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5話 呼び出された精霊……その名は羅・風水(ラ・フォンシュェイ)

 骨を折られた者達はその激痛に悲鳴を上げながら地面へと倒れ込んでいたのだが、ジェイスや弓術士の女性、他にもメンバーの中でも屈強と思われる者達はそのサラの死霊術ネクロマンシーに耐え切ったのか、足の骨が折れることもなく無事な様子だった。


 そしてそのサラの死霊術ネクロマンシーに耐え切った者達は自力で黒い手を振り切り、再びサラを追い詰めるべく向かって行くのだった。


 「くっ……死霊術ネクロマンシーを使ったこんな気持ち悪い手なんかにいつまでも捕まってられるか……。てりゃぁぁぁぁーーーっ!」

 「……っ!。何人かの者達が私の怨念の手グラッジ・ハンドから抜けた……。やはり儀式の為に“負の霊力”を浄化してしまっていた為思うように術の力を引き出せていないようですね……。かといって“正の霊力”の方も終焉霊魂を呼び出す際にほとんど消費してしまい、今この場にはまともに死霊術ネクロマンシーを使う為の霊力が不足している……。ここは霊力が十分な場所へと移動するべきか……」


 “ダダダダダダッ”


 「追い詰めたぜっ!、サラっ!」

 「………」


 階段を上ってやって来た者達がギャラリーにいるサラを追い詰める……。


 しかしその勢いのまま攻撃を仕掛けることはなく冷静さを取り戻したジェイス達は上手く連携を取って逃げ場をなくしたサラを確実に仕留めようと……。


 「よし……っ!、皆さんその場にサラを追い詰めておいてくださいっ!。今私が魔法で止めを……バーン・フレイムっ!」

 「……っ!」


 “バアァァァァァァァンッ!”


 ギャラリーに追い詰められたサラに向けて今度は地上にいた魔術師の女が“バーン・フレイム”という魔法により巨大な炎のかたまりを撃ち放って来た。


 ギャラリーには他の斧や槍を構えた者達が待ち構えており、攻撃をける為飛び上がるも逃げ場を失ったサラは再びジェイス達のいる地上へと下りるしかなかった。


 一方サラにかわされたバーン・フレイムの魔法はそのまま後ろの窓ガラスを打ち破り、硝子ガラスの破片の飛び散った周囲の床には凄まじく燃える炎が巻き起こっていた。


 もしサラに直撃していたらその身を完全に焼き尽くされていたに違いない……。


 「まさかこれだけ強力な魔法を習得している者までいるとは……。どうやら“魔術師ギルド”の者達も従えて来ていたようですね」


 魔術師ギルドとは魔術の研究をする者達が集まった組織のことである。


 ジェイス達の所属している冒険者ギルドとは違い、自ら利益を上げる必要はなくその活動は完全に外部からの支援によって成り立っている。


 その支援者は主に魔術の発展に寄与することに意義を感じている富裕層、自国に強力な魔術とそれを操る魔術師を確保しておきたい各国の政府、自分達の戦力としての魔術師を得る為にジェイス達の所属してる冒険者ギルドが支援している場合もある。


 だが好戦的な性格の冒険者ギルドの者達と、戦闘をこのまず魔術の研究にいそしむ魔術師ギルドは仲が悪いことが多く、ジェイス達のように冒険者ギルドの者達が魔術師ギルドの魔術師を従えて連れてくるのは珍しい。


 それだけにサラはジェイス達のパーティの質の高さに感心させられていたようだ。


 「ぐっ……あ、足が……痛てぇ……」

 「待っていてください……。今私の魔法であなた達の傷を……治癒ひーるっ!」


 “パアァァ〜〜ンッ”


 「……っ!、おおっ!。完全に折れていた俺の傷が一瞬にして治ったっ!。やっぱり“聖職者ギルド”の人がパーティにいてくれると心強いぜっ!」

 「聖職者ギルドの者まで……。ここまで人材の揃ったパーティも珍しい……」


 聖職者ギルドとは今この世界に唯一存在する宗教……“不可知論者アグノスティック”の信仰者が各地に設立した組織のことである。


 不可知論者アグノスティックとは人間は“神の存在を証明することも反証することもできない”という立場を取る者達のことを意味するが、この世界の人々にとってそれは“神は存在しているがそれがどういった存在であるかを誰も知り得ることができない”という立場を取る者達のことを意味している。


 この世界の文明でもかつては様々な名を持つ神やその教えを説く宗教が数多く存在したのだが、その思想に違いにより争いが絶えず、その不毛さに耐え兼ねて結局は“神は神でしかない”という共通の認識に至ったようだ。


 “信仰も布教もせずただ神の存在を信じる”というのが彼等の新たな信仰と布教であるという矛盾した考えを持つのがこの世界の不可知論者アグノスティックという宗教なのである。


 とはいっても不可知論者アグノスティックの信者となるには自身の魔力を“聖属性へと変えなければならないという“規則があり、その信者達は曖昧ではあるが“その力を持って自身ではなくこの世界の為に尽くさなければならない”という共通の概念を持っている。


