15話 日の出と共に出発
「眩しいっ!、……外はもうすっかり明るくなっちゃってるみたいだね」
地下の探索を終え再び礼拝堂のある上の階へと戻って来たコン達。
どうやらエリクサーの調合を試している間に外はもう夜明けを迎えていたようで、ゆっくりと開かれていく教会の扉の隙間から眩いばかりの日の光が差し込んできた。
そのまま教会の外へと出たコンが眩んだ目を凝らしながらゆっくりと開いていくと、そこには初めて見ることになるこの世界の自然の風景が広がっていた。
一体自身が生きていた時代から1億年が経過したこの世界の景色はどのようなものなのだろうか……っと胸をワクワクしていたコンだったのだが……。
「うわぁ……凄い……。一面荒野が広がっててあんなに遠くまで見渡せる……こんな広大な景色ゲームの中でも見たことないよ……」
「……?、こんな荒野の果て……一面続く荒れ地と廃墟となった建物しか見当たらない景色に何をそんなに見入っているというのですか、コン。先程の冒険者ギルドの者達がやって来たという王都の街並みを見たというのならともかく……」
「えっ……いや、僕の生きてた時代だとこんな何もない景色の方が逆に珍しいっていうか……。勿論探せばあるんだけど密集した建物の景色と大勢の知らない人達の行き交う中で生活するのが僕等の日常だったから……」
コンが目を見開いた先に広がっていたのはどこまでも果てしなく続く荒野の光景だった。
一応この教会から出た付近には民家と思われる建物がありこの辺りに人の集落のようなものがあった形跡はあるのだが、、どの建物もこの教会以上に朽ち果てておりとても人が住んでいるようには思えなかった。
「そうですか……。まぁ、私も偶にこういった茫漠とした景色の中で漠然と立ち尽くしたくなるような時はあります。荒れ果てた地であってもやはり人の手から放れた場所の方が澄んだ気に包まれていますしね」
「そうだね……でもやっぱりこの辺りには誰も人は住んでないの?。いくつか建物があるけどこの教会と一緒で皆廃墟になってるみたいだし……」
「アンファング帝国にこの地が放棄されてから随分と経つようですからね。皆帝国の恩恵を求めて王都に近い地へと移り住んでいったのでしょう」
「アンファング帝国……でもそれじゃあこの近くにはもう人が住んでるような場所はどこにもないってこと?」
「いえ……確かここから二日程歩いたところに村がありました。この辺りにしてはそこで暮らしている人も多く、宿屋や酒場などもあったと思います。一度ちゃんとした場所で体を休めたいですし一先ずその村を目指すことに致しましょうか」
「ぐっ……それでもその村まで二日も掛かるのか……」
「……?、それはどういう意味です。死霊であるあなたが二日程度歩くのがそんなに疲れるとでも……コン」
「い、いや……そうじゃなくてちょっとお腹が空いたなって思って……」
「お腹……?」
“グゥ〜……”
コンがこの近くに人の住む場所がないか気にしていたのはどうやら空腹を感じていたからのようだ。
どこか村のような人が集まっている場所へといけば食べ物を分け与えて貰えると考えたのだろう。
「ああ……空腹を感じているということですね。それならばその扉の入り口の脇に置いてある私の荷物の中にいくつか果物が入っているので適当に取り出して食べて下さい。……あとできればこの後の移動するのに荷物を持って貰えると助かります」
「はいはい……ちょっと重いけどそれぐらいお安い御用ですよっと……」
“ゴソゴソッ……”
「……あったぞっ!、これは……リンゴだっ!。これなら僕の時代にもあったし何の心配もなく食べられるや。……サラさんも食べる?」
「そうですね……では一つだけ」
「一つだけね……ほいっと」
「ありがとうございます」
コンから投げ渡されたリンゴを受け取るサラ。
どうやらコンと同じようにサラも先程の戦闘での消耗もあり多少の空腹を感じていたようだ。
勿論朝食の時刻であるというのもあっただろうが……。
「えーっと……あとそこの魂ぎつねだっけ……。お前はお腹空いてないのか?」
“コンッ!”
「どうやらあなたから湧き出る『正の霊力』をふんだんに吸収してもうお腹一杯のようです。もともと魂ぎつねのような霊獣は我々のようにあまり物質を持つ食材からエネルギーを摂取することを必要としていません」
“コンッ!”
「さて……ではそろそろ先程話した村を目指して移動を開始しましょうか」
“コンコンッ!”
「やっぱりお前もついて来るつもりなのか……。魂ぎつねって毎回呼ぶのもあれだし……なんかこいつに名前ってないかな、サラさん」
「そうですね……。では小さいコンっということでコンチビっというのはどうでしょうか」
「コ……コンチビぃっ!」
“コンコンッ!”
自分達について来るつもりである魂ぎつねの呼び名についてだがサラからコンチビにしてはどうかという提案がなされた。
自身に対する呼び名ではないとはいえ同じ名前を持つコンからしてみればチビというのは若干の抵抗があったようだ。
しかしコンのことを気に入ってる魂ぎつねからしてみればコンと兄弟にでもなれたようで嬉しかったのだろうが、サラの提案に対しそれがいいと言わんばかりに大きく顔を振って頷いていた。
これはもうコンチビに決まりとなりなそうだ。
「はぁ……まぁ、でもサラさんに言われたのなら仕方ないか……。それじゃあこれからよろしくな、コンチビっ!」
“コンコンッ!”
こうしてコン達はここから一番近い村を目指して移動を開始した。
コンが持つことになったサラの手荷物の中には野営の為の道具も一式揃っており、村まで二日以上掛かるということで途中で野宿して夜を越すことになりそうだ。
コンにとってはこの未知なる世界での初めての旅路……。
それもこの荒れ地となった屋外で夜を過ごさなければならないという……。
先程のジェイス達のようにコン達にとって脅威となるものが何も待ち受けてなければ良いのだが……。