10話 ジェイス達との決着……撃ち放れた無限の閃光っ!
「だ……誰かフィロソファーって聞いたことあるか……」
「い、いや……俺はそんなの聞いたことないぜ……ジェイスは?」
「……知らん」
「そうだよな……なら魔術師ギルドの旦那は?」
「さぁ……確か哲学者を指す言葉だったと思いますが……。自らをそのように呼称する者には今までに会ったことがありません」
「………」
自身をフィロソファーと呼称するコンに困惑するジェイス達……。
一応哲学者というその言葉の意味を知っている者はいたようだが、ジェイス達の世界で自身をそのように呼称する者は少ない。
それにジェイス達からしてみれば哲学者であることとコンが自分達を圧倒する程の強大な力を持つことと何ら結びつきが感じられないはずだ。
そもそもコンの言うフィロソファーとはコンが生前プレイしていたNEVER FOR GET YOUR SOULのゲーム、
そのゲーム内でこそ最上級クラスの職業としてその名を轟かせる存在であり、ジェイス達には哲学者という言葉の意味以外で通じるはずがなかった。
「哲学者って自分達のことを真理の探究者とか言ってるちょっと頭のおかしな連中のことでしょ……。何も世間から認められるようなことはしてないくせに偉そうなことばかり言うムカつく奴等……。この状況で自分がその哲学者だなんて私達のことを馬鹿にして言ってるのっ!」
コンのフィロソファーという言葉を自身が哲学者であると宣言したものと勘違いした弓術士の女は怒りを露わにしてその哲学者のことを罵倒していた。
どうやらこの世界ではコンが生前生きていた時代の世界に比べて思想や哲学といった分野はかなり軽んじられているようだ。
生まれつき魔力という強大な力を持っていた彼等が文明を発展させるのにそれらの分野はあまり必要とされなかったということなのだろうか。
「いや……もしかしたらあいつは本当にその哲学者なのかもしれないぜ……。だって自分のことをフィロソファーだって言う前に何とかのレベルがどうちゃらって本当に頭のおかしい奴みたいなこと言ってたし……」
「ちっ……これ以上あいつの戯言に付き合ってられるかっ!。あんな出来損ないの死霊に質問した俺が馬鹿だったぜっ!。……もういいからさっさとあんな奴片付けて今度こそサラの奴を始末するぞっ!」
「おうっ!」
戻って来たリーダーのジェイスの言葉に仲間達は奮起しコンへと攻撃を仕掛ける為臨戦態勢を取った。
しかし戦意を取り戻したはいいがそれでコンとの実力の差が埋まるわけもない……。
あとはリーダーのジェイスの指揮によりどれだけパーティが連携を取って戦えるかであるが……。
「よし……今度は俺と魔術師ギルドの方の2人の魔法……そしてお前の弓であいつを牽制するぞ」
「分かったわ、ジェイスっ!」
「俺達が必ずあいつに隙を作り出す……。そしたら今度はさっきのようにバラバラではなくお前達で一斉にあいつに攻撃を仕掛けるんだっ!」
「よっしゃっ!」
皆に指示を出した後ジェイスは魔法を放つ為自身の身に魔力を溜め始める……。
どうやら今度は剣術ではなく魔法を主軸として戦うつもりのようだ。
しかし敵を牽制すると言っておきながらジェイスは魔力を身に蓄えたまま魔法を発動させる気配はなく、結局さっきと同じように魔術師ギルドの男のファイヤー・ボールと弓術師の女の放つ矢で牽制の為の攻撃を仕掛けていくことになったのだが……。
「……はあっ!」
「………」
魔術師ギルドの男も先程より気合が入っているのか今度はより大きく威力の込められたファイヤー・ボールの火球を作り出し、止まることなくコンに向けて撃ち続けていった。
軽やかな身のこなしでステップを踏み、時には飛び上がって撃ち放たれてくる火球と矢を躱し続けるコンであったが、先程までとは比べ物にならない頻度で襲い来る攻撃に次第にその動きを制限されてしまっていく……。
更に相手もコンの動きのパターンを見極めてきたのか攻撃の制度も的確になっていき、コンはついに攻撃を躱すべき方向を見失い一瞬ではあるが動きを止めてしまった。
