20話 コンの願い……
「ねぇ、サラさん。その目的の村まであとどのくらい掛かりそう?」
「その質問はもう3度目ですよ、コン。恐らく後3時間程度……遅くとも今日のお昼までには着くとさっきも答えたでしょう」
昨日の野営地を後にしたコン達は引き続き目的の村を目指して荒野の中を歩いていた。
サラの話によると今日の昼頃にはその村に着くことができそうということだ。
現在の時刻は朝の8時を回った程度……。
歩き始めてまだ1時間程度しか経っていないが今日のコンはどうも落ち着きがなく、前を歩くサラに対ししきりに何か話掛けていた。
それも繰り返しになる内容の質問が多く、何となくではあるが本題として聞きたいことがあるにも関わらず何故かそのことを切りだせずにいる感じが見受けられた。
何かサラに対して尋ねにくいことでもあるのだろうか……。
「あっ……夜の間に僕の調合したエリクサーはもう見てくれた?。錬金術用保存箱焚の中に入れて焚き火の前の椅子前に置いてあったでしょ」
「その話ももう4度目です……コン。あなたの調合したエリクサーは皆見事な出来栄えでしたし……それに一つだけエリクサー以外のポーションも調合しておいたのでしょう」
「うん……本には万能薬って書いてあって色んな病気や体に入った毒に対して効果があるらしいんだけど……」
「まだ実際に飲んで確かめたわけではありませんがどれも上手く……恐らくB級と呼べる品質以上には調合できていると思います。万能薬に関しては適度の高い素材が揃っていなかった為簡単な毒に対してしか効かないでしょうが……。そんなことより先程ばかり同じ話ばかりをしてきて一体どういうつもりなのです、コン」
「ご……ごめんなさい……。本当は他にサラさんに聞きたいことがあるんだけど中々言い出せなくて変な質問ばかりしちゃって……」
どうやらコンは夜の間にサラの錬金術用保存箱が一杯になるまでポーションの調合を行っていたようだ。
おかげで今サラの錬金術用保存箱の中には伝説の錬金術師アリエス・ソルティーに調合して貰った“魂と肉体の中和剤”が1本、体力と魔力の回復効果のあるエリクサーが3本、万病の治療や解毒の効果がある万能薬が1本の計5本が保管されている。
教会でも見た通り既にコンの錬金術の腕前は保証されており、十分な効果を保持したポーションを手元に揃えることができてサラもコンに感謝していたようだ。
だが今はそれよりもコンの様子が変であることの方が気になっているようだったが……。
「……?。何か私に聞き辛いと思えるような質問があるというのですか。それは一体どのようなものなのです。朝旅立つ前にも言いましたが、僕としての命がある時以外は私と対等な立場にあると思って接して貰って構わないので遠慮せずに聞いてください」
「そ……それじゃあその……。サラには他にも死霊がいるって言ってたけど……っていうことはやろうとまた新たに死霊を蘇ることもできるってことだよね……」
「ええ……私の魔力にも限りがあるので際限なく蘇らせられるわけではありませんが……」
「それは僕みたいな終焉霊魂を持つ者でも可能なのかな……」
「……っ!。終焉霊魂を持つ死霊をまた新たにですが……。それは……一応可能ではあるのですがそうすぐに行えることではありません。終焉霊魂を持つ死霊蘇らせるには通常の魂を持つ死霊に比べてより多くの材料と準備を必要とします。特に材料に関しては非常に貴重な物もあり……もしかしたらもう二度と手にすることができない可能性すらあります……」
「……っ!。それじゃあその材料が手に入らなかったら僕以外にもう終焉霊魂を持つ死霊を蘇らせるのは不可能ってこと……」
「はい……。S級の品質効果を持つ“魂と器の中和剤”は私の錬金術用保存箱の中に前にも見せた予備の物があります。ホムンクルスの器も時間は掛かりますが屋敷に帰れば再び造り出すことができるでしょう。……ただあなた方の魂をこの世に留めておく為の核となる冥王星の星の欠片だけは今のところ手に入れる算段がありません」
コンがサラに本当に問いたかったことは自身以外の終焉霊魂を持つ死霊の蘇生についての可否だったようだ。
