32話 激突……サラVSグリーミー
「それでは頼みましたよ……コン、皆さん」
“バッ!”
「……っ!」
グルーミーの配下達が迫る中サラは3階のギャラリーから上に向かって高く舞い上がっていき、ちょうど最上階にいるグルーミーの前に吊るされたシャンデリアの上へと飛び乗った。
それに反応してすぐさまレイサムがサラの後を追おうとするのだったが……。
「あなたの相手はこの僕がするっ!」
「………」
サラの元に向かおうとするレイサムの前にサラから命を受けていたコンが立ちはだかった。
コンを見て一筋縄ではいかないと瞬時に判断したレイサムもそれ以上サラを追うことはできず目の前のコンの相手に集中するしかなかったようだが……。
「サラのことは構わないからお前は先にその死霊を片付けてしまいなさい。……他の者達もサラには構わず残った連中を必ず捕えるのよっ!」
“ダダダダダダッ……”
「来たか……マーラは私と共にこちらの扉から。フォンシェイとコンチビは店長を連れてそちらの扉から奴等を誘導してくれ。くれぐれも敵に対して余計な反撃は行うなよ」
「分かってるっ!。元々こいつ等は俺達の村の仲間なんだっ!。いくら敵に操られてるからってそう簡単に傷付ける真似なんてできるわけねぇだろっ!」
「ふっ……そうだな。……では行くぞっ!」
そしてグナーデ達はそれぞれの扉へと迫り来る者達を誘導して行った。
今この場にはサラとグルーミー、コンとレイサムの4人が残っているわけだが……。
「………」
「いくらあなたでもそのまま状態でその死霊の相手をするのは辛いでしょう。待ってなさい……今あなたの封じ込めた力の一部を解放してあげます……」
「……っ!、ぐっ……ぐぅ……グオォォォォッ!」
「……っ!、な……なんだぁっ!」
「……っ!、まさかっ!」
“グオォォォォッ!”
“バアァァァァンッ!”
「うっ……うわぁぁぁぁーーーっ!」
突如まるでモンスターと化してしまったかのように豹変し激しい雄叫びを上げるレイサム……。
更には凄まじい魔力を解き放ち、先程よりも更に強力になった大気波の魔術をコンに向けて撃ち放ち、その威力と衝撃によりコンを屋敷の窓を破って外へと吹き飛ばしてしまった。
そして自身もコンに追撃を仕掛けるべく割れた窓から外へと向かい、とうとうこの場に残されたのはサラとグルーミー……互いに相反する理念を持つ2人の死霊術師のみとなってしまったのだが……。
「あの凄まじい負の霊力は只の悪霊が持つものではない……。まさかレヴァナント級の悪霊を彼に憑依させていたのですがっ!」
「そうよ。私の力を持ってすれば自在にレヴァナント級やドラウグル級の悪霊を生み出すことができるわ。最もその為には強大な怨念に囚われた者の魂を元にしないといけないけどね。この屋敷に初めて来た時ちょうどアインザームっていうかつての屋敷の主人だった者の霊魂を見つけたのよ。この私に向かってここは俺の屋敷だなんてほざくものだから思いっ切り痛めつけてから奴隷の悪霊にしてあげたわ。流石に負の霊力だけでレヴァナント級の悪霊を生み出すのはこの私でも不可能だからね」
「この世を彷徨う魂を見つけたのならその怨念を浄化し霊界へと誘うのが死霊術師の務め……。それをレヴァナントへと変えてしまうとはあなたを断罪する理由がまた一つ増えましたね。……しかしレヴァナントだけでなくこの屋敷に多くの人々を攫い配下としてるのは一体何の目的の為なのです。まさか憑依によって従えた者達で国でも作るつもりなのですか」
「ふんっ……別に国なんて作るつもりはないわ……。ただ私達死霊術師を排除しようとするアンファングの連中に対抗する為の戦力が欲しいだけよ。最近になってまたあいつ等の私達への攻撃の動きが活発になってきた……。私もこの大陸に来てもう何度もアンファングが送り込んできた連中に襲われたわ。それでアンファングの手の行き届いていないこの地の連中で軍隊を作って今度はこっちから攻め滅ぼしてやろうと思ってね」
「なる程……それは呆れ過ぎて物が言えない程壮大な計画ですが……。あなたが従えている僕が憑依者ばかりで死霊が一人もいないのはどうしてです。別に聞かずともなんとなく理由は想像できますが……」
「分かっているのなら聞かないでくれる……。死霊なんていう自分の意志を持つ奴隷などいても鬱陶しいだけよ。聞き分けは悪いし蘇らせた奴によってはこの私に対等な口を聞き意見までしてくる……。一々調教するのも面倒だから悪霊を使ってまだ生きている奴等を奴隷にすることにしたのよ。悪霊なら簡単に意志を支配できるし、ある程度力を持った奴に憑依させれば手っ取り早く戦力が得られるしね。あのレイサムのように……」
