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23話 突然の訪問者

 「失礼する……」


 「あっ……」


 コン達をここから南にある屋敷へと案内する為店を閉じようとした店長マスターとマーラだったが、そこへちょうどマーラと同じ年頃の若い女性の客が入って来た。


 その女性はまるで鎧のような厚みのある白のローブを纏っており、腰の長さまで真っ直ぐに伸び綺麗な光沢を放つ黒髪をしていた。


 また雰囲気もマーラのように陽気なものとは違い、清楚でありながらもおごそかで重苦しい……サラと同じく常に戦いの中に身を置いている者が持つ特有の威圧感のようなものを漂わせていた。


 その証拠に腰にはちょうどロングソードと呼ばれるような西洋風の剣を携えており、衣服ごしであっても体格がガッチリしているのを感じ取ることができた。


 ちょうど店を閉じようとしたタイミングでの来客にマーラは慌ててそのむねを伝えようとしたのだが……。


 「あの……すみません。今日は事情があって今ちょうど店を閉じようとしてたところなんです。折角来て下さったのに申し訳ありませんが今日はお引き取りを……」


 「いや……私は特に店が用事があって来たわけではなくこの辺りで起きている謎の失踪者が多発している件で少し話が聞きたいと思っただけだ。村の者に聞いたらここの酒場の主人が一番事情に詳しいと聞いたのでな」


 「そ、そうでしたか……。えーっと……それじゃあどうしようかな……」


 女性の客から予想外のことを言われて戸惑ってしまったマーラは、助けを求めるような表情でコン達の方を振り向いてきた。


 こんなことを言ってるがこの女性にもこれから向かう屋敷のことを話すべきか……っと尋ねてきている感じだろうか。


 「無理なようなら他をあたるのでそこまで気にせずとも……ん?。あの男は……すまんがちょっと中に入らせて貰うっ!」

 

 「えっ!、ちょ……ちょっと急にそんな……お客さんっ!」


 マーラの視線につられてその女性もコン達へと目を向けたのだったが、その直後に女性は急に態度を一変させ目の前に立つマーラを押し退けて店の中へと侵入して来た。


 そしてなんとコン達の前まで詰め寄ると腰に携えた剣に手を掛けて構え……。


 「そこの少年……。お前が頭に浮かせているその輪は死霊レイズデットの証しである霊環れいかんだろう。……っということはそっちの女は主の死霊術師ネクロマンサーかっ!」


 「………」


 「ちょっとお客さんっ!。店内で揉め事は困りますっ!」


 「マーラの言う通りだっ!。それにあんたにゃ悪いがそっちは店だけでなく俺達個人にとって大事な客人だ。喧嘩両成敗を掲げてる俺だが悪いが今回はあんたの方だけ出てって貰うぜっ!」


 「死霊術師ネクロマンサーが大事な客人……。それは一体どういう……っとよく見れば貴様はまさかっ!」


 「………」


 「あの悪名高い死霊術師ネクロマンサーっ!、サラ・ネオ・オープラス・ネクロマンシーではないかっ!。何故貴様のような者がこの村にいるっ!」


 「えっ……サラ・ネオ・オープラス・ネクロマンシーって確かっごい額の賞金が掛けられてるあの……」


 「さてはこの近辺で起きている失踪事件も貴様の仕業だなっ!。今この私が成敗してやるっ!。……だがその前に皆をどこへさらったのか白状して貰おうかっ!」


 やはり死霊術師ネクロマンサーというだけで強い敵意を持つ者がいたというわけか、店に押し入って来たその女性はとうとう剣を抜いてその切っ先をサラに向けて突き立ててしまった。


 どうやらサラがマーラの弟達が失踪した事件の首謀者であるとまでの疑いを掛けてきているようだったが……。


 「ちょ……いくらなんでも死霊術師ネクロマンサーってだけで悪者扱いし過ぎじゃないかっ!。サラさんがマーラさんの弟や他の皆を攫ったなんてそんなことあるわけないよっ!」


 「黙れっ!。死霊術師ネクロマンサーの下僕である死霊レイズデッドの言うことなどまともに聞いていられるかっ!。邪魔をするならばまず貴様から叩き斬ってやる……っ!」


 「……っ!」


 「やめてっ!」


 主人であるサラのことをあまりに悪く言われ憤怒したコンは、席を立ちあがった勢いのまま女性を睨み付け、強い口調で反論を行った。


 そんなコンに対し女性は怯むどころか更に強い態度で突き立てた剣を振り上げたのだったが、そんなコンを庇うようにマーラが女性との間に割って入って来た。


 まさかそこまで死霊術師ネクロマンサーとそのしもべである死霊レイズデッドを庇うものとは思わず、女性も動揺を隠せずにいられなかったようだが……。


 「……っ!。まだこの者達を庇うつもりなのか……。あなたは知らないようだがその女はサラ・ネオ・オープラス・ネクロマンシーと言って死霊術師ネクロマンサーの中でも最も悪名高い王国指名手配犯……」


 「どうだっていいわよっ!、そんなことっ!。ただこの人達はこれからさっきからあなたの言ってる失踪事件を調べる為に自分から皆が捕えられてるかもしれない屋敷に行ってくれるって名乗り出てくれたのっ!。私の弟や他の皆を助け出す為にねっ!。この人達に私の弟の命運が掛かっている以上死霊術師ネクロマンサーや他の何であったとしてもあなたに手だしさせないわっ!」


