43話 襲い来るアザゼル……
「既にこの世界に存在していないはずの精霊を呼び出すとは……。どうやら本当に終焉霊魂をこの世に蘇らせることに成功していたようだな」
「(……っ!、精霊がこの世に存在していないとはどういう……。それに何故この男は私が終焉霊魂を持つコンを蘇らせたことを知っているのです……。私がコンを蘇らせてからまだ2日しか経っていないというのに……)」
「………」
「ふっ……しかし終焉霊魂を持つ奴の波動を感じるのは久しぶりだな……。まだあいつ等も生きていた懐かしい時代を思い出させる……」
「(……っ!、まさかこの者は……)」
フォンシェイを呼出し……そして警戒を強めたまま黙ってこちらを見つめるコンを見てアザゼルは1人意味深なことを呟いていた。
その呟きを耳にしてサラはアザゼルの正体について何か閃いたようだったが……。
「コン……申し訳ありませんが先程あなたが話ていたあなた方の時代に存在したアザゼルについて少しあなたの頭の中を探らせて頂けませんか。あなたは偶然と仰いましたが私にはこの者があなたの時代に存在した者と何か関連があるように思います」
「えっ……別に構わないけど死霊術でそんなこともできるの?」
「ええ……すみませんが頭を少しこちらに差し出してください」
「あっ……そういえば教会でサラさんに僕の生きていた時代のことを伝えようとした時も同じようなこことをやってたね。でもやっぱり僕はただ名前が一致してるだけ何も関係ないと思うんだけどなぁ……」
サラに促されてコンがその頭を差し出すと、サラはコンの額にそっと手を当て死霊術を発動させた。
その死霊術は自身の死霊と意識を繋ぐことできるもののようで、コンの額に手を当てたサラの頭の中にはアザゼルについてコンが知り得る情報がまるで映画のスクリーンを見ているように脳内へと浮かび上がり伝わって来ていた。
その内容は神話や伝承として文献に様々な解釈をされて記載されているアザゼルのことや、ちょうどコン達が生きていた時代に映画やゲーム等に登場する架空の存在として色々な姿で登場するアザゼルのことで、
特にコンがプレイしてNEVER FORGET YOUR SOULのゲームに登場する竜ような巨大な翼を持ち、禍々しい色合いの強靭な皮膚で体を覆われ顔も完全に人間とはかけ離れた怪物の姿をしたアザゼルのことが強く浮かび上がっていた。
それは目の前にいるアザゼルの姿ともかけ離れていたものの、尚もサラはこのアザゼルがコン達の時代に伝わるアザゼルと同様の者であると考えたようで……。
「なる程……どうやらあなた方の時代においても自在するアザゼルの姿を確認した者はいないようですね……。ですが非常に危険な存在として伝わっていることはよく分かりました」
「うん……だけどやっぱり目の前にいる男は何も関係なさそうだったでしょ……」
「いえ……あなた方の時代に伝わっているアザゼルの姿がどのようなものか知れただけでも十分です。確かにあの男の正体がそのアザゼルが関係しているかどうかは分かりませんが私の予想が正しければ恐らくあの者もあなた達と同じ時代に生きていた者のはず……」
「えっ……それってどういう……」
「そっちの話は終わったか。ならそろそろ俺の方の用事を済まさせて貰いたいんだが……」
「待ってください……まだ私からあなたについて聞きたいことが残っています」
「だったら早くしてくれ。言っておくがお前等の質問を聞いてやるのはこれが最後だ……」
「先程あなたは終焉霊魂を持つコンを見て懐かしい時代を思い出すと言っていました。それはあなたがコン達と同じくハルマゲドンが発生する以前の時代に生きていたということですか」
「……っ!、それってどういうこと、サラさんっ!」
「では奴もコンと同じく終焉霊魂を持ってこの世に蘇った死霊だというのかっ!、サラっ!」
サラの行った質問に驚きが隠せない様子のコンとグナーデ……。
グナーデはサラがアザゼルがコンと同じ終焉霊魂を持つ死霊だと考えて発言をしたのかと思ったようだが、しかしアザゼルの頭上にはコンのように死霊であることを証明する霊環の環が見当たらなかった。
「いえ……そういうわけではありませんが……グナーデ」
「俺は死霊などではない。そいつのように頭が霊環がないことを見れば分かるだろう。……だがもし今の質問に俺がそうだと答えればお前はどうするつもりだ……」
「ならばまだあなたに聞きたいことがあります……」
