12話 教会の地下の探索
「……やっぱり地下だけあって灯りがないと暗いね、サラさん」
サラについて教会の地下へと続く階段の前へと来たコンだったがその暗闇の視界の悪さに思わずたじろいでしまっていた。
死霊となっても暗闇を恐れる人間としての本能は残されているようだ。
最も主人であるサラが危険に晒されるようなことがあれば例え暗闇の中でも思わず突っ込んで行くだろうが……。
そして先程の会話でより主と僕として打ち解けた影響かコンのサラに対する言葉遣いがよりフランクと思えるものに変わっていた。
別に自身に対する敬意がなくなったようには感じなかったのでサラも特に気にしてはいなかったようだ。
サラの方は依然として僕であるコンに対してもとても丁寧な口調であったがその辺りは個人の性格によるものだろう。
「少し待ってください……。今私の魔力を送って灯りを復興させます……」
“パアァ〜〜〜ンッ!”
階段の入り口にあった灯りのスイッチと思われるものへとサラが手を翳して魔力を送る……。
するとどういうわけか突如として廃墟となった教会の照明設備が復興したように地下へと続く階段から順に灯りが灯っていき、その下った先にある区画まで照らし出されていった。
「……っ!。完全に廃墟になってる教会の電気が……。この世界の電気は魔力を元にしているの?」
「電気……それはこの灯りのことですか。これだけなくこの世界の設備は全て魔力を元にして動くよう造られていますよ。本来は魔力の供給機器が設備に必要な魔力を送ってくれるはずなのですが……流石に稼働していないでしょうから私の魔力を代わりに送りました。これで数分、まぁ、蔵に行って戻ってくる程度は灯りが維持できるはずです」
どうやらこの世界の設備はコン達の世界とは違い電力ではなく魔力を供給することで稼働するよう設計されているようだ。
っといってもその設備自体もコン達の世界のものとはまるで違い、今地下を照らしていった灯りもコン達の世界の電球のように明るいものではなく、教会内に設置された松明に自動的に火が灯るよう仕組まれていただけのようだったが……。
それでも魔術により松明に特殊な加工が施されており、何十年もの間燃焼部がなくなることなく火を灯し続けることが可能だったようだ。
そんな魔術による灯火に淡く照らされた階段をコンはサラに続きゆっくりと下っていったのだったが……。
「着きました……ここです」
地下へと下りたサラとコンは暫くしてこの教会の蔵への入り口であると思われる扉の前まで来ていた。
灯りが点いたといっても埃が舞い至るところに蜘蛛の巣の被った教会の地下は薄暗く、木材が朽ち果て金具の部分が錆び付いた扉もまるでその色合いを感じさせず、パッと見ではそこに扉あると気付かずに通り過ぎてしまいそうであった。
そして木材の軋む音を鳴り響かせながらサラがその扉をゆっくりと開いていき……。
「ふぅ……先程もそうでしたかここの扉はどれも動かす度に不気味な音を響かせるので気が滅入ってしまいます」
「それに蔵の中はまだ暗いままみたいだけど……。これじゃあ中にどんなものがあるのか分からないよ、サラさん」
「確かここの灯りは通路とは別の回路になっていたはず……」
再びサラが照明の電源へと魔力を送り、蔵の中に灯りが灯った。
通路のものとは回路が別が話ていたが、その照明元の器材も松明のようなものではく、コン達の世界の電球に近いもので
蔵の中を昼間の屋外にいるように明るく照らし出していた。
どうやら火属性と雷属性の魔力を掛け合わせたこの世界では少し高級な照明器具であったようだ。
「うわっ!。……なんか急に眩しくなったね」
「蔵の中は色々な物がしまってありますのであまり視界が悪いと危ないですからね。確かこちらの方に目的の錬金術に使用する器具が……ありましたっ!」
「本当っ!、サラさんっ!」
照明がより明るくなったおかげでサラもすぐ目的の錬金術に使用する器具を見つけることができた。
コンもこの世界の錬金術がどのようなものか気になっていたようですぐにサラの元へと駆け寄って行った。
「これが錬金術に使用する器具の一つです。これは携帯用の簡易的な装置となっておりポーションの調合にしか使用できませんが……」
「……っ!。これがこの世界の錬金術を行う為の器具……」
「ええ、この蔵に施された保存の魔術の効果がまだ残っていたようで劣化もほぼしていないようです。これならば今すぐ
錬金術の調合を行っても大丈夫でしょう。……さあ、一先ずそれを腕に装着してみてください、コン」
