62話 戦闘開始っ!、グナーデVSフルレイム、テリーVSグレイリッヒっ!
「グ……グナーデさんっ!」
「………」
フルレイムの紅焔の火球を一太刀の斬撃により打ち払ってしまったグナーデ。
その光景に驚くコン達だったがそれは魔法を撃ち放ったフルレイムの同様だった。
言動に出さなかったが明らかに意識した視線を魔法を打ち払った後で華麗に着地するグナーデへと向け……。
「へぇ……今のフルレイムの紅焔の火球を一撃で打ち払ってしまうなんて……。流石は聖職者ギルドの聖騎士さんね……」
「悪いが貴様の相手はサラではなくこの私だ……フルレイムとやら」
「………」
“バッ!”
「ふふっ、どうやらフルレイムの方もやる気になったようね」
地面へと着地したグナーデは立ち上がると共にその聖なる光を放つ剣の刃を上の階のギャラリーからこちらを見下ろすフルレイムへと突き立てるようにして向けた。
そんなグナーデの挑発に乗ったフルレイムはギャラリーの手すりを華麗に飛び越えると共にグナーデの元へと舞い下りていき、戦いを受けて立つと言わんばかりの表情でグナーデのことを睨み付けていた。
「ぐぅっ……。(や……やっぱりグナーデさんの聖属性の魔力はとてつもなく凄い……。僕に向けて放たれてるわけじゃないのに少しでも気を抜いたらあっという間に死霊の体ごと魂をこの世から消滅させられてしまいそうだ……。だけど普段は僕の気遣ってなるべく聖属性の魔力を抑えてくれているグナーデさんがこれだけの魔力を解放しているということは……)」
「(やはりこのコンシエンシアの肉体を得たフルレイムはあのグナーデが本気にならざるを得ない程の力を秘めている……。しかも死霊であるにも関わらずグナーデのあの聖属性の魔力を正面から受けて微動だにしないとは……。一体ジルエッタはどうやってこれ程のまでに強力な聖属性耐性の術式を完成させたというのです)」
「今の魔法を破ったぐらいであまり調子に乗るなよ……聖職者ギルドの聖騎士……」
「別に調子に乗ってなどいない。ただ私がお前の相手をすることは予めこちらで決まっていたことなのでな……コンっ!」
「……っ!、テリーちゃんっ!」
「うぼぁっ!」
「……っ!」
事前の予定通りフルレイムの相手を引き付けたことに成功したグナーデは次はグレイリッヒの番だと言わんばかりにコンに合図を送った。
するとそのコンの指示を受けたΩテリウムのテリーは突然口を大きく開いたと思うと、その口内に凄まじいエネルギーの込もった球体を作り出した。
そしてその球体を弾丸のように勢いよくグレイリッヒに向けて撃ち放ち……。
「……ふんっ!」
“バアァァァンっ!”
「……っ!、うぼぁっ!」
テリーが放ったの普段怠けていることで自身の身に蓄えたやる気を風属性の魔力と掛け合わせて放つ気力の球という技の弾丸。
しかしその凄まじい威力とスピードで撃ち放たれて来た気力の球の弾丸をグレイリッヒはなんと片手を軽く振っただけで横側へと弾いてしまった。
弾かれた気力の球の弾丸は城の横側の2階の壁へと直撃し、凄まじい衝撃音と共に壁を大きな穴を開けて打ち壊してしまっていた。
それだけの威力を誇る弾丸を軽く弾いてしまったグレイリッヒに技を放ったテリーも含めて驚くコン達だったが、そんなコン達に対しグレイリッヒは……。
「………」
「そんな……テリーちゃんの気力の球の弾丸をあんなに易々と……それも片手で弾き飛ばすなんて……」
「うぼぁ……」
「……ふんっ!」
“バッ!”
「うぼぁっ!」
テリーの技を弾き飛ばしたグレイリッヒは上下がつなぎとなっている自身の服の上半身の部分のチャックを開くとそのまま袖も脱ぎ、よく夏場に建築現場の作業員達がしているように腰に巻きつけてしまった。
そして上半身が黒のタンクトップ1枚の姿となった状態で後ろの壁に立てかけてあった両手持ち用の大きな銀のハンマーを手に取ると、フルレイムと同じように華麗にギャラリーから飛び出してテリーの前へと舞い下りて行った。
そして自身に挑発するように気力の球の弾丸を放って来たテリーへと鋭い視線を向け……。
「………」
「うぼぁ……どうやらこっちも僕とやる気になったようだうぼぁ……っ!」
「よしっ……予定通りこいつ等の相手は我々は引き受ける……サラっ!、コンっ!」
「グナーデさん……っ!」
「分かりました……では頼みます」
“バッ!”
