の世界から呼び出された魂だしできればサラの奴と一緒に生かしておいてやろうと思っていたけど……。こんなふざけた真似をしてくれた以上あなたのその死霊の体をズタズタに引き裂いて冥王星の欠片を引きずり出し塵になるまで粉々に打ち砕いてやるわっ!。核さえ壊してしまえば如何に不死身の死霊といえどこの世に魂を留めておくことはできないからねぇ……」
「くっ……」
「それからサラの奴もこの私をコケにした以上もう生かしては帰すつもりはない……。同じギルドに所属する死霊術師であろうとあの華奢な体を引き裂いてあの世に送ってやるわ」
「……っ!、なんだとっ!」
儀式を乗っ取ろうとした以上当然のことである分かっていたはずだが、自身だけでなくサラをも手に掛けるというジルエッタの発言に怒りを露わにするコン。
如何に彼女の感じている怒りが自分達の行動に原因があろうと主に従う死霊としてそれだけだけは絶対に許せないことであった。
城の中央から東の区画の一番端になる礼拝堂まで一直線に通じる廊下……。
その狭い空間の中でついに互いに本気となったコンとジルエッタがぶつかり合おうとしていた。
果たしてコンはサラにも匹敵する実力を持つ赤霊の死霊術師ジルエッタを相手にサラが儀式を終えるまでの時間を稼ぐことができるのだろうか。
少なくとも時間さえ稼げればいいという甘い考えで立ち向かって相手ではないということはこれまでの戦い……そして怒りを露わにしつつも決して冷静さを失わずにジルエッタへと向けるコンの真剣な表情の眼差しがハッキリと物語っていたが……。
「くっ……早くグナーデさんの援護に向かいたいというのにしつこい……」
一方その頃城の西側の区画へと続く扉を潜った後分かれ道でグナーデと別れたフォンシェイは自身を追ってくるフェリスを振り切ろうと区画中の廊下を階を越えて移動しながら必死に飛び回っていた。
しかし相手は飛行するのが専門ともいえる鳥の死霊。
その飛行速度は精霊であるフォンシェイにも匹敵し中々振り切ることができずにいた。
このままではいつまでもグナーデの元に合流することができないと焦りを感じたフォンシェイはついに戦う覚悟を決めて空中を移動しながら体を反転させ……。
「一陣の風っ!」
急遽体を反転させたフォンシェイは一陣の風の魔法を発動させ迫り来るフェリスに向けて突風を巻き起こす。
しかしフェリスは華麗に中央を舞う自身の体の角度を自在に傾けてフォンシェイの放った突風をいなしてしまい、それと同時に自身の飛行する速度を急激に上昇させフォンシェイに向けて突っ込んできた。
そのまるで小さなジェット機となったような勢いで迫り来るフェリスを体を傾け寸でのところで躱すフォンシェイであったのだが……。
「……っ!、ぐぅ……。(相手の攻撃には直接当たっていないはずなのにまるで内側から何かに焼き尽くされているように体が熱い……。やはり精霊である私の体もマスターと同じ死霊のもの……。聖属性の魔力を間近に感じただけでこれ程のダメージを受けてしまうとは……)」
まるで真っ直ぐ水平に伸ばされた翼で空と共に自身の身を斬り裂こうと突っ込んで来たフェリスの攻撃を確かに躱したはずのフォンシェイであったが、自身の真横を飛び去って行ったフェリスの巻き起こした風圧に少し触れただけで体の奥に焼けるような痛みを感じていた。
やはりコンに呼び出された精霊であるフォンシェイの体も死霊であることに変わりはなく、フェリスの体が放つ聖属性の魔力の影響を受けそうなってしまったのだろう。
ジルエッタがわざわざ聖属性の魔力を持つ聖鳥の肉体を死霊の器として蘇らせたのは相手の死霊に対抗する為に有効な手段だと考えたからのようだ。
ジルエッタはその為に長年死霊に聖属性への耐性を付与する術式の研究を行って来たようだが、器の小さい聖鳥の蘇生に成功したものの未だに人間の器と魂を持つ死霊の蘇生には成功していないようだった。
そしてフォンシェイの横を前方へと飛び去って行ったフェリスは再び体をターンさせて襲い掛かろうと向かって来たのだが……。
「滝の防壁っ!」
「……っ!」
再び迫り来るフェリスに対しフォンシェイは滝を意味する名のウォータ・フォールという魔法を発動させた。
その魔法により水に関するものは何もない廊下の天井から突如その名の意味の通りまるで滝を作り出すのように大量の水が床へと溢れ出していき、迫り来るフェイスの進撃を水流の壁となって防いでしまった。
突然現れた滝の壁に慌てて勢いづいた体を強引に止めるフェリスだったが、その滝の壁の向こうでは既にフォンシェイが更なる追撃の魔法を発動しようとしており……。
「八卦・凶方位……絶命っ!」
フォンシェイが撃ち放ったのは風水の八卦の陣により最も運気が低いとされる方位を意味する絶命と称された魔法。
その八卦・凶方位・絶命の魔法の発動共に滝の防壁によって出現した滝の壁は消え去り、フォンシェイの前に出現した巨大な風水盤の模様を模った魔法陣から先程の一陣の風とは比べ物にならない程の広範囲渦巻く水流を巻き込んだ爆風をフェリスに向けて撃ち放った。
その爆風の範囲は城の廊下を全て覆い尽くすどころか収まり切らないといったばかりに石造りの天井や壁をも震わし、流石のフェリスも成す術がなく爆風の渦に呑まれ廊下の先の壁に叩き付けられるまで凄まじい勢いで吹き飛ばされて行ってしまった。
そしてその壁にぶつかった衝撃で地面に叩き落とされたフェリスはそのまま意識を失ってしまい……。
「よしっ……これでグナーデさんの元に向かうことができます。しかし私が逃げ回っている間にグナーデさんとあの魔術師の女の死霊は一体どこに……。とにかく城中を駆け回って探すしかありませんっ!」
無事フェリスを退けたフォンシェイはグナーデを探すべく城中を飛び回って行った。
グナーデはフェリスよりも更に強大な力を持つフルレイムに追われている。
そのことを考え逸早くグナーデと合流しようとフォンシェイは必死で城中を探し回るのだったが……。




