45話 VSアザゼル
「(この死霊のガキの魂から感じられる力が明らかに強くなっている……。同じ時代を生きた経験のある俺と戦いが奴の終焉霊魂としての力を呼び覚ましてしまったのか……。それにしても奴が治癒魔法まで使えるのは一体どういう理屈だ……)」
「行くぞ……フォンシェイっ!」
「はいっ!、マスターっ!。……八卦・凶方位……六殺っ!」
「……っ!、魔霊の弾丸っ!」
コンの命令を受けたフォンシェイが八卦・凶方位・六殺という魔法をアザゼルに向けて撃ち放つ……。
八卦とは風水において分けられた8つの方位、その中で中凶の運気に位置する方位のことを六殺という。
中凶というからには勿論良い方位ではなく、フォンシェイの前に出現した風水盤の図柄の魔法陣から3つの水流と螺旋に渦巻く3つ風の弾丸がアザゼルに向けて撃ち放たれていった。
しかしそのフォンシェイの魔法にアザゼルも瞬時に6つの魔霊の弾丸の弾丸を撃ち放ち相手の弾丸を全て相殺してしまったのだがコン達の攻撃はこれだけに止まらず……。
「次……あれを行くぞ……フォンシェイっ!」
「はい……八卦境反射っ!」
「反射する閃光っ!」
「……っ!、これは……っ!」
続いてフォンシェイは風水の八卦の図柄の中心に鏡を嵌め込んだ盤……八卦境を無数に作り出し、その鏡の面を全てアザゼルへと向けて包囲を取り囲んだ。
それらの鏡の内の1つに向けてコンが指先から一筋の光を撃ち放ったと思うとその鏡は光を別の鏡へと反射し、その別の鏡はまた別の鏡へとを繰り返し無限の光の道筋を作り出した。
更にコンは5つの光を鏡に向けて撃ち放ち、無数の鏡によって作られた無数の光の道筋がアザゼルを取り囲んで襲い掛かっていき……。
「くっ……流石にこれだけの光の軌道を見切ることはできない……。あの光を反射させている鏡を直接落とすか……いや……っ!」
「……っ!、待てっ!」
無数の反射する光に取り囲まれつつも全て紙一重で躱し続けるアザゼルだったが、流石にこれ以上防戦一方な状況が続くのは不味いと判断しマルクドルフの村側の出口へと繋がる行動の通路へと逃げ込んで行った。
狭い通路ならば鏡による包囲もしずらいと考えたのだろう。
鏡を撃ち落とすという選択を止めたのは恐らく自身の攻撃をも反射してくる恐れがあると判断した為だ。
しかし冷静な判断をして通路へと退避したものと思っていたアザゼルであったが、フォンシェイの作り出した鏡もアザゼルの後を追って通路へと入っていき、同時にその反射する光も通路を出口の方へと移動して行くアザゼルへと差し迫って行った。
光に追い付かれないよう魔力で体を浮かせ宙を滑るように後退していくアザゼルだったが、鏡と光だけでなくフォンシェイを肩に連れたコンも同じように宙を移動して後を追って行き……。
「ちっ……意地でも俺を逃がさないつもりか……。少々力を上げた程度で調子に乗りやがって……」
「上手く鏡の制御を頼むよっ!、フォンシェイっ!。絶対にあいつを逃がしたら駄目だからねっ!」
「はい……分かっておりますが敵のスピードも速くこのままでは追い付くことが……」
「そうか……なら僕から距離を取って後ろに下がっていろっ!、フォンシェイっ!」
「……っ!、どうするつもりなのですか……マスター」
「確かこの通路は出口まで一直線だったはずだ……それならっ!。……はあぁぁぁぁっ!」
「……っ!」
かなりのスピードで坑道内の通路を移動して行くコンとアザゼルだったが、このままではアザゼルに追い付けないと判断したコンは突如前屈みになっていた姿勢を起こし急激にそのスピードを落としていった。
すると今度は教会でジェイス達を倒した時と同じように首に掛けた帯から8個の色の違う球体が出現し、腰に構えたコンの手の中へと集まり再びサラの霊環のシンボルと同じ形状のエネルギー体を作り出し凄まじい魔力を蓄えていった。
本来反射する光を反射する鏡もコン自身の手で作り出し制御しなければならいのだが、鏡の制御をフォンシェイに任せることでこの魔法を発動させた状態でありながらも別の魔法を放つ余裕を作り出すことができるようだ。