「……さっきの質問で最後だと言ったはずだが」
「もしあなたがハルマゲドンが発生する以前の時代からこれまで生きていた存在ならハルマゲドンを意図的に発生させた者……そしてコン達終焉霊魂を持つ者を輪廻の理から外した者の存在について何か知っていることはありますか。もしくはあなたがその者本人であるということは……」
「………」
「……っ!、ハルマゲドン以前の時代からこれまで生きていただとっ!。それにハルマゲドンを発生させコン達を輪廻の理から外した者がいるとは一体どういうことだ、サラっ!」
「………」
サラが続けてアザゼルに投げ掛けた質問に更なる驚きを見せるグナーデ……。
そんなグナーデの様子を知りながらもサラはアザゼルから視線を逸らさず相手から返答を黙ってジッと待っていた。
恐らくサラも今はグナーデの疑問に応えている余裕はなかったのだろう。
グナーデもそのことはすぐ理解できた様子で黙って再びアザゼルへの警戒を強めていったのだが……。
「……黙っていないで私の質問に答えて頂けませんか、アザゼル」
「別にお前等の質問を聞いてやるとは言ったが答えてやるとは言ってない。……だが単独でそこまで推測できているとは流石この世界で5本の指に入る死霊術師と謳われていることだけはあると言っておこう」
「では私の推測は当たらずとも間違っていない……っということですね」
「これ以上お前等の質問に答えてやるつもりはないと言っただろう。それよりそろそろこちらの用件の方を片付けさせて貰おうか……」
「……っ!」
サラの問いを撥ね退けたアザゼルから明らかに発せられる殺気……。
それに反応して強く身構えるコン達であったが……。
「それで……あなたの用件とは一体何なのです……アザゼル」
「別に大したことじゃない……。少し終焉霊魂の死霊とそれを蘇らせた死霊術師の実力がどれ程のものか確かめさせて貰おうと思ってな……」
「……っ!」
「……魔霊の閃光」
「……っ!、……ぐはぁっ!」
「……っ!、サラさんっ!」
実力を確かめる……という戦いの開始を告げる宣言をするともにアザゼルは突然サラへと向けた指先から禍々しい濃い紫と黒の閃光をまるでレーザーのように撃ち放って来た。
事前に坑道内の負の霊力を鎧のように身に纏って構えていた為ある程度ダメージを防ぐことができたようだが、そのあまりの攻撃の速さにサラはまるで反応出来ず胸部に直撃を受けた衝撃により大きく後ろへと吹き飛ばされてしまった。
ついに戦いを仕掛けて来たアザゼルに対しコン達も慌てて臨戦態勢を取るのだったが……。
「早くリンカを安全な場所へっ!、フォンシェイっ!」
「……っ!、分かりましたっ!」
「コンっ!、お前は私の聖属性の魔力の影響を受けないよう後ろに下がっていろっ!」
「……っ!、グナーデさんっ!」
先手を取って攻撃を仕掛けて来たアザゼルに対しグナーデはすぐさまフォンシェイにリンカを安全な場所へ移すよう促すと腰に携えた剣に手を掛け一目散に敵へと向かって行った。
そして鞘から抜かれた聖なる輝きを放つ剣身でアザゼルへと斬り掛かっていくのだったが……。
「はあぁぁぁぁっ……」
「ほぅ……まさか聖剣を持つ聖職者ギルドの者がいようとは……。だが生憎俺はお前などに興味がない。俺の邪魔をするというのなら容赦はしないぞ……」
「黙れっ!。何者か知らんが貴様のような邪悪な気を発する輩はこの私が叩き斬ってやるっ!。……はあぁぁぁぁっ!」
「……魔霊の爆裂波動」
「……っ!、ぐわぁぁぁぁーーーっ!」
「……っ!、グナーデさんっ!」
聖なる光を放つ剣でアザゼルに斬り掛かろうとしたグナーデだったがその斬撃が届く前に相手が前方に向けて放って来た衝撃波により吹き飛ばされてしまった。
そんなグナーデを見て今度はコンが慌てて魔法を放とうとするのだが……」
「くっ……氷の槍」
「……魔霊の閃光」
「……っ!、うわぁぁぁぁーーっ!」
「マ……マスターーっ!」
「サラさん……コン……グナーデさん……皆ぁぁーーっ!」
サラ、グナーデに続いてコンまでもが敵の攻撃を受けて吹き飛ばされてしまった。
しかもアザゼルはサラにも詠唱時間が速いと褒められていたコンの氷の槍よりも早く攻撃を発動させており、サラと同じくコンもまとも反応すらできない程の攻撃の速さを誇っていた。
次々と打倒されてしまった3人の姿にリンカも悲鳴を上げずにいられなかったようだがこのままアザゼルに倒されてしまうのだろうか……。