そしてその隙を待っていたと言わんばかりにジェイスが溜めていた魔力を一気に解放し……。
「今だっ!。……はあぁぁぁぁっ!」
「……っ!」
ジェイスが魔力を解放すると共に突然動きを止めてしまったコンの周りに大量のファイヤー・ボールの火球が出現する……。
通常ファイヤー・ボールの魔法は魔術師ギルドの男のように自身の周囲に火球を作り出しそこから相手に向けて撃ち放つが、ジェイスはその卓越した火の属性の魔力の扱いにより自身から半径20メートル以上離れた場所にまで火球を作り出し、そこから好きな方向に向けて撃ち放つことができる。
この技能を使いジェイスはコンを周りに……下から8個、6個、4個、そして頭上に1個の合計19個の火球を完全にコンを包囲するように一気に作り出したのだった。
更には隣接する火球に込められた魔力が互いに呼応して熱の膜を作り出し、同時に敵を数千度を超える熱のバリアの中へとコンを閉じ込めてしまうのだった。
このバリアの中に閉じ込められては後はもう撃ち放たれてくる火球に身を焼かれるしかない……。
ジェイスはこの自身の技能を活かして編み出したこの魔法の技を火球包囲攻撃と呼んで自身の必殺の魔法として愛用しており、これまで数多くの強敵をこの技で葬り去っている。
「……これで終わりだっ!」
「おっしゃぁぁぁーーーっ!、流石ジェイスだぜぇぇーーーっ!。俺達に一斉に仕掛けろとか言っておきながら初めから自分で決めるつもりだったんじゃねぇかっ!」
「油断するなっ!。まだこの技であいつを仕留めきれると決まったわけじゃないっ!。お前達は初めに指示した通り俺が魔法を撃ち終わった後を見計らって一斉に攻撃を仕掛けるんだ」
「へいへい……。まぁ、ジェイスの魔法で焼け焦げた相手の体を斬り刻むのもたまにはいいもんか」
「………」
「ちっ……その余裕の表情……。今そのムカつく面ごとお前を焼き尽くして消し炭にしてやるぜ。……はあぁぁぁぁぁーーーーっ!」
“バアァァァーーーンッ!”
ジェイスの引き金となる叫び声が響き渡ると共に19個の火球が一斉にコンに向けて襲い掛かった。
更には弓術師の女も限界まで弦を引き狙いを絞って矢を放ち、魔術師ギルドの男も今の自分の魔力が出せる限りの火球を作り出しその全てを一気にコンに向けて撃ち放った。
逃げ場を奪われたコンにそれらを躱す術はなく、全ての火球が直撃する共にその爆炎の中へと身を包まれていった……。
「………」
「よし……今だっ!。いけっ!、お前等っ!」
「はいよっ!。まぁ、もうジェイスの炎に焼かれてただの焼死体になってるだろうだがな。……うおぉりゃぁぁぁl」
少しずつ爆炎が収まり攻撃を食らったコンの影が見えたところでジェイスから指示が飛び、構えていた剣と斧を持った3人の仲間達が一斉にコンに向けて飛び掛って行った。
その者達は既にコンが焼け死んでいると思い込んでいたようだが、更に爆炎が収まると共に現したコンの姿は……。
「………」
「……っ!、ば、馬鹿なっ!。あれだけの火球を受けたはずなのにあいつまだ……っ!」
爆炎の中から姿を現したコンだが焼け死ぬどころがまるでダメージを受けていない様子で、あれだけの炎の中にいたというのに火傷の一つも負っておらず服すらも燃えていなかった。
その右手は弓術士の女が放った矢もしっかりと受け止めて掴んでおり、襲い来る3人を見るや否やコンは手を握りしめてその矢を圧し折ってしまった。
そして空いた右手を襲い来る3人に向けて突き出したと思うと全身から凄まじい魔力を放って燃え広がる爆炎を吹き消してしまい……。
「……っ!」
「……氷の槍っ!」
“グサッ……”
「……っ!、ぐはぁぁ……っ!」
襲い来る3人に対しコンは氷の槍という魔法の名を口ずさむと共にその前方に巨大な3つの氷の槍を作り出した。
そしてその氷の槍を襲い来る3人に向けて撃ち放ち、その腹部を貫いて教会の入り口の扉の上、それから左右の壁へとそれぞれ打ち付けてしまった。
腹部に巨大な穴を開けられた3人は一撃で絶命し、氷の槍が溶けて消え去ると共に死体となって地面へと落下していった。