「う、腕に……。このベルトを巻いて留めればいいんだよね。服の袖の上から巻いて大丈夫かな……」
サラから手渡されたその錬金術に使用する器具だが、腕にベルトを巻いて装着する携帯型のものとなっており、腕時計を見る時と同じように手の甲を顔の方に向けて使用するもののようだ。
そしてその手の甲の部分に取り付けられた装置の中央にある手の甲に沿った細長い窪みにはコン達の世界でよく実験などに使用する、試験管とほぼ同じ形状の透明な容器が設置されていた。
更にその両側にはそれぞれ3つずつ小さい円形の容器が設置されており、試験管の口が嵌め込まれている装置へと続く細長い透明の管が繋がっていた。
「よし……これでOKっと……。それでどうやってこれで錬金術の調合を行うんですか、サラさん」
「それは携帯用の錬金術の器具でポーションの調合を行う為のものです」
「ポーション……。それって僕のやってたゲームだとHPを回復する為のアイテムだったけど……現実の世界だと水薬ってことになるのかな……」
「そう……ですね……。確かに飲み薬として服用ものが多いとは思いますが……、我々の世界ではポーションは錬金術により様々な効果を付与されて調合された液状の薬品の総称です。その用途は飲み薬として以外にも爆薬や製造の材料、物質の性質調査などその付与された効果により様々です」
「ば……爆薬……。確かにそれは間違って体に服用しちゃうと大変なことになりそうだね……」
「その携帯用の器具によるポーションの調合は最大で6つの材料から成分を抽出して行うことができます」
「6つの材料……っていうとこの小さい円形の容器に……」
「はい。そこに素材となるものを設置し錬金術の調合を行うことで中央の薬瓶に出来上がったポーションが注ぎ込まれます」
「な……なるほど……でも素材を置くだけでできるなら誰でもその錬金術を使えるんじゃ……」
「いえ……素材を置いた後実際に錬金術の調合を行うにはその装置に適切な属性と量の魔力を送らねばなりません。その送り込む魔力の調整が非常に難しく、経験のない者が調合が行ってもまとな効果を持ったポーションを作り出すことができません。私も何度が兆戦してみたのですが……」
「………」
「出来上がったポーションのどれもが服用後自身の体に頭痛や腹痛といった異常が起こり数日間寝込んでしまうことなりました。あなたをこの世に蘇らせるの必要だった魂と肉体の中和剤も腕の良い錬金術師に調合して貰ったわけですし……」
「そ……そんなに難しいことが僕にできるんですか……。話を聞く限り僕がゲームの中で体験していたものと全然違うけど……」
「まぁ、取り敢えず一度やってみてください。確かあの辺りの棚に錬金術の基礎が記された書物が……。それを読めばある程度必要な材料も分かるでしょう。その材料となるものも大抵はこの蔵の中に揃っているはずですし……」
そう言ってサラは錬金術の基礎となることが記された本を手に取り、そのページを開いてコンへと見せた。
そこにはサラが先程調合しようとして失敗したと話していたポーションのことが記載されており……。
「まずあなたには最も基本となるこちらのポーションを調合して貰いたいのです……」
「えーっと……エリクサー……。体力や魔力などを回復をさせる効果を付与されたポーションの中で最も基本となるもの……だって。エリクサーなら僕の世界のゲームにもよく登場してたよ。飲めば不老不死になれるっていう幻の霊薬のことだよね。僕のやってたゲームだと大抵はHPとMPを即時全回復させる効果だったかな」
「こちらの世界でも流石に不老不死となることはできませんが……。調合されたポーションの完成度によっては瀕死の状態であっても即座に万全の体調まで回復できると聞きます。完成したポーションにどれだけの効果を持たせることができるかはその調合を行った錬金術師の腕前次第ということでしょう。それでエリクサーの材料となるものがその横に記されていると思うのですが……」
「えっ……でも6つどころかすぐには全部把握できないぐらい材料の名前が一杯書かれているよ……。この中から好きなのを6つ選んで調合するってこと?」
「そうですね……勿論必須となるものもあるのでしょうが……。取り敢えずこの蔵の中に材料となるものがあるか探してみましょう」
そう言ってサラはまた蔵の中を散策し始めた。
コンも材料を探すのを手伝いたかったのだが流石に名称を見ただけではそれが何のことを指しているのか分からなかったようだ。
そして仕方なくその場で待っていたコンのところへと蔵の中から材料となりそうなものを見繕ったサラが戻って来たのだが……。