19話 コンの見た夢……
「私があいつの足止めをするからコンっ!。あんたはその間にアジューの召喚の詠唱を……」
「分かったっ!、ルナっ!」
自身を死霊として蘇らせてくれたサラと共に旅をしているはずのコン……。
しかしそのサラの姿はどこへ行ったのか、コンは淡い紫色をしたポニーテールの髪と少女と共に人の姿をしたトカゲ、ファンタジーの世界でもよく登場するリザードマンと思われるモンスターと戦っていた。
ポニーテールの少女は両手にそれぞれ持った銃から魔力の弾丸を撃ち放ち、なるべく敵を牽制するようにして動きを止めようとしていたのだが……。
「天から地への制約は……汝と我の誓約よりて満たされる……、汝と我の魂は……天と地の契約よりて紡がれ……」
“グオォォォォッ!”
「……っ!、こいつ……っ!」
「……っ!、ルナっ!」
しかし相手のリザードマンはポニーテールの少女の撃ち放つ魔力の弾丸の嵐をまともに食らいながらも気力で耐え凌ぎこちらへに向かって突っ込んできた。
それを見たコンは慌てて呪文の詠唱を中断し少女の援護に向かおうとしたのが、既に大きく剣を振り上げたリザードマンが少女の目の前まで迫って来ており……。
“グオォォォォッ!”
「きゃあぁぁぁーーーっ!」
「ルナァァーーっ!」
勢いよく振り下ろされたリザードマンの剣の刃によって大きく体を斬り裂かれた少女はその傷口から大量の血を噴き出し、悲痛な叫び声を上げながら地面へと倒れ込んで行った。
少女の名を叫びながらコンは慌てて少女の元へと駆け寄っていき抱き抱えるように体を起こしていったのだったが……、何故がその直後二人の周りは完全な漆黒へと包まれていき、敵のリザードマンの姿もその中へと消えていってしまった。
漆黒の世界の中必死に少女に回復魔法を掛けようとするコンだったのだが……。
「ど……どうして……いくら魔法を掛けてもルナのHPが全く回復しない……このままじゃ……」
「……コン」
「……っ!、喋っちゃ駄目だっ!、ルナっ!」
「どうして私は蘇らせてくれないの……。私もまた一緒にコンと冒険がしたい……」
「だから今必死に回復魔法を掛けてるんだけど何故か効果が……ってあれ?。でもよく考えたらこれはゲームの中の出来事のはずなのに何をこんなにうろたえてるんだ……僕は……。ゲームのバクでHPが回復しないからってそんなの一度ログアウトしてからまたやり直せばいいだけ……」
「………」
「……ルナ?」
必死に少女を回復させようとしていたコンだったが急に我に返ったかのような言葉を言い出すとそれに伴って
どういうわけか少女も苦しむのを止め、体の傷も完全に癒えてしまいその場に立ち上がってしまった。
そしてキョトンとしたまま疑問の表情を浮かべるコンに対し……。
「もうっ!、折角わざわざいい雰囲気の夢を見させてあげてたのに良いところで余計なこと思い出しちゃってっ!。その癖そっちの世界ではゲームのパートナーだった私のことを全く思い出す気配がないんだからっ!」
「そ……そっちの世界……。それに思い出すってどういう……」
「別に私までサラさんに蘇らせてくれるよう頼んでなんて図々しいこと言うつもりはないけど……。せめてパートナーして毎日あんたとゲームを遊んであげてた私のことくらい思い出してくれてもいいんじゃない。フォンシェイのことはさっさと思い出してもう召喚までしちゃったくせに……」
「だ‥…だからそんなこと言われても僕には何のことだか……」
「もういい……。もう私のことなんて忘れてサラさんと二人で仲良くやってけば……。どうせ私が蘇ってもお邪魔虫になるだけだし……」
「だからさっきから何のこと言ってるのっ!。勝手に不貞腐れたようなこと言ってないでちゃんと説明してよっ!。僕にとってルナはゲーム仲間の中で一番大事なパートナーだったんだから……ルナァァーーーっ!」
コンに悲しげな背を向け暗闇の中へとポツポツと歩いて行き次第にコンの視界からその姿を消していく少女……。
再び少女の名を叫びながら後を追って手を伸ばすコンであったがもう届くことはなく……。
「ルナァァァーーーーっ!。……ってあれ?」
必死に少女の肩を掴もうと手を伸ばしたコンだったが、既に少女の姿はなく、代わりに伸ばした手の先からは再び視界を照らす光が差し込んできた。
しかしその再び照らし出された視界の先に広がっていたのは先程リザードマンと戦っていた世界ではなく、サラとコンチビ共に野営地を張って過ごしたあの荒野の景色だった。
「な……なんだ……夢だったのか……今のは……。だけどあのルナって子は一体誰なんだ……」
「目が覚めましたか、コン」
「……っ!、サラさんっ!」
突然入れ替わった光景に戸惑いながらも先程までの出来事が夢であると気付くコン。
ずっとルナと呼んでいるあのポニーテールの少女のことが未だ気になっている様子だが、そんなコンに先に起きて朝早くから火を焚いて朝食の準備をしていたサラが声を掛けて来た。
サラの姿を見たことでようやくコンの意識もハッキリとしてきたようだ。
「全くあれ程天幕の中に入って眠るように言ったのにそんな岩場にもたれて寝てしまうとは……。それ程までに私と同じ空間で寝ることに抵抗があったというのですか……」
「そ……そういう訳じゃなくて僕はサラさんの僕なんだからやっぱり同じテントに入って寝るなんて烏滸がましいと思って……」
「はぁ……あなたが私の僕あることを自覚して下さるのはとても嬉しいことではありますがあまり無茶をされては困ります。それに私はあまり僕の死霊に対して主従の関係を強いる
のは好きではありません。勿論私の命令には従って貰いたいですがそれ以外の時は一人の対等な人間であると思って接して下さい」
「うーん……一人の対等な人間としても異性として深い関係でない女性と同じ空間で寝るのはあまりよろしくないものとは思うだけど……やっぱりサラさんの言う通りせめてテントの中に入って寝るべきだったと思います。折角気を遣って貰ったのにごめんなさい……」
「分かって貰えれば結構です。……さぁ、そんなことより朝食の準備ができたので早く食べましょう」
「えっ!、朝ご飯もまたサラさんが作ってくれたのっ!。なんかサラさんのことが主っていうよりお母さんのように思えてきたよ……。ところで朝ご飯の献立はどんなもの?」
「昨日のアース・ラプターの残りの肉を焼いた物と骨から出汁を取って作ったスープです。食べ終わったらまたこの先に村を目指して出発しますよ。……コンチビもいつまでも眠ってないで早く起きて来て朝食を食べてください」
“コンッ……”
サラに呼ばれてまだ眠そうな顔でコンチビがテントの中から出て来た。
しかしそれはコンチビが朝に弱いというわけでなく、早朝の5時半から目を覚まして朝食の準備をしていたサラの起床時間が早すぎる為であった。
今の時刻はちょうど朝の6時を回ったところであったが、この後コン達は20分程で朝食を済ませ、6時半には再び昨日と同じくこの先にあるという村を目指して旅立っていった。