4話 サラの反撃……
「……はあぁっ!」
「……っ!」
“ヴォッ!、……ゴゴゴゴゴゴォッ!”
「……っ!、な、なんだ……っ!。あ、あいつの剣が突然炎に……」
「ほぅ……特に細工も見当たらないというのに剣身から炎が……。まさか属性付与の能力を持つ者がいるとは驚きです」
サラとの対決を前にしてジェイスは何か自身の持つ剣に気迫を込めるような仕草を見せたと思うと、突然その剣身が発火し、瞬く間にその切っ先まで炎に包まれて行った。
激しく燃える炎を纏ったそのジェイスの剣を見てサラは属性付与という言葉を口にしていたが……。
「そう……俺は自身の剣に火の属性の魔力を込めるのを得意とする魔法剣士だ。灼熱に帯びたこの剣の切れ味はさっきあの死霊のガキの腕を斬り落とした時より格段に上がっているぜ。その上傷口から直接俺の炎を魔力を送り込まれた相手の体を一瞬にして焼き尽くしちまうんだ」
「確かにその剣には相当な魔力が込められているようですね……。これだけの力を持っているとは……一体どこの冒険者ギルドの手のものです」
「俺達は王都・カルトヘルツィヒに拠点を置く冒険者ギルド迅速且つ慎重に身を置く者……。迅速且つ慎重はカルトヘルツィヒの中でもかなり評価の高い冒険者ギルドで俺達はその参加しているメンバーの中でも選りすぐりのエリート達だっ!」
冒険者ギルドとはこの世界で賊に言う“冒険者”その高い戦闘能力を生かしてジェイス達のように“賞金稼ぎや傭兵、賊やモンスターの討伐などを稼業としている者達が集まって作られた組織のことをいう。
組織内で各依頼の割り当てや情報の共有等を行うことで自分達の稼業の効率がより上がる為、大抵の者達は個人ではなく“冒険者ギルド”や他のそういった組織に所属して活動をしている。
ジェイス達もその冒険者ギルドの一つである迅速且つ慎重に所属していたことで情報を共有し、逸早くサラ討伐のメンバーを揃えこの場にやって来ることができたようだ。
「なるほど……流石アンファング帝国の首都というだけあって粒揃いの冒険者ギルドがその評判を競い合っているようですね。ですが残念です……。あなた達のその迅速且つ慎重という冒険者ギルドの折角の評判も今日でガタ落ちとなってしまうしょう。なにせギルドの中枢を担っているメンバー達を一気に失ってしまうことになるのですから……」
ジェイス達の冒険者ギルドのあるカルトヘルツィヒは今サラ達のいる大陸の3分の1の領土を支配してるアンファング帝国の王都である。
王都というからにはそこに集う冒険者は皆一流の者達ばかりで、ジェイス達は更にその中でも選りすぐりのエリートということらしいが、それに対しサラは意味深な言葉を発していた。
サラの言葉に不気味な威圧感を感じたジェイスは少し動揺した様子でその言葉の意味を問い質すのだが……。
「な、何だと……それは一体どういう意味だっ!」
「あなた達の内誰一人としてこの場から生きては帰れないということです……。この私を侮辱したあなた達には永遠に晴れることのない後悔と絶望の念を抱いてこの世を彷徨う本当の意味においての死霊となって頂きましょう」
「減らず口を……っ!。何が本当の意味においての死霊だっ!。死霊だの死霊だのさっきのガキのような死霊だのてめぇ等死霊術師共で話をややこしくしておいて適当なこと言ってんじゃねぇっ!」
「………」
「てめぇの方こそ本当の死霊にしてやらぁっ!。あの世でお前等死霊術師共に良いようにこき使われてきた死霊共に復讐されるがいいっ!。……てやぁぁぁぁっ!」
「……っ!、サ……サラさんっ!」
サラの挑発的な言葉……っというよりその属性付与により炎を纏った自身の剣を前にしてもまるで動じることなく堂々とした振る舞いに気圧されたジェイスはつい冷静さを失ない、怒りに任せてサラへと斬り掛かっていってしまった。
サラが相手の怒りを煽る態度を取っていたのは勿論自身と……そして自身の死霊を侮辱したジェイスへの返礼でもあったのだが、その真の目的はジェイスに単身で向かって来るよう促すことにより他の集団のメンバー達と連携を取った攻撃をさせない為であった。
サラの身を案じた少年は思わず叫んでしまっていたが、そんな自身で仕向けたジェイスの斬撃をサラがまともに受けるわけもなく……。
“ガッキィィーーンッ!”