「愚かな……意志を持たない僕を従えたところで何の意味もありません。指示がなくとも自身で的確な判断を下して行動し時には貴重な意見もくれる……そして何よりこの私を信頼し自分の意志で付き従ってくれるコンのような死霊こそ真に我々が側に置くべき僕なのです」
「ちっ……これ以上私に説教じみたことを言わないでくれる……。奴隷に意志など必要ない……。ただ黙って命令に従わせるのが一番効率的で奴等に相応しい扱いなのよっ!。それをあなたにその身を持ってたっぷりと教えてあげるわ。二度と私に偉そうな口が聞けないようあいつ等と同じ奴隷にしてねぇっ!」
「………」
「……邪霊の弾丸っ!」
「……亡霊の弾丸」
サラの上からの物言いに激昂し死霊術を発動させるグリーミー……。
長い論争の末どこまでも意見の対立する2人の戦いの火蓋がついに切られた。
先程コンが受け止めたものと同じグリーミーの邪霊の弾丸に対しサラが撃ち放ったのはそれよりも込められた負の霊力の等級が劣る亡霊の弾丸の霊弾……。
今度は互いに複数の霊弾を放ち合ったのだが、サラの亡霊の弾丸の霊弾は全てグリーミーの邪霊の弾丸に撃ち負けてしまい、こちらの霊弾は届かずに相手の霊弾だけがサラへと襲い掛かった。
それに慌てることなく冷静に隣に吊るされていた少し小さめのシャンデリアへと飛び移り霊弾を躱すサラであったが、正面からの撃ち合いに敗れたことは紛れもない事実でありそれは相手の死霊術の威力がサラのものを上回っているということだが……。
「ふっ……まさかあのサラが亡霊級の霊力しか生み出すことができないとはね。その程度の力でこの私にあれだけの大口を叩いてたっていうの」
「分かっている癖にそのような皮肉を……。憑依させている悪霊だけでなくこの屋敷の負の霊力のほとんどはあなたの支配下にあります。この状況ではどれだけ腕のいい死霊術師でもあなたと同等の霊力を生み出すことは不可能でしょう」
「ふふっ……だけどあなたの方こそ死霊術師にとって同じ死霊術師である敵の拠点に乗り込むことがどれだけ危険な行為であるかは分かっていたはずでしょう。あなたの言う通りこの屋敷に漂う負の霊力はほぼ私の支配下にある……。この状況であなたの生み出せる霊力はどう頑張っても亡霊級が限界……。悪いけど一気に勝負を決めさせて貰うわよっ!」
「………」
死霊術師の死霊術に使う霊力にはその強さによって格付けされた等級が存在する。
正の霊力の場合は光級、精神級、善霊級、聖霊級が存在し、順にその力が強くなっていく。
負の霊力の場合は影級、怨念級、亡霊級、邪霊級が存在し、同じく順に強くなっていく。
霊弾を撃ち出す同じ系統の死霊術でありながらサラの術が撃ち負けたのは亡霊級と邪霊級というその込められた負の霊力の力に明確な差があったからだ。
またより強い霊力を込めて死霊術を行えるかはその者の死霊術師としての実力だけでなく、その場に漂う霊力をどれだけ自身に引き込めているかによって決まる。
この屋敷にもう数か月以上も住むグリーミーによって掌握された霊力をサラが己のものとして使うのは難しい。
その為サラは相手の邪霊級に対し亡霊級の霊力でしか対抗できなかったのだ。
基本的にその場に滞在した期間が長い程霊力の掌握は容易なものとなり、恐らく数か月以上もの間ずっとこの屋敷を出ることなかったグリーミーに対しサラは圧倒的に不利な状況に置かれていると言えるのだが……。
「……邪霊の弾丸っ!」
「………」
自身が圧倒的優位な立場にあることを理解しているグリーミーは更に勢いを増してサラへと攻撃を仕掛けていった。
幾度もなく撃ち放れてくる邪霊の弾丸を次々とシャンデリアを飛び移りながら躱していくサラであったが、その度に撃ち落とされて行くシャンデリアと共に広間内はどんどんと暗くなっていき、同時にサラの飛び移ることのできる足場もなくなっていく……。
そしてとうとう最後のシャンデリアが撃ち落とされ広間内が暗闇に包まれると共にサラはグリーミーの向かい側の一つ下の階のギャラリーへの移動を余儀なくされ、再び相手に見下ろされる形になってしまった。
サラを見下ろすことが余程快感だったのか、グリーミーは高笑いを上げて喜びを露わにしていた。
まだ月の明かりや廊下に設置された照明の明かりがあった為互いに視界は問題なさそうだったが、サラは圧倒的に不利といえる霊力の差をどうにかする術を考えねばならなかった。
そしてそんな2人の戦いの様子をコンが外へと吹き飛ばされる際に割れた窓から頭に不思議な環を冠った一匹の鳥が見守っていたのだが……。