「ば……馬鹿な……っ!。あんな一瞬の内にあれ程巨大な氷塊を……っ!」
「お……おいおいおい……っ!。焼け死ぬどころかあいつピンピンした様子で出て来て一瞬にしてあの3人を殺っちまったぜ……。これは何かの夢なのか……」
「こんな……こんなことがあるなんて……嫌っ!。私こんなところで死にたくない……っ!」
ジェイスの火球包囲攻撃を受けたにも関わらず完全に無傷なコン……。
更には一瞬に内に氷の槍に貫かれ絶命した3人を見てとうとうジェイス達は恐怖と絶望に取り込まれてしまった。
最早米一粒の戦意も残っておらず、皆この場から一刻も早く逃げ出したいという思いしかなかったはずだが恐怖に身が竦んでその場から一歩も動けなかった。
そんなジェイス達に止めを刺すべくコンは……。
「よし……この死霊の肉体にも大分慣れてきたしそろそろ終わらせるか……」
「あっ……ああっ……」
恐怖で身動きの取れずにるジェイス達を前にコンは自然とその体を宙に浮かしていく……。
そしてちょうど背後にあるステンドグラスの模様の中央の辺りで止まり、差し込んで来る光を後光のように纏ったその姿はジェイス達にまるでゴンが天から地上に降りて来た神のように感じられた。
「(だけど不思議だ……。さっきまでの間に僕は確実に……少なくともあの氷の槍で突き刺した3人の命を奪っているはずなのに何の罪悪感も恐怖も感じない……。死霊として蘇ったからなのかそれともまだゲームの中にでもいる気でいるのか……ってあれ?。そういえば僕死ぬ直前までNEVER FORGET YOUR SOULの世界に居たんだっけ。そこで確か何かの敵と戦っている内に意識を失って……)」
上空からジェイス達を見下ろす中でコンはまだ自分が納得できずにいることへの疑問を頭の中で自身へと訴えかけていた。
しかし少しは死ぬ間際の記憶が蘇りながらも肝心な部分は思い出せずモヤモヤが膨らむばかりで埒があかず、コンは考えるのを止めて再びジェイス達へとその敵意を向けた。
「はぁ……どうやら今はこれ以上考えても無駄みたいだ……。とにかく今は少しでも早くこの死霊の肉体に慣れることを優先しないと……。久しぶりだけどあの技を撃ってみるか。……はぁっ!」
「……っ!。な、何だ……何をするつもりなんだ……あいつ……」
宙へと浮いたコンがその魔力を解放すると両肩を通して掛けられた分厚い絹できた布……。
その布の生地に施された、赤、青、紫、黄土色、水色、薄緑色、ほとんど白に近い淡い黄色、そして大分黒に近い紺色の8個の宝石からそれぞれの色に対応する8個のエネルギー達が出現しコンの体の周りを取り囲んだ。
そしてコンが体の右側の腰の辺りにボールを持つようにその両手の平を向かい合わせると、この体の周りを舞う8個のエネルギー体が収縮してその手の中へと収まっていき、全てのエネルギー達が同じ場所を中心にそれぞれ別の軌道を描いて回転し始めた。
更にその中心には回転する8個のエネルギー体からその力を吸収するように少しサイズの大きい……白く輝くエネルギー体が発生していた。
それはちょうどコンの頭上で輝く霊環……その中央にあるサラを象徴するシンボルと同じ形状をしていたのだった。
これは偶然なのかそれともコンがサラの死霊となったことが関係してるのだろうか……。
どちらにせよそのコンの手の中からは凄まじい魔力が溢れジェイス達は絶望した表情でそれを見上げていたのだが……。
「あ……あんな凄まじい魔力これまで見たことねぇ……。まさかあれを俺達向けて撃ち放ってくるつもりなのか……」
「じょ……冗談じゃねぇぜっ!。あんな技食らわされたら俺達全員一撃で消し炭にされちまう……。俺はもう限界だっ!。悪いがもう逃げさせて貰うぜっ!」
“ダダダダダダッ!”
「お、俺もだっ!」
「悪いが俺も逃げるっ!」
「……っ!、ま……待ちなさいよ……あな……くっ!。ごめんなさい……ジェイス……。やっぱり私もプライドより自分の命の方が大事だわ……。あなたもつまらない意地張るのをやめて私達と一緒に逃げてっ!」
“ダダダダダダッ!”
