33話 サラを信じて時間を稼ぐコン達……
「あの敵の死霊術師とレイサムを相手にしてサラとコンは本当に大丈夫なのか……フォンシェイ。特にコンの奴は命を奪わうことないよう相手の身を気遣って戦わなきゃならねぇんだろ……」
「はい……マスターは心優しいお方ですからレイサムさんような本来善良であるはずの者と戦うのはとても辛いことのはず……。ですがそうであるからこそマスターは相手のことを救い出す為に全力を尽くすことができるのです。必ずやサラ様があの非道な輩の息の根を止めるまで耐え凌いでくれるでしょう」
「そうだな……俺達も2人のことを信じてできるだけ長く逃げ回らねぇと……」
「ええ……我々の方こそいざ敵に囲まれそうになった場合どう対処すべきか考えておかないと……。反撃してでも逃走を続けるべきかそれとも相手を傷付けない為に大人しく捕まるべきか……」
「お……俺はあいつ等を相手に剣を振るうことなんてできねぇぜ……。ちゃんとした剣術の心得があるわけでもないし相手の身を気遣いながら戦うなんて無理だ……。済まんがいざという時の判断はお前に任せ……」
“ダダダダダダッ!”
「……っ!、そうこう言ってたら早速先の通路に回り込まれちまったじゃねぇかっ!。これじゃあもう前にも後ろにも逃げ道はないぜっ!」
「仕方ありません……はあっ!」
「……っ!」
コン達からグルーミーに操られた配下を引き離す為屋敷内を逃げ回るフォンシェイと店長だが、前方から回り込んで来た敵によって挟み撃ちにされてしまった。
グルーミーに操られているだけの村の仲間に剣を振るうこと店長は躊躇っていたが、フォンシェイは迷うことなくコンも使用していた一陣の風の魔術の突風により前方を塞いでいた敵を吹き飛ばしてしまった。
どうやら上手く手加減していたのか地面に倒れる際に少し体をぶつけただけ相手に対するダメージはほとんどないようだった。
その隙に通路の先へと突破し更に逃走を続けるフォンシェイと店長だが、果たしてどれだけの間敵に捕まらずにいることができるのか……。
「ねぇ……グナーデさん」
「……っ!。なんだ……マーラ」
「聖職者ギルドに所属してるグナーデさんは悪霊に対して凄い力を誇ってるんでしょう。ここに来るまでの坑道でもグナーデさんの剣から放たれた光が悪霊達を一掃していたし……。それならグナーデさんにもサラが言っていた除霊の儀式ができたりするんじゃないの。それともまたあの剣の光で皆を操ってる悪霊を消し去ってしまったり……ってっ!。そんなこと言ってる間に前から敵が……」
「残念だがそう都合良くはいかない……。除霊の儀式は死霊術師にしか行うことができないし、私の聖属性の魔力は悪霊だけでなく負の霊力に侵された者の体まで傷付けてしまう……。このようにな……はあっ!」
「……っ!、グオォォォォッ……」
別の扉から逃走したグナーデとマーラのところにも前方から回り込んで来た敵が行く手を阻んでいた。
しかしその敵達に対しグナーデがほんの少し剣を抜いただけの鞘の隙間から坑道内でレイス達を一掃した時と同じ聖属性の魔力を持つ光を放つと、前方にいる敵の者達は両腕を巻き付けるように強く自身の体を掴み込みもがき苦しみ始めた。
更には火傷したように肌が赤く染まっていき、焦げ始めたかのように体から煙が吹き出ていた。
すぐさま剣を鞘に収めグナーデが光を止めていた為大事には至らなかったようだが、あのまま光を受け続けていれば間違いなくその体を焼き尽くしてしまっていただろう。
その光景をマーラは心配そうな表情で見つめていたのだが……。
「あのように私の聖属性の魔力は憑依された者の体まで討ち滅ぼしてしまうのだ。故に悪霊からこの者達を救い出すにはサラの手を借りるしか方法はない」
「………」
「心配せずともあの程度のダメージなら憑依させ解くことができればどうにかなる。この際白状してしまうが聖職者である私は傷負った者達を癒す治癒魔術も使うことができる。エリクサーのポーションを飲ませてもいいだろうがどちらにせよ憑依されたままの状態では反対にダメージを与えてしまうだろう。……とにかく今はサラ達がグルーミーに憑依を解かせるまで逃げ回るしかない」
「……分かったわ。……っ!、あ……あれは……アレクっ!」
グナーデの言葉に同意するマーラだったがその直後今度は自身の弟であるアレクが前方に立ち塞がっていた。
隣には2人のメイドもおりどうやら兵士以外の者達もグナーデ達の追撃に回してきたようだ。
立ち塞がるアレク達を前にグナーデは再び鞘から剣を抜いて聖属性の光を放とうとしたのだが……。