それを見たフォンシェイはすぐさまコンに言われた通り後方へと退避し、その直後コンはその凄まじい魔力をこちらを向いて出口へと退避していくアザゼルへと撃ち放ち……。
「……無限の閃光っ!」
「……っ!、何っ!」
坑道内の通路に収まるように範囲を絞りながらもコンの撃ち放った無限の閃光は凄まじい威力と速さでアザゼルへと差し迫って行った。
その前方から迫る光の光景に慌てるアザゼル……。
しかし光は前方からだけでなく後方からも坑道の出口からの光が淡く差し込んで来ており、その二つの光にちょうど挟み込まれるようにアザゼルはその身を包み込まれて行ったのだが……。
「や……やりましたっ!、マスターっ!」
「いや……まだ坑道の出口の先に退避されたのかもしれない……。僕達も外に出て確認しに向かうけど出た瞬間奇襲を受けないよう気を付けろよ、フォンシェイっ!」
「はいっ!、マスターっ!」
アザゼルの生死を確認する為に自らも坑道の出口へと向かうコンとフォンシェイ。
しかし自身の渾身の一撃を放ったにも関わらずコンはあの程度でアザゼルが倒れることがないことを直感していたのであった。
「………」
「……っ!、やっぱり生きていたのかっ!」
やはりコンの直感は当たっていたらしく、通路の出口から外へと出るとそこには葉の全て落ちた一歩の高い枯れ木の枝に立ってこちらを見下ろすアザゼルの姿があった。
その姿を見る限り生存していたどころかコンの無限の閃光をダメージを受けている様子はまるでなかった。
間一髪坑道の外への退避が間に合ったということなのかそれとも……。
「ふっ……あの程度の攻撃でこの俺を倒せるわけがないだろう。一直線の通路を利用するとは中々良い攻撃だったと言いたいが元々俺と今のお前に天と地程の力の差がある」
「くっ……」
「減らず口を……っ!。マスターの実力があなた程度に劣るはずがありません。あんな奴もう一度私達の反射する閃光で……」
「……っ!、待てっ!、フォンシェイっ!」
コンの実力を侮った発言をするアザゼルに怒りを感じたフォンシェイはまだ消滅していなかった八卦境をアザゼルへとやり再びその周りを取り囲んだ。
そしてコンに再び反射する閃光を放つよう促すのだったが……」
「……はあぁっ!」
“パキンッ!”
「……っ!、わ……私の八卦境が全て……」
なんとアザゼルが一喝すると共に周囲にとてつもない振動が走り、フォンシェイの八卦境は全て粉々になって地面へと割れ落ちていってしまった。
それがアザゼルの力の一端であることはコン達にも即座に伝わり、先程の天と地程の力の差があるという言葉が決して嘘ではないこと……。
そしてコンに至ってはアザゼルは自身の放った無限の閃光を躱したのではなく、同等以上の力で打ち消してしまったのかもしくは受けていたとしても全くダメージを与えられていなかったであろうことを悟っていた。
サラを助けた勢いのままにアザゼルを追い詰めていったつもりだったがコンは再び自身が窮地に立たされたことも理解し神妙な面持ちでアザゼルのことを睨み付けていたのだが……。
「ふっ……そう敵意を抱かずともこれ以上お前達に手出しをするつもりはない」
「……っ!、ど……どういうことだっ!」
「俺の目的はお前達の実力を測ることだと言っただろう。最初は始末してしまおうとも考えたが終焉霊魂としてそれだけの力を秘めているならお前とサラにはまだ生かしておく価値がある……。次に会う時も生きていたければお前の終焉霊魂としての力を完全に取り戻しておくことだ。……それじゃあな」
“フッ……”
「……っ!、き……消えたっ!」
そう言い残してアザゼルはまるで本当に煙にでもなったように突然その場から姿を消してしまった。
その光景を見て……そしてあれだけ強大な力を持った者を相手に生き残ったことにコンとフォンシェイは呆然とその場に立ち尽くしてしまっていたのだが……。
「無事ですかっ!、コンっ!、フォンシェイっ!」
「サラさん……それにグナーデさんとリンカも……」
「良かった……どうやら二人共無事だったようですね……。それであのアザゼルと名乗った男はどうなりました……」
「そ……それが……あの木の枝に立ってたんですけど突然姿を消してしまって……」