 基本的に聖職者ギルドの者達が手を貸すのは誠実で心が清らかと思える者や、世界にとって善行となることを行おうとしている者達などだが、ジェイス達に協力しているのは“王国指名手配犯として悪名名高い死霊術師であるサラを抹殺する”という後者に近い目的を持っているからだろう。

 

 因みに魔力を“聖属性”へと変えたものは二度と通常の魔力に戻すことはできず、先程のバーン・フレイムのような火、その他の属性の魔力を使用することはできなくなってしまう。


 「さて……お前の死霊術ネクロマンシーにやられた奴等も回復して形勢は完全にこっちに有利になったぜ……サラ。今度こそ確実にお前を逃がさずこの俺の“炎を纏う剣(フレイミング・ソード)”で止めを刺してやるぜ」

 「………」


 再び地上に戻って来たサラを確実に仕留めるべく、ジェイスは今度はしっかりと仲間達と連携を取って攻撃を仕掛けるつもりのようだ。


 先程まで軽やかに宙を舞いジェイス達の攻撃を躱していたサラだったが、最早逃げられる場所も少なく、周囲も今度は前後左右全ての方位から囲まれ絶体絶命のピンチにまで陥ってしまった。


 「あわわわわわっ……。こ、このままじゃサラさんが……だけど今の僕にできることなんて……」

 「(もうっ!、何を弱気なことばかり言ってるんですっ!、マスターっ!。マスターの力ならあんな奴等一瞬で蹴散らすことができるではありませんかっ!)」

 「え……ええっ……そんなこと言われても僕にそんな力があるはずが……」

 「(くっ……もういいです……。マスターにその気がないなら私がサラさんを救い出しますっ!。今から私が召喚の呪文を唱えますからマスターも私の後に続いてその呪文を復唱してくださいっ!)」

 「わ……分かったよ……。(とにかく今はこの女の子の声に従ってみよう……。どういうことかは分からないけどサラさんがやられるのを黙って見ているより百倍マシだっ!。……それになんだろう……。どうしてか分からないけどこの女の子がとても懐かしいもののように感じる……)」

 「(……ではいますよ)」

 「う……うん……」


 窮地に立たされたサラを前に再び少年の頭の中に謎の女性の声が鳴り響いてきた。


 先程までこの声をただの幻聴としか捉えていない少年だったが、なんとなくこの声の主と思われる可愛らしい……それもどこかで会ったことのあると感じるような少女の姿が頭の中に浮かび上がって来た。


 まだ完全にその少女が何者なのか知ることはできなかったが、それでも少年は自分の中に湧き上がっていく思いと感覚を信じで少女の指示に従ってみることにした。


 「(天から地への制約は……)」

 「天から地への制約は……」

 「(汝と我の誓約よりて満たされる……)」

 「汝と我の誓約よりて満たされる……」

 「(汝と我の魂は……)」

 「汝と我の魂は……」

 「(天と地の契約よりて紡がれる……)」

 「天と地の契約よりて紡がれる……]

「(我が召喚の意に応じ羅盤らばんの門を潜りてこの世に現界せよっ!)」

 「我が召喚の意に応じ羅盤らばんの門を潜りてこの世に現界せよっ!」


 少女の声に従い少年は唱えれた呪文を祈りを込めるように目を閉じ、復唱し始めた。


 特に理由があったわけではないだろうが、その方がより少女と意識が繋がると自然に感じたのだろう。


 そして少女の声に続いて少年が呪文を復唱する中、ジェイス達はサラに止めを刺すべく包囲したメンバー達全員で一斉に襲い掛かろうとしていた。


 「さぁ……やるぞ……お前等っ!」

 「ああ……ジェイスっ!」

 「これで終わりだ、サラっ!。……てりゃぁぁぁーーーーっ!」

 「……っ!」


 追い詰められたサラの前後左右全ての方位からジェイス達が武器を振るって襲い掛かってくる。


 これではもうサラに逃げ場はなく、このままジェイス達にむごたらしく体を斬り刻まれて殺される姿がこの目に浮かんできてしまうが……。


 「(風と水の力よりて運命の気を操る精霊っ!、“風水フォンシュェイっ!”)」

 「風と水の力よりて運命の気を操る精霊っ!、“風水フォンシュェイっ!”」

 「(ううっ……やっぱり自分で自分の召喚呪文を唱えるとって恥ずかしい……)」


 “パアァァ〜〜ンッ!”


 「……っ!、な、何だ……っ!」


 少年が少女の声に言われた呪文を復唱し終えると同時に、目の前の空間に風水盤ふうすいばんを描いたと思われる魔法陣が出現しその中央から人間の手の平程の大きさしかない少女が突然飛び出して来た。


 その少女は背中に持った青と緑の羽でまるで蝶のように空中を舞いながらサラの元へと向かって行ったのだが……。

 

 

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