そのような質問をされるとはサラも意外だったようだが、それはつまりコンに蘇らせて欲しい自身と同じ終焉霊魂を持つ存在がいるということなのだろうか……。
「僕達の魂をこの世に留めておく為の核……それって絶対その冥王星の星の欠片ってものじゃなきゃ駄目なの……?」
「そうです。輪廻の理から外れている状態の終焉霊魂をこの世に留めておくには根源級の力を持つ死の属性の魔力を必要とします。この地上で手に入る物質の中で唯一その魔力を宿した物質がその冥王星の星の欠片なのです。しかしその冥王星の星の欠片は1000年に一度宇宙から降り注ぐと謂われており……、今この地球上に存在している数さえ把握できていないのです」
「数も把握できていないってことは当然どこにあるかも分からないってことか……。確かにそれじゃあ手に入れようがないね……」
「しかし何故そのような質問を……。まさかあなた以外に終焉霊魂を持つ者の中で蘇らせて欲しい者がいるというのですか。もしやあなたの生前の記憶がまた戻って……」
「い……いや……。ハッキリとじゃないんだけど確か生きている内に僕にとって凄っごく大切な人がいたなって思って……。その人がどんな人だったかも思い出せてないんだけど死霊として蘇ることができたらまた会えるかもしれないと思って……」
コンにとっての大切な人……。
一般に考えてそれは家族や恋人、親友にあたるような人物であると思われるが果たして……。
コンはハッキリと思い出せずにいると言っていたがもし先程の夢の少女のことを言っているのだとしたら恋人……っと呼べる人物である可能性が高いのではないだろうか。
「そうですか……ですが記憶が戻りつつあるのは良い傾向ですね。あなたが私に聞きたかったという話についても分かりました。まだ確約はできませんがもし冥王星の星の欠片が手に入るようなことがあればあなたのその大切な人を蘇らせる為に努力してみましょう」
「えっ……そんな約束簡単にしちゃっていいのっ!。冥王星の星の欠片って凄く貴重なものなんでしょ。それなのに僕の勝手な希望で蘇らせる魂を決めるなんて……」
コンの要望に対しサラはあっさりとそれを許諾してしまった。
終焉霊魂を持つ死霊の蘇生などそう易々と行えるものではない。
であるにも関わらずその蘇生する相手をいくら僕として信頼をおいているとはいえコンの要望に従った者にするとは少し人が好過ぎるようにも思えるが……。
「……?。ああ……なる程、私に聞き辛いというのはそういう理由があったからですか。ですがそのことに関してあなたが気にする必要はありません。死霊術師にとって生前その者とゆかりのあった魂を蘇らせるのは数多くのメリットをもたらすのです。少なくとも見ず知らずの魂を蘇らせるよりマシでしょう。あなたの魂との強い繋がりがあるのならその者の魂を選別して呼び出すことも可能でしょうし……」
「そ……そうなの……。でもサラさんが僕の希望を聞いてくれてくれて嬉しくはあるんだけど僕はまだその大切な人のことをハッキリと思い出せたわけじゃなくて……」
「なんにせよあなたと強い繋がりを持つ魂を蘇らせるつもりであることに変わりはありません。最も再び冥王星の星の欠片を手にすることのできる可能性の方が少ないのであまり期待はしないでほしいですが……」
「そ……そうだよね……」
「さぁ、話が済んだのならまた先を急ぎますよ。この話の続きはまた私の屋敷に着いてからです」
「は……はい」
どうやらサラは元々もう一度終焉霊魂を持つ存在を死霊として蘇らせる機会があった場合、生前コンに近しかった人物を選ぶつもりであったようだ。
コンの要望をすんなりと受け入れたのもその為だろう。
その理由についてサラは死霊術師にとっても多くのメリットがある為と話ていたが……。
本当はサラの心に蘇らせる魂に対する強い敬意や配慮する気持ちがあるからではないかとコンはそう感じていた。
メリットだけで選ぶならばコンに近いしい人物以外でもより強い力を持った死霊を蘇らせた方がいい場合も十分に考えられるわけでもあるし……。
そんなサラに感謝の思いを寄せながらコンは後に続いて目的の村を目指して行った。