 「何……それは一体どういう……」


 「とにかくこの場は剣を収めてくれや、姉さん。事の経緯についてはちゃんと説明するから……。さっ、悪いが他のお客さん達も今日はとっとと帰ってくれ。でないとまたいつ今みたいな喧嘩に巻き込まれるか分かんねぇぞ」


 「お……おうよ……。とにかく俺達も事件を解決してくれることを願ってるからな。目的が同じならもう喧嘩なんてしないで皆で上手く協力してやってくれよ。……それじゃあな」


 「さっ……あんたも早く剣を……」


 「……分かった」


 店長マスターが上手く取り成してくれたおかげでどうにかこの一触即発の事態を収めることができた。


 そして剣を収めた女性に対し店長マスターとマーラでこれまでの経緯を事細かに説明したのだが……。


 「なる程……そういうわけか……。そういうことならいきなり押し入って剣を抜いてしまった私の方に非がある。そのことについては一先ず謝罪しよう」


 「ふぅ〜……店長マスターのおかげでどうにか疑いは晴れたみたいだね、サラさん」


 「だが死霊術師ネクロマンサー……それもあの悪名高い王国指名手配犯であるサラ・ネオ・オープラス・ネクロマンシーがそのような人助けを行うなどと言われてもそう簡単に信用することはできん……。もしかしたらこの者達を上手く誘い出してまた誘拐するつもりなのかもしれないからな……」


 「だからそれはあなたの勝手な誤解だって……。サラさんが指名手配犯になってるのはこの大陸で一番大きな国のアンファング帝国の王様がサラさん達死霊術師ネクロマンサーのことを理由は知らないけど目の仇にしてるからでしょう。それなら別に死霊術師ネクロマンサーだからって悪いことをしているとは限らないじゃないか」


 「それに案内すると言い出したのは私達の方で最初は場所だけ教えてサラさん達だけで屋敷に向かってくれるつもりだったんですっ!。だから私達が信用すると言っている以上もうあなたは口出ししないでくださいっ!」


 「悪いがそういうわけにはいかない……。真偽を確かめる為にも私もその屋敷へと同行させて貰おう。一応私もこの失踪者の事件を解決する為にここにおもむいたのだからな」


 店長マスターとマーラの説明を聞いても尚その女性はコン達のことを疑っていた。


 更には自分も屋敷の調査に同行するとまで言い出し……。


 「解決する為におもむいたって……あなたの方こそ一体……」


 「これは失礼した。まだ私の方が素性を明らかにしていなかったな。私の名はグナーデ・ディーンスト。ここから北にある都市、リスティヒヴィッツの者だ。ここへはリスティヒヴィッツの冒険者ギルドに届いていたこの村かの依頼を見てやって来た」


 「冒険者ギルド……確かに一応依頼は出しはしたがあんな低額な報酬じゃあ誰も来てくれはしないと思っていたぜ。現にもう依頼を出してから1か月以上は経っているし……」


 「でも冒険者ギルドから派遣されて来たのにここへはグナーデさん一人でやって来たの。昨日僕達を襲って来たジェイスって人達はもっと大勢引き連れ……」


 「コン……」


 「あっ……今はその話はしない方がいいのかな……」


 「別に他の冒険者ギルドの者達との間とのいざこざにまで首を突っ込んだりはしないさ。私自身もその依頼の届いていた冒険者ギルドの正式な一員というわけでもないしな。ただ誰も依頼を受ける者がいないようだったので私が勝手に引き受けて来ただけだ。だから特に報酬などを要求するつもりもない」


 ようやく分かったその女性の名はグナーデ・ディーンストといい、ここから北にあるリスティヒヴィッツからやって来たようだ。


 リスティヒヴィッツはアンファング帝国の領土内にあり、このマルクドルフの村とは比べ物にならない規模の都市で冒険者ギルドもいくつか存在している。


 それにしても報酬も要求せずにここまで来たというのはあまりにも人が好過ぎるのではないかと思えるのだが……。


 「なる程……だから一人だったのか……」


 「けどリスティヒヴィッツってここからだと1週間以上は掛かるわよ……。そんな遠いからたった一人で危険な長旅をして来てくれた上に報酬は要らないなんて……」

 

 「それは私個人の意向によるものなのであなた方は気にする必要はない。それより先程の私も屋敷の調査に同行させて欲しいと言った件についてだが……」


 「わ……私としては戦力は一人でも多い方が心強いと思うけどサラさん達は……」


 「我々も別に構いませんよ。戦力が増えるに越したことがないというのは同意見ですし、それで彼女の我々に対する疑いが晴れるというのであれば好きにして貰って結構です」


 「良かった……。それじゃあ私と店長マスターは支度を整えてくるので少しここでくつろいで待っていてください」


 「飲み物は水とジュースなら好きなのを飲んでていいからな。今から出てれば夕方までには坑道の入り口に着くだろう。大体20分ぐらいで済むと思うから待っててくれ」


 「……分かりました」


 先程のいがみ合いも気にせずサラはすんなりとグナーデの同行を許可してしまった。


 恐らくではあるが彼女の言動から自分達に疑いの目を向けていさえすれこの失踪者の事件を解決したいというのは本心で言っているものと感じたのだろう。


 しかしそれでも互いに信頼し合うまでとまではいかずマーラ達が戻ってくるまでのコン達は無言のまま酒場のフロアで待つことになったのだが……。





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