「くっ……仕方が無い……」
「やめてっ!」
「……っ!、マーラっ!」
「ごめんなさい……グナーデさん……。お願いだからアレクだけは傷付けるのは止めて……。グナーデさんのことを信用していないわけじゃないけどとても私には耐えられない……」
「……分かった。ならば私にしっかり捕まっていろ」
「えっ……!」
「……っ!」
そう言うとグナーデは走りながらマーラの体を抱き上げ一気にアレク達に向けて突っ走って行き、その勢いのまま相手のアレク達の頭上を大きく飛び越え先の廊下へと着地した。
もう前方に敵の姿は見えず、再び屋敷内を逃走するグナーデとマーラ……。
振り返ってアレクの無事な姿を見たマーラは安心した表情を浮かべグナーデに深く感謝していたのだが、グルーミーの命を受けたアレク達もそう易々と引き下がるはずもなく、グナーデ達を追ってすぐさま走り出して来た。
その様子を見て安心したのも束の間再び不安に駆られるマーラであったが……。
「ありがとうっ!、グナーデさんっ!。……でもアレクの奴また私達のことを追って……」
「敵に操られている以上仕方のないことだ。とにかく今は逃げ続けるしかない。少しでも追っ手をかく乱する為今度は下の階に逃げるぞっ!」
「う……うん……」
頭の回転の速いグナーデは今のように敵に回り込まれるのを防ぐ為なるべく階を移動しながら屋敷内を逃走していた。
更に広く複雑な構造した屋敷の内部であるにも関わらず一度通った通路は全て把握しており、既に逃走時間を稼げるルートを頭の中でシミュレートしていた。
この様子ならばグナーデ達はそう簡単に敵に捕まることはなさそうだ。
“グオォォォォッ……”
「くっ……氷の槍……は駄目だ。下手に撃って相手の急所を貫いたりしたら大変なことになる……。ここは僕も風属性の魔法で……一陣の風っ!」
“グオォォォォッ!”
「……っ!、うわぁぁぁぁーーーっ!」
一方屋敷の外でレヴァナントの力を解放されたレイサムと激しい空中戦を繰り広げているコンはその相手の身を気遣っての戦いに苦戦を強いられてた。
今も得意の氷の槍の魔法を放とうとしたのだが、相手の体を貫くことを恐れて相手の体に直接損傷を与えにくい一陣の風の魔法に切り替えていた。
それもかなり魔力を抑えて撃ち放っており、そのせいもあってレヴァナントの凄まじい力で撃ち放たれて来る相手の大気の魔法に撃ち負け大きく吹き飛ばされてしまっていた。
空中を転がるように飛ばされながらなんとか体勢を持ち直すコンであったが、相手のレヴァナントの力を前に……それも相手の身を気遣いながらどう対処すべきか苦悩しているようだった。
「くそっ……やっぱりゲームの中と現実の世界とでの戦いはまるで違うよ。ゲームの中だったら相手のHPが0にならない限り死なせることはないから別に好きな魔法で攻撃して良かったのに……」
“グオォォォォッ……”
「とにかく時間を稼ぐならなるべく相手の動きを封じるようにしないと……。拘束魔法ならあまり相手の体を傷付けることもないだろうし本気を出して使っても大丈夫だろう。ゲームの中ではほとんど使う機会がなかったらスキルポイントも全然振ってなかったけど仕方ない……水の拘束っ!」
「……っ!」
凄まじい威力を誇るレイサムの大気の魔法に苦戦するコンは相手の動きを封じて魔法を放てなくしようと、自身の魔力を全力で込めて水属性の拘束魔法を発動させた。
レイサムを囲って水の環が出現したと思うと一気にその環の大きさが収縮していき、腕ごと体を縄で縛るようにして相手を捕えてしまった。
その後もより強く込められていくコンの魔力によりどんどんとその水の縄に体を締め付けられていくレイサムだったのだが、再び雄叫びを上げて大気の魔法を発動させたと思うと……」
“グオォォォォッ!”
「……っ!。僕の水の拘束が打ち破られた!。僕の魔法の力が弱かったのか……いや。相手の魔法で発生した大気の振動に耐え切れずに水が散り散りになってしまったんだ。直接大気を振動させられる相手に実体のある魔法は全て打ち消されてしまう……。こっちも実体のない魔法で応戦すべきかそれとも……」
直接大気を振動させることによって発生する衝撃は凄まじく、今のコンの水の拘束の水のように実体のある魔法は全てレイサムに打ち消されてしまう。
氷の槍や他の火や雷の魔法を用いても同じことになってしまうだろう。
大気の振動の影響を全く受けない魔法となればやはり光や闇の属性のものとなるだろうが果たしてコンはどう対処するつもりなのだろうか……。