61話 火と光の根源級の魔力を持つ死霊……その名はフルレイム
「さて……邪魔な子供もいなくなったことだしそろそろ始めましょうか……サラ」
「ええ……そうですね……ジルエッタ」
「………」
「……っ!、まさか死霊の姿は……っ!」
「……?、どうしたの、サラさん」
リンカを避難させ目の前に立ちはだかるジルエッタへと視線を向けるサラ。
しかしその時ジルエッタと共にこちらを見下ろす赤い髪の魔術師の女の死霊の姿を見たサラは何かに気付いたように驚いた表情を浮かべていた。
そのサラの様子に気付いたコンが何があったのか問い質すと……。
「宿屋でコンを襲ったというあの魔術師の死霊……あの女性の姿はまさかコンシエンシア・メンテ・エスペランザ……」
「コンシエンシア・メンテ・エスペランザだとっ!。それは本当かっ!、サラっ!」
「だ……誰……そのコンシエンなんとかさんって……」
サラのコンへの回答を聞き驚きの声を上げるグナーデ。
そんな2人の反応にコンの方は戸惑っていたが、どうやらこの時代の者にとってコンシエンシア・メンテ・エスペランザとは名を聞いただけ驚く程の人物であるようだ。
しかしエスペランザといえば前にサラが屋敷に帰る為に立ち寄ると言っていたソシエゴの港があるというエスペランザ神国と同じ名であるが……。
「コンシエンシア・メンテ・エスペランザは第13代エスペランザ神国の神女王であるトレランシア・メンテ・エスペランザの3番目の娘です……」
「ええっ!、それじゃああの魔術師の死霊の女の人はそのエスペランザ神国の王女様だったってことぉっ!」
「ええ……光の根源級の魔力の系譜を持つ代々のエスペランザ家の中でも最たる才を持っていたと謳われながら18歳という若さで病により非業の死を遂げてしまった悲しき人物です。100年前に起きたエスペランザ神国とアンファングの戦争で目まぐるしい戦果を上げ彼女の王位継承は確実と言われていただけにトレランシア女王、それにエスペランザ神国の全ての民が彼女の死を嘆いたと聞きます」
なんとその魔術師の女の死霊は今もコン達が目指しているここから更に東に行ったところにある国、今から100年以上前に亡くなったエスペランザ神国の王女、コンシエンシア・メンテ・エスペランザの姿をしているという。
根源級の魔力とは通常のものとはその魔力量どころか性質まで違うものとされているこの時代で最大級の力を持つ魔力のことである。
根源級の魔力は日頃の修練やその他の人為的な手段では身に就かず生まれ持っての才能によってのみその身に宿すことができ、1つの属性の魔力を宿すものはその他の属性の魔力を一切使用することができなくなってしまう。
根源級の魔力を宿す者は皆100年に1人の逸材と称され、この時代に生きている……約10億人の人口の中でその数は1000人にも満たないと言われている。
代々エスペランザ神国の神女王の地位に就くエスペランザ家は本来遺伝による影響を受けないとされているはずの光属性の根源級の魔力を受け継ぐ稀少な一族である。
「で……でもなんでそんな凄い人があいつの死霊なんかに……」
「いえ……あそこにいるのはあくまでコンシエンシア・メンテ・エスペランザの保存死体を器とした死霊で宿っている魂はまた別の者です。コンシエンシア・メンテ・エスペランザの保存死体は当時のアンファングとの戦争でエスペランザ神国の側に加担していた我々のギルドへの報酬として差し出されたものであるのですが……まさかギルドから彼女の死霊の器にする許可が下りていたとは……」
「ふふっ……一目でこのフルレイムの肉体がコンシエンシアのものだと見抜くとは流石の記憶力ね、サラ。まぁ、コンシエンシアの保存死体は私達のギルドの保持しているものの中でも最と言っていい程価値の高いものだったし覚えていない方が不自然とも言えるけど」
「……っ!、フルレイムですって……っ!。では彼女の魂に宿っているのはあの……」
「こ……今度は何……サラさん。もしかしてそのフルレイムって人もコンシエンシアさんに負けず劣らずの凄い人なの……」
「フルレイム……まさか500年前に火属性の根源級の魔力を持ち灼熱の炎術師と呼ばれた伝説の炎術師……フルレイム・フィア・クリアファインのことかっ!」
「ええ……もし本当にそのフルレイムだとしたら……。まさか彼女は光の根源級の魔力の持ち主の肉体に火の根源級の魔力を持つ魂を宿した死霊っということに……」
コンシエンシアの姿に続いて今度はその肉体に宿る魂であるフルレイムという名に驚くサラとグナーデ。
フルレイムもまた500年前に火属性の根源級の魔力を持つ魔術師として存在していた者だ。
つまりあの女の魔術師は光属性の根源級の魔力を持つ者の肉体に火属性の根源級の魔力を持つ者の魂を宿している死霊ということになる。
