16話 襲い来るアース・ラプター、そして野営地の設置
「はぁ……もう半日近く歩いたかな……。まだ荒れ地のど真ん中を歩いてる最中だっていうのにとうとう日が暮れ始めてきちゃったよ……」
教会を出てから真っ直ぐ東に向かって移動していたコン達であったが、気付くとただ何もない荒野を半日近くも歩き続けていたようで、日の出と共に出発したはずがもう日が暮れ始め段々と辺りが薄暗くなってきていた。
時刻でいうと大体18時前後といったところだろうか……。
できるならば視界が完全に暗くなる前に今夜の野営する場所を決めたいところだったのだが……。
“グオォォォォッ!”
「……っ!、な、なんだ……こいつ等は……っ!。恐……竜……」
そろそろ今夜の野営地となる場所を探さねばと考え始めていたコン達の前に、突然通り過ぎようとした両脇の岩場の影から2体の巨大なトカゲのような姿をした獣が飛び出して来た。
トカゲと言っても人のように後ろの二本の足のみで立ち、鋭い鉤爪のついた前足をコン達へと突き立てており、今コンが口ずさんでいた通りコン達の時代では絶滅しているはずの恐竜のような姿形をしていた。
サラやジェイス達のように強力な力を持った人類が高度な文明を築いているというのにこの時代ではまだ恐竜が絶滅せずに生き残っているということなのだろうか。
その体長が2メートル前後……。
コン達の時代の標本に記載されている中で恐らくヴェロキラプトルと呼ばれるものであろうその小型の恐竜は今にも襲い掛かってくるかのようにコン達に対して敵意を露わにしていたのだが……。
「こいつ等はアース・ラプターといってラプター種の中でも特に土属性に特化魔力を持つものへと変異した個体です。モンスターにしては知能は高くこの岩場の影に隠れて我々を待ち伏せていたのでしょう」
「ぐっ……まさかこんな人間の脅威となるような生物が普通に生息しているなんて……」
「何を動揺しているのです、コン。確かに獰猛ではありますがあなたの実力ならばこの程度のモンスターに
怖気づく必要はないでしょう」
「そ……そりゃゲームの中でならこういったモンスター達を毎日のように倒してはいたけど……」
生前にコンがプレイしていたVRゲームのなどでこういった小型の恐竜などはまだそれ程強くない序盤の敵モンスターとして定番だった。
自身のキャラクターの経験値アップやスキル習得、ドロップアイテムの取得等の為にそれこそ毎日のようにこういったモンスター達を倒していたコン。
しかしいくらこれまでもVRの中で戦ってきたとはいえやはり現実の世界で相対するとその存在感は凄まじく、こちらも同じようにゲームの中のフィロソファーとしての力を持っていながらもコンは敵の気迫に押されたじろいでしまっていた。
“グオォォッ……”
「……っ!、来ますよっ!、コンっ!」
「……っ!」
“グオォォォォッ!”
「くっ……氷の槍っ!」
動揺するコンを見てすぐさま襲い掛かってくる2体のアース・ラプターであったが、大きく地面を蹴って飛び上がって来たところを教会でのジェイスの仲間達と同じように氷の槍で腹部を貫かれ、そのまま絶命し地面へと落下してしまった。
先程は敵を目の前にうろたえているコンの姿に疑問を感じていたサラもその光景を見て安心した様子で、流石と賛辞を送りながら倒れたアース・ラプターの元へと向かっていった。
「流石です……コン。先程大した相手ではないと言いましたが俊敏性の高いラプター種を相手にこれほどまで的確に攻撃を命中させることができるとは……」
“コンコンッ♪”
「う〜ん、まぁゲームの中でも戦ってた比較的雑魚に近いモンスターと同じような動きだったからね。いくらスピードがあっても直線的な攻撃には簡単にカウンターを合わせられるよ」
「そのカウンターもあなたのその詠唱時間を全くと言っていい程必要としない魔術の腕前があってのことでしょう。我々の世界にもそれ程短い詠唱時間でこれだけの精度の魔術を発動させることのできる魔術師は片手で数える程しか存在しません」
「僕は魔法の威力より詠唱時間を短縮させる方の能力を優先して取得してたからね。多分その影響がこの世界の僕にも反映……ってさっきから倒したモンスターの前に突っ立ってどうしたの、サラさん」
「いえ、折角ですので今日の夕食はこのモンスター達の死体から調達しようと思って……。どの部位の肉を取ろうか迷っていたのですが……ちょっと私の荷物の中からナイフを取って貰えませんか」
「ナイフ……これか……ってデカっ!」
サラの荷物からコンが取り出したナイフはとても女性が持ち歩く物とは思えない巨大で鋭利な刃を持つ物であった。
どうやらサバイバルナイフのようであったが、戦闘から今サラが行おうとしている肉のそぎ落とし、その他野営の為に様々な用途で使用できる万能な造りとなっているようだった。
コンの生きていた時代ではまず携帯する必要のないものだったが、これだけ荒れ地の広がる世界ではまさに必需品として旅をする者なら誰でも持ち歩いているような物ではないだろうか。
コンからナイフを受け取ったサラは死体となった一体のアース・ラプターからまず内臓を抜き出し、血が抜けるまでの間その場で放置することにしたようだ。
そしてこの二体のアース・ラプター達が隠れていた岩陰が今夜の野営地として適していると判断したようで……。
「今日はそこの岩陰に野営地を敷きましょう。私はこのラプターの死体から血が抜けるの待ってから肉を調達して持っていくのであなたは私の荷物から天幕を張って火を焚いておいてください」
「天幕って……テントのことか。でも火を焚いておいてって言われても僕は自分で火を起こしたことなんて……」
「……?。そんなの火属性の魔法を適当に使えば済むのでは……」
「そ……そっかっ!。この世界では魔法が使えるんだったっ!。なんかまだ今一感覚が掴めないな……。それじゃあキャンプの準備をするぞ、コンチビっ!」
“コンッ!”
サラから指示を受けてコンはコンチビと共に岩陰の方へとテントを張りに向かった。
周囲に見える岩陰の中ではここが一番大きく、ちょうど岩と岩とが上手く重なってほぼ完全に風に防ぐことのできる箇所があったのでコンはそこに野営地を敷くことにしたようだ。
そして枯れ木を集めて火属性の魔法で焚き火を起こし、サラがアース・ラプターの肉を調達してくるのを待っていたのだが……。