序章6話✡︎猛々しい愛✡︎
トールは叫んだ。
その声は天界から様子を伺っていた全ての神々に届いた。
アインが地上に降りようとした時、クロノスが引き留めアインに言った。
「行くな、四百年前の様にお前の姿を見てタナトスが冥界に去ったらどうする?
今は彼の愛を信じよう」
「なっ……なんて馬鹿な……」
「俺が必ず助けてやる。」
トールはそう言い
「動きを封じよ!」
兵達に指示を出すと、数多くの騎馬兵が突撃し楔のついた縄を投げつけ動き止めようと杭を大地に打ち込む!
凄まじい力でタナトスは抵抗し暴れ回る。
トールはそんな事で動きを封じられない事は頭から解っていた。
トールは走りそれに気を取られているタナトスの胴を斬り裂く。
暗黒の刃は切った部分を無に返して行く、その為ありとあらゆる物を斬り裂く。
タナトスがスケルトンのアンデットで、コアを破壊出来れば倒す事が出来る、トールは必死にタナトスのコアを探し斬りかかって行くが見つからない。
その姿にオプスは産まれて初めて愛されてると感じていた、胸が熱くなるのを感じていた。
だがそれと同時に悲しくなってしまう。タナトスのコアは、オプスの体の中に埋め込まれていたのだ。
オプスが死ねば、暗黒の世界が崩壊しかねない、そうしたら地上世界が危うくなってしまう。
さっきまでそれを忘れ、苦しみから逃れたいが為に死を選ぼうとしていた、でも……コアが埋め込まれている。
オプスはどうして良いのか解らなくなってしまった。
トールの愛が強く強く……オプスの理性を保たせる。
「オプス様!」
影の女王シャイナが闇を生み出し現れた。
シャイナが姿を消しながら、オプスに声をかける。
「シャイナ!
良く来てくれました……
私になって下さい。
影の女王である貴方なら私の気持ちも魂も…力も全て受け継げる筈です!
私を殺して、私になって下さい!」
オプスがそう意を決して叫んだ。
その時、無数の骨の槍がオプスの口を封じようとする。
「蛇ども!俺はどうでもいい!
オプスを守れ‼︎」
トールが叫ぶと、暗黒の鉄の蛇が暗黒から離れ凄まじい速さでオプスの髪の中に入り、次々と骨の槍を噛み砕いて行く。
だがオプスを拘束している骨は砕けない様だ。
「そんなことをしたら……あなたが!」
オプスが自分よりオプスを護ろうとした事に、戸惑いながらもトールを心配する。
「馬鹿かお前は!
生きる事を考えろ!
そこから逃げ出す事を考えろ!
話はそれからだ‼︎」
トールは守ろうとしているが術が見つからない。
既にトールはコアのありかに気付き初めていた。
だがその卑劣さにどうするべきか必死になり考えていた。
その様子を見てシャイナは気付いたオプスの体内にコアがある事を、そして天界の神々もそれに気付いた。
何故オプスがそうまでして、死を選ぼうとするのか、全ての神々が涙を流し、卑劣な冥界のやり方に激怒する。
破壊神クロノスが劔を抜いた、タナトスを無に返そうとし劔を抜いた。
それに今度はアインが止める
「クロノス!
あなたが信じようと言ったではありませんか!」
アインの声にクロノスは想い止まる。
その時タナトスが空間を歪め、その歪みからブラッドナイト達が無情にも現れる。
冥界の軍だ数百は居ようか、ゴブリンの兵達はブラッドナイト達と戦い始める。
シャイナがこれ以上冥界の軍を地上に来させてはならないと判断し、剣を抜き意を決して、オプスの命を取りに行く。
「シャイナ……罪を知る貴方なら全てを守れます」
オプスは瞳を閉じたまま微笑んだ。
「ふざけるなーーーー‼︎」
トールが稲妻の様に現れオプスを庇った。
シャイナの劔がトールを斬る、その刃は深く深くトールを斬った。
トールは血を吐きながらも、動ける筈が無い体で力強くシャイナをつき飛ばした。
暗黒が命を与えていた。
トールは体勢を崩し…タナトスの胸の高さから落下していく。
「トールっ!
トール!なんでなんで‼︎
シャイナが私になれば!
あなたの愛もきっと実ります!
わたしもわたしも!
苦しみから解き放たれるのです!」
止めどなく込み上げて来る涙を流してオプスが叫ぶ!
「俺の女神様は本当に馬鹿だよな……
俺はあいつを愛してない……
あいつが、オプス様になっても俺が愛した女神じゃない……」
ゆっくりとゆっくりと立ち上がる。
周りにいる兵達がその間、時間を稼ぐ様に、タナトスに挑んで行く。
トールの体から大量の血が流れ出している、トールは静かに暗黒をオプスに向けた。
その体は大剣を持てない程の深傷を負っていたが死力を尽くしてトールは暗黒をオプスに向けた。
「必ず!俺が救い出す‼︎
だから何も考えずに待ってろ‼︎
俺の女神は!お前だけだぁぁ‼︎‼︎」
魂から凄まじい声を上げて叫んだ、その声は何処までも響いた。
「なんて……人なの……」
オプスはそう呟きその声に悲しくも無い苦しくも無い涙を流していた。
だがトールは限界を超え暗黒を大地に突き膝をついてしまう。
タナトスが周りの兵達を蹴散らし、トールに向け骨の槍を無数に放った。
その時、天界で一人の女神が手を振りかざした。
その瞬間、無数の風の刃がタナトスの槍を切り刻みトールを守った。
風の女神ウィンディアが見守る事に耐え切れず手を下したのだ。
そして振りかざした手を強く握ると、竜巻が起こりブラッドナイト達が地上に出て来るのを防ぐ。
「お姉様、そんな事をしたら地上世界のバランスが崩れてしまいます!」
ガイアが諌めるがウィンディアは強く言い返した。
「ガイア!見守るだけが神ですか⁈」
風の女神ウィンディアの瞳には何が大切で、何を守るべきかが鮮明に写っていた。
「お父様、お母様の怒りを買ってしまいますよ!」
ガイアはウィンディアを止めようとする。
その様子を見ていた水の女神エヴァが地上に向けて手を差し伸べた。
それと同時にクリタス平原に雨が降り、その雨に打たれた戦士達の傷が癒えて行く。
命の雨だ。
トールの傷も凄まじい速さて癒えて行く。
「これが神の力か……」
トールが呟き次に叫んだ。
「神々が我らに味方して下さった!
戦士達よ!
死を恐れるな‼︎」
数百のブラッドナイトに苦戦していた兵達がその声を聞き士気を上げる。
トールは走り出し暗黒を振りかざしタナトスの頭を斬り落とそうと高く飛び、ウィンディアが風を巻き起こしそれを助ける。
トールは暗黒を大きく振り下ろしタナトスの首を落とした。
タナトスは体勢を崩し、巨大な頭部が大地に凄まじい音を立てて落ちたが、斬り落とした部分から骨が伸びて再生してく。
トールが駆け寄りオプスを捉える骨を暗黒で斬り無に帰した時。
タナトスの再生が速すぎて立ち上がってしまう。
その斬った骨はオプスに食い込む様に再生してしまった。