コンから放たれる凄まじい魔力を前にジェイスを残してその仲間達……一番ジェイスを慕っていたと思われる弓術師の女も含めてこの場から一斉に逃げ出して行ってしまった。
助かりたいという生存本能が上回ったことで恐怖から解放され竦んでいた体が動き出したのだろう。
ジェイスはもう完全に放心状態となってしまっているのか虚ろな目で少年を見上げそこから一歩も動くことはなかった。
そんな中教会から脱出しようと仲間達が教会の扉の前へと来たところで……。
「残念ですが私に無礼を働いた者達を一人たりとも生かして帰すつもりはありません……はあっ!」
“グオォォォォォッ!”
「う……うわぁぁぁぁっ!。な、何だ……っ!、一体どうしちまったんだ、お前等っ!」
逃げ出した者達の前に先程コンが氷の槍で突き殺したはずの3人の仲間達……、それだけでなくその3人とそれぞれ全く同じ……だが全身半透明の青白い姿で宙に浮く謎の存在が突然現れ、ここから誰も逃がさないと言わんばかりに教会の扉の前に立ち塞がった。
死んだはずの仲間達の裏切りとも思える行為に慌てる逃げ出した者達だったが……。
「あ……頭にサラの霊環があるっ!。こいつ等サラの死霊術で操られて死霊と死霊になっちまったんだっ!」
「そ……そんな……。死んじまったがお前等は俺達の仲間だったはずだろう……。頼むからここから出してくれぇぇーーーっ!」
“グオォォォォッ!”
「うわぁぁぁぁっ!、離せっ!、離してくれぇぇぇーーーーっ!」
どうやら死んだ3人の仲間達はサラの死霊術によってその霊魂をゴーストと呼ばれる死霊に…‥、肉体の方をアンデットと呼ばれる死霊に変えて操られてしまったようだ。
死霊であるコンとの違いはその霊魂と肉体が分離していることと、自ら意志を持たずサラによって与えられた簡易的な指示に従った行動しか取れないということである。
この場合は誰もこの教会から出すなっといったところだろうか。
死霊として蘇った者に比べてその能力は比べ物にならない程低いが、1つの死体から瞬時にして2つの僕を作り出すことができるのが死霊術師の強みの一つでもある。
死霊となったかつての仲間であった者の死体に体を掴まれ悲鳴を上げる者達……。
何人かは強引に包囲を突破し扉の前まで辿り着くことができたのだが、その扉は死霊達の怨念の力によって堅く閉ざされ……。
“ドォンッ!、ドォンッ!”
「と……扉が開かないっ!。どうして……いやぁぁぁぁーーーーっ!」
“グオォォォォッ!”
必死に扉を叩く弓術士の女だった決して扉は開くことはなく後ろから迫った死霊に身を掴まれ悲鳴を上げていた。
そして死霊と死霊に脱出を阻まれている内にコンの魔力は最大まで達し……。
「死を目前にして人の本性は現れる……。そしてそこから逃げ出そうするのは最も下劣な行為なり……」
ジェイス達に止めを刺そうとする直前、コンは突然本物の哲学者にでもなったような言葉を口ずさみ始めた。
コンが生前プレイしてNEVER FORGET YOUR SOULのゲームでは自身の集中力を高めることで技や魔法の威力が大きく上昇する為、フィロソファーとなった時からコンは集中を高める為自身が哲学者であることを意識してそのような言葉を発するようになったらしい。
最初は有名な哲学者の言葉を真似していたようだが、いつしか自分でその場の状況に応じた内容の言葉を口にするようになっていたようだ。
「神の存在を信じ……己の存在を誇れるなら死を目前にしても恐れるなかれ……。さすれば汝は天界へと誘われ真の魂の幸福を手にするだろう……」
「………」
「善き魂に神の祝福を……悪しき魂に地獄の王の制裁を与えんっ!。……無限の閃光っ!」
「う……うわぁぁぁーーーっ!」
無限の閃光と叫ばれたそのコンの手中から撃ち放たれたエネルギーは凄まじい閃光となって地上にいるジェイス達を覆い尽くした。
その閃光に身を焼かれながら悲鳴を上げる者達だったが、ただひたすらにコンのことを見つめ続けたジェイスだけがまるで天から射す光の祝福に包まれていくように穏やかな表情で身を焼き尽くされていった。
そして無限の閃光の閃光が収まった後……。
その閃光が撃ち放れた教会の床には巨大な焼け跡のみが残りジェイス達の姿は何一つその場に残ってはいなかった。