「……っ!、き、消えた……っ!」
「……っ!、上よ、ジェイスっ!」
空を切って地面へと叩き付けられたジェイスの剣は礼拝堂内に再び甲高い金属音を響き渡らせた。
突如目の前から姿を消したサラを斬り伏せることはできなかったものの、その熱のゆらめきによって斬り裂かれた空間が纏われた炎によって上昇したジェイスの斬撃の威力の凄まじさを物語っていた。
ジェイスは慌てて周囲を見渡してサラを探していたのだが、弓術師の女の仲間に言われて上を見上げると、そこには天井から吊るされたシャンデリアの上へと飛び上がっていくサラの姿があった。
そのまるで体の重みを失ったように風に吹かれて舞い上がっていく姿と、透き通った白い肌、周囲の窓の硝子から差し込む月の光により淡くゆらめいているように照らされた羽衣のようなローブが、ジェイスにはまるでサラが本当に死霊となってしまったように見え少しの恐怖を感じさせた。
冒険者としての勇敢にサラに対して立ち向かって来たジェイス達だが、死霊術師の操る死霊とは本来生者を恐怖で震わせその身を脅かす存在であることを改めて思い出してしまっていた。
「サ……サラさん……良かっ……うっ!」
「(安心している場合ではありませんっ!、マスターッ!。上手く攻撃を躱したとはいえあれだけの敵を相手にしサラさんが危険な状況に置かれていることに変わりはありません。このままでは奴等の手によって命を落としてしまいますっ!。早く私をこの場に呼び出してくださいっ!、マスターッ!)」
「うっ……ま、また幻聴が……。今度はさっきより強く頭の中に鳴り響いて……。だけど一体僕に何を……」
サラの無事を確認し安心する少年だったが、再び先程同じ女性のものと思われる声が頭の中に鳴り響いて来た。
しかも今度は頭痛を感じさせる程強く訴えかけるもので、少年も無視し続けるわけにはいかないようだったのだが、肝心のメッセージの内容が理解できない少年にはどうすることもできなかった。
「………」
「くっ……あんなところまで軽々と飛び上がるとは……」
「私に任せてっ!、ジェイスっ!。……はあっ!」
「………」
「また躱されたっ!」
攻撃を躱され動揺するジェイスに代わって今度は仲間も弓術士の女性がシャンデリアの上のサラに向かって矢を撃ち放った。
しかしその矢の攻撃もサラはシャンデリアの上から軽々と飛び去り躱してしまった。
そして今度は教会の2階の右側のギャラリーの方へと飛び乗って行ったのだが……。
「な……なんて軽やかな身のこなしなんだ……。あんな高い場所まで飛び上がったり離れた場所までジャンプしたり……」
「なにボケっとしているのっ!。相手に関心している暇があったらあなた達も早く2階に向かいなさいっ!」
「……っ!、お、おうっ!」
サラの目論見通りジェイスが一人で先走ってしまったことにより相手のメンバー達はまるで連携を取れておらず、弓術士の女性に檄を飛ばされてようやくサラのいる2階のギャラリーへと上がる為の階段へと向かった。
しかしサラが相手のメンバー達がもたついているこの隙を逃さず死霊術による反撃を仕掛けていき……。
「……怨念の手」
“バッ!”
「……っ!、な、なんだぁっ!。地面から急に黒い手が俺の足を……っ!」
サラが怨念の手というその死霊術の術の名を口にするとともに、ジェイスも含めたこの場に押し入って来た者達の全ての足元から地面から黒い手の形をしたものが出現し、その両足を掴み込んだ。
突然の事態に相手は皆慌てふためいたのだが、サラがその黒い手に命じるように更なる言葉を唱えると……。
「……骨折」
“グググググッ……バキッ!”
「ぐっ……ぐわぁぁぁーーーっ!」
サラが骨折を意味する“フラクチャー”という言葉を発すると、同時に相手の両足を掴んだ黒い手が突然その足首を強く捻り始め、何人かの足の骨を捻じ切るようにして折ってしまった。
これで戦局がサラに有利なものへと傾くとよいのだが……。