「何っ!、では奴は自分からこの場を去って行ったというのかっ!」
「た……多分……」
「それはコン……相手があなたの実力に恐れをなしてというこですか。それとも……」
「それは……」
自分達を追って坑道を出て来たサラ達にコンは事の経緯を説明した。
それを聞いたサラ達もアザゼルがわざと自分達を見逃したということを悟ったようだ。
その理由も相手の正体についても以前不明のままだったが……。
「なる程……そういうことでしたか……。しかしリンカの話に続いてあのような者まで現れるとは一気に対処しなければならないことが増えてしまいましたね」
「ごめん……サラさん……。せめて僕があいつを倒すことができていれば……」
「別にあなたを責めているつもりはありません、コン。むしろあなたがいなければ我々はあの者の手に掛かり全員あの場で命を落としていました。我々の命を救ってくれたことに対して改めてお礼を言わせてください」
「サラの言う通りだ。あの勇ましくアザゼルに向かって行くお前の姿は私にもとても頼もしく思えた……。私も改めて礼を言わせて貰う……。お前がいてくれて本当に助かった。我々の命を救ってくれてありがとう、コン」
「ありがとうっ!、コン兄ちゃんっ!」
“コンコンッ!”
「み……皆……」
「ふふっ。アザゼルには逃げられましたが今回のことで一気に皆の信頼を得られましたね、マスター。それでは私はまたマスターの中へと帰りますが……村に帰った際は是非また呼び出して私もマーラさんのお祝いに参加させてくださいね」
「うん……分かったよ、フォンシェイ」
そう言ってフォンシェイはこの場から姿を消して行った。
リンカの話に続いて今のアザゼルの一件……。
問題は山積みだが今のコン達には取り敢えずマーラ達の待つ村へと帰るしかなく……。
「さて……これ以上考えても埒がいきませんし取り敢えずマーラ達の待つ村へと帰りましょうか。アザゼルについての具体的な対策も私の屋敷についてからギルドの者達の協力を得て考えることに致しましょう」
「そうだね……マーラさん達も待ってるだろうし何よりちゃんとした場所でゆっくり休みたい……」
「ふっ……ならその手荷物は私が持ってやろう、コン。どうせお前のではなくサラのものだろうがな……」
「えっ……いいのっ!!」
「ああ、これも先程助けれ貰った礼の一環だ」
「ありがとう、グナーデさんっ!」
こうしてコン達は皆で再びマルクドルフの村を目指して移動を開始した。
グナーデがコンの荷物を変わりに持つとはフォンシェイの言った通りアザゼルのおかげでコンは余程皆からの信頼を得ることができたようだ。
最もグナーデに関して詳しい素性はまだコン達も聞かせて貰っていなかったのだが……。
その後コン達は村で助けてくれたお礼も兼ねてマルクドルフの村の皆が催してくれたお祝いに参加したのだが、常にリンカの話のアザゼルことが気掛かりとなっており心の底から祝いを楽しむことはできなかったようだ。
しかし祝いで出される料理はどれも美味しく、マーラに誘われて共に踊ったのはコンにとってこの世界で初めての忘れない程の思い出となったようだ。
こうしてこれからもこの新たな人生での色々な思い出が増えていくことを嬉しく思いながら、コンは村の者達が用意してくれた宿で床へと就いたのだった。
そしてサラや他の者達もそれぞれの部屋で床に就いていき……。
「ふふふっ……まさか本当に終焉霊魂を蘇らせることに成功しているとはねぇ……サラ」
「………」
「だけどそれならもうグリーミーの持って冥王星の星の欠片はいらないでしょ。私だって終焉霊魂の死霊が欲しいんだから譲ってちょうだい……ふっ……ふはははははっ!」
コン達が寝静まった頃……この世界のどこかの廃墟となった古城のある一室……。
そこであのサラがグリーミーの屋敷で見掛けた冠を持つ鳥を指先に止めて従える何者かの女性が意味深言葉を発し高笑いを上げていた。
それは明らかにコン達……特にサラに対して敵意が込められたものであったが一体……。
アザゼルに続いて新たなる脅威が迫ろうとしていることをこの時コン達の中でサラ以外知る者はいなかった。