グナーデとテリーは上手く敵を挑発しそれぞれフルレイムとグレイリッヒをこちらの誘いに乗せることに成功した。
しかしあまりにも簡単に誘いに乗って来たところを見るとジルエッタの方も元々2人にサラ以外の相手を務めるよう命じていたのかもしれない。
そしてグナーデの頼もしい言葉に促されたコンとサラは城の入り口の扉の上……。
今ジルエッタが立っている場所とこの広間の周囲に沿って繋がった2階のギャラリーへと舞い上がっていき、その向かいに立つジルエッタと共に1階の間で対峙するグナーデとテリー達の様子を見守っていた。
サラだけでなくコンもギャラリーへと上がったところを見るとどうやらジルエッタの相手は2人でするつもりのようだが……。
「よしっ……それじゃあフォンシェイはグナーデさんに付いてあげて。接近戦が得意のグナーデさんだけど敵の魔法で距離を取って戦われると対処に困るだろうからフォンシェイが上手くカバーしてあげるんだよ」
「畏まりましたっ!、マスターっ!」
「ふっ……ならフェリス。あなたはフルレイムのサポートに付いてあげなさい。あの聖騎士に付いた精霊に好きにやらせちゃ駄目よ」
コンがフォンシェイをグナーデに向かわせたのを見てそれに合わせるようにジルエッタも聖鳥の一種であるサンクトゥーイスの死霊であるフェリスをフルレイムのサポートへと向かわせる。
そして互いに戦いの準備が整ったところでまずはフルレイムの方が……。
「………」
「……っ!、奴の両手から炎が……それどころか凄まじい火の魔力が奴を包み込んでいく……」
フルレイムは自身の両手をまるで永遠に形の消えない蝋燭にでも変えたかのように赤々と燃える炎をその手に灯していった。
そしてそれと同時に全身から凄まじい火属性の魔力を赤いオーラへと変えて纏っていき、まるで熱気球にでもなったかのようにゆっくりと体を宙へと浮かせていった。
そして地上に見下ろすグナーデに向けてその手の炎をまるで火炎放射器のように撃ち放ち……。
「くっ……」
「ふんっ……躱したか……。だけどこれで終わりだと思ったら大間違いよっ!」
「……っ!、何っ……!」
咄嗟に反応してフルレイムの撃つ放って来た炎を躱すグナーデだったが、休む間もなく今度はもう片方の手から放たれるフルレイムの炎が襲い掛かってくる。
更にその炎を躱せば再びもう片方の手の炎が……。
決して消えることのない両手に灯った炎をフルレイムは際限なく……そして相手に反撃の隙を与えることなく連続して撃ち放つことができるようだ。
なんとか炎を躱しつつも反撃の手立てがないグナーデは段々と城の入り口を入って右側の扉がある壁の方へと追い詰められていき……。
「くっ……これが決して燃え尽きることない蝋の体を持つと言われるフルレイムの蝋炎と呼ばれる魔術の力か……。紅焔の炎ではないようだがこれでは……」
「どうしますかっ!、グナーデさんっ!」
「(如何に強力な魔法といえど死霊として蘇った者が放つもの……。私の聖属性の魔力を解放すれば先程の火球のように打ち消すことも可能だろうがコン達のいるここでは……)」
「ふっ……とうとう追い詰めたぞ……聖職者ギルドの聖騎士……はあっ!」
「くっ……ここは一度退避するぞ、フォンシェイっ!」
「分かりましたっ!、グナーデさんっ!」
「……っ!」
フルレイムの尽きることなく撃ち放たれて来る蝋炎の炎に追い詰められたグナーデとフォンシェイは思わず目の前の扉へと逃げ込み城の西側のエリアの廊下を奥へと走り去って行った。
それを見たフルレイムはジルエッタに確認を求めるように横目で視線を送っていたが……。
「構わないわ……奴の後を追いなさい、フルレイム。そして私とサラの戦いの邪魔をしに戻ってくることないようあなたの炎で奴の体を全て焼き尽くしてしまうのよ」