互いに違う属性の根源級の魔力を持つ者を掛け合わせようとた場合、その魂と器となる肉体が拒絶反応を起こしてしまい、今まで如何に優秀な死霊術師でもそのような死霊の蘇生に成功した者はいない。
そして仮に死霊として蘇らせたとしても2つの属性の根源級の魔力を完全に制御するだけの力を持たせることが可能であるかどうかさえ未だに分かっていはいないのだが……。
「ふふっ、そのまさかよ、サラ。昨日の宿屋でも少し話たけど私がアマーレの国との戦争にエレの国に加担する任務を受けたことはあなたも知っているでしょう。その戦争で絶大な戦果を上げて見返りに思い切ってギルドの上の連中にコンシエンシアの保存死体とフルレイムの霊媒となる遺物を差し出すよう発破を掛けてやったのよ。あれだけ戦果を上げてやったのにこの程度の報酬も差し出せないようならギルドを抜けさせて貰う……ってね。そしたら連中渋々私にその2つを差し出してきたわ。それでその日の内に儀式を行ってコンシエンシアの肉体を持ったフルレイムの死霊をこの世に蘇らせたってわけ」
「そんな馬鹿な……。根源級の魔力を持つ者はその1つの属性の魔力のみを強大に宿す代わりに他の属性の魔力は一切使用することができないはず……。いくら死霊だと言っても2つの根源級の魔力を併せ持つなどということが……」
「ええ……あなたの言う通り本来ならあり得ないことです、グナーデ。我々死霊術師の長い歴史の中でも器と魂……それぞれに違う属性の根源級の魔力を持つ死霊の蘇生に成功した者はいませんでしたが……彼女はその歴史を打ち破ってしまったようです」
「ぐっ……そんなことが……」
「サラ……お前は私をこのような素晴らしい器へと蘇らせて下さったジルエッタ様に匹敵する程の実力を持つ死霊術師だと聞いている。このコンシエンシアという者の持っていた光の根源級の魔力のおかげで得たこの新たなる力でそれを確かめさせて貰うことにしよう」
「……っ!、あれは……」
ジルエッタからも直々にコン達に向けて紹介されたフルレイムは突然その魔力を解放し、頭上にまるで太陽のような輝き……そして高熱を帯びた巨大な火球を作り出した。
それは通常の火球を作り出す火属性の魔法、ファイヤーボールとは桁違いの威力を誇っているだけでなく全く違う性質を持っていることをコン達は感じ取っていた。
その性質とはまさに大地を照らす太陽の光の熱気そのもののようで……。
「あ……あれはまさに紅焔の秘術を用いた魔術……。それもあれ程巨大な火球を作り出すとは彼女は本当に火と光の属性……そのどちらの根源級の魔力も使いこなしているというのですかっ!」
「あ……あれじゃあまるで小さな太陽みたい……ってそうかっ!。紅焔って確か太陽の周りに立ち昇ってる炎のことだっ!。じゃああいつは太陽の熱さと同等の力を持つ魔法を使えるってことっ!」
サラの言う通り今フルレイムが生み出した小さな太陽のような火球は火の属性の魔力に光の属性の魔力を掛け合わせて使用する紅焔の魔法、紅焔の火球である。
それも只の紅焔の魔法ではなく火と光の属性……その両方の根源級の魔力によって作り出された絶大な威力を誇る紅焔の火球である。
紅焔とはコンの言う通り確かに太陽に周りに赤い炎が立ち昇って見える現象のことだが、実際には炎ではなく太陽の磁力線に沿って立ち昇ったガスのことである。
しかしながらまるで太陽から発せられた炎のように凄まじい熱度を持つことから紅焔という魔法の名が付けられたようだ。
そしてその火と光の属性の根源級の魔力によって生み出された魔法の凄まじさに驚くコン達に向けてフルレイムは巨大な紅焔の火球の火球を撃ち放ってくるのだったが……。
「くらえ……」
「……っ!、来るよっ!、サラさんっ!」
「くっ……しかしあれだけの魔術をそう簡単に防ぐことは……」
「僕に任せてっ!。光属性が混ざってるって言っても火属性の魔法なら水属性の魔法で対抗すれ……」
「はあぁっ!」
「……っ!、グ……グナーデさんっ!」
まるで太陽が落下してくるようにコン達に向けて迫ってくるフルレイムの紅焔の火球……。
このままその太陽に押し潰され肉体を全て焼き尽くされてしまうよ思えるような光景にサラは思わず絶望に近い感情さえ抱いてしまっていた。
しかしそんなサラを自身の主として守るのが僕である死霊の役目で言わんばかりにコンはフルレイムの紅焔の火球の火球に対し水属性の魔法で対抗しようとしたのだったが……、
その時突如としてグナーデが紅焔の火球の火球の前へと飛び出して行き腰に携えた剣を抜いたと思うと、その力強く振り抜かれた鋭い斬撃により紅焔の火球の火球を切り払って打ち消してしまった。
まさかの剣による斬撃だけであの巨大な火球を打ち消してしまったグナーデに驚くコン達であったが、そのグナーデの剣の刃はグリーミーの屋敷へと向かう坑道内で見せたとのと同じく聖属性の魔力の光を輝かしく撃ち放っていた。