「畏まりました……ジルエッタ様」
「よしっ……どうやら奴も追って来ているようだな……。ならば次の廊下を左に行きお前は私と別れろ、フォンシェイ。コンの呼び出した精霊とはいえお前も死霊であることに変わりはない。私の聖属性の魔力に巻き込まれないようお前はなるべく私と離れて奴の背後から攻撃を仕掛けてくれ」
「了解しましたっ!」
ジルエッタの了承を得たフルレイムも依然として体に纏った火の魔力によって宙を移動しながら扉に逃げ込んだグナーデの後を追って行った。
グナーデにはサラ達からフルレイムを引き離す目的もあったのだろうが、恐らく自身の聖属性の魔力に死霊であるコンとテリーを巻き込みたくなかったのだろう。
扉を潜った先の廊下でも分かれ道となるや否や精霊とはいえ今はコンと同じく死霊としての体を持つフォンシェイにすぐさま自身から離れるよう指示を出していた。
そしてグナーデ達がいなくなった広間では今度はグレイリッヒがテリーに向かって……。
「ふんっ!」
「うぼぁっ!」
「……っ!、何っ……!」
テリーに向けて一気に距離を詰めて飛び掛り両手に持ったハンマーを振り下ろすグレイリッヒだったが、なんとテリーはそのハンマーの打撃面を左手のみで掴んで受け止めてしまった。
その強靭なパワーはあの寡黙なグレイリッヒにも低く呟くようなものであったが思わず驚きの声を上げさせる程であった。
そしてテリーはグレイリッヒのハンマーを受け止めた状態で空いた右手を勢いよく突き出し……。
「うぼあぁぁぁーーーっ!」
「ぐはぁっ!」
両手で持ったハンマーを受け止められ無防備な状態となったグレイリッヒに対しテリーは正拳突きの要領でその胸部目掛けて凄まじい威力の掌底を放ちグレイリッヒを大きく吹き飛ばしてしまった。
グレイリッヒはそのまま巨大な体を後方の壁へを打ち破って叩き付けられ、破れた壁の向こう側に倒れ込んでしまった。
そしてその崩れた壁の瓦礫を除けながらなんとか立ち上がったと思うと……。
「うぼあぁぁぁーーーっ!」
「……っ!」
“バアァァァーーンっ!”
ようやく立ち上がったグレイリッヒだがその瞬間突如目の前の視界が凄まじい光に包まれたと思うと、まるで強力なビームのように巨大な質量を持ったその光の直撃を受け更に城の壁を何枚も破って奥へと吹き飛ばされてしまった。
その光のビームはまさにテリーがグレイリッヒに向けて撃ち放ったもの……。
これまで自身の蓄えて来たやる気を先程の気力の球と同じように今度は光属性の魔力と掛け合わせて放つ気力の閃光であった。
一瞬の内に分厚い石造りの城の壁を何枚も打ち破ったテリーの凄まじい力にグレイリッヒの主人であるジルエッタも思わず口を開いて驚いてしまっていたが……。
「これが終焉霊魂が呼び出した精霊の力……。あのグレイリッヒの剛腕を上回る力を持つ上にあんな技を放つことができるなんて……」
「うぼぁ……」
「何してるのっ!、テリーちゃんっ!。折角敵を追い詰めてるんだから今の内に早く追撃を仕掛けないとっ!」
「うぼぁ……そんなに焦らなくても今行くから大声で怒鳴らないでくれうぼぁ……コン。……よいしょっとうぼぁ」
コンに急かされたテリーは嫌々ながらも自身が破った壁をゆったりとした仕草で乗り越え、グレイリッヒに追撃を仕掛けるべく向かって行った。
既に今の攻撃で相当なダメージを負わせることができているはずだが……、テリーの力に驚きながらもジルエッタがグレイリッヒのことを心配している様子のないところを見るとやはりまだ倒し切れてはいないということなのだろうか。
そして遂にこの場にはコンとサラ……そしてサラの因縁で相手であるジルエッタのみが残されたわけだが……。