序章3話✡︎トールの誓い✡︎
そんなグーダにトールは叫んだ!
「グーダ!
お前に何が解る⁈
俺の気持ちの何が解るんだ‼︎
言ってみろ‼︎」
トールはグーダの胸ぐらを掴み、片腕の拳を強く握りしめながら叫び続ける。
「初めてっ!
愛した人が!
女神で‼︎
敗れたと聞かされたんだ‼︎
どうすれば落ち着けるんだ!
教えてくれ⁉︎」
トールはグーダを突き飛ばす。
親友で幼なじみでありトールにはグーダしか話せる相手が居なかった。
「俺はあの美しさに……
優しさに……
守ってやりたい守りたいとっ!
本当に思ったんだ‼︎
だが地上を愛し地上を守れと言われた!
この気持ちの何が解るんだ‼︎」
トールが初めて愛を知ったのは、闇の女神オプスへの愛だった。
だがその想いは初めて会った夢の中で打ち砕かれたのだ。
グーダは想像すらして居なかった。
トールが何処にぶつけて良いのか解らない感情と、初めて芽生えた愛が砕け散った苦しみを必死になって耐えていた事に。
その頃遠く離れたセレス国内で異変が起きていた。
小都市パラトに巨大な空間の歪みが生じ、死竜タナトスが現れ小都市パラトを破壊しだしたのだ。
突然現れた死竜タナトスにエルフの守備兵は勇敢に立ち向かうがなす術は無い。
エルフの魔道士達がこの、今自分が見ている光景を水の鳥に乗せ各国に飛ばした。
数多くの水の鳥が空に飛び立つ。
そこに巨人族の部隊も駐留してた、彼らは勇敢に巨大な光る武器を持ち立ち向かう。
その武器は筒から光が発せられ、その光が武器の形になっている。
巨人族の科学と言う魔法が生み出した武器だ。
奮戦虚しく巨人族も敗れ倒れて行く……
そして巨人族の一人が気付いた。
タナトスの胸の辺りに瞳をつぶり、その瞳から大粒の涙を流し、巨大な骨に囚われ必死に抜け出そうと抵抗しようとしている少女の姿に気付いた。
闇の女神オプスがそこにいたのだ。
女神としての力を封じられてるのか、何かを叫んで居るが。声が届かない……
巨人は必死になってその声を全ての魔力を注ぎ、聞き取った。
「逃げなさい!遠くに逃げなさい‼︎」
オプスは必死になってそう叫んでいた。
そして天界から創造神アインが、自ら天使の軍勢を率いて溢れる怒りをあわらにし、愛娘オプスを救おうと遥か空の彼方から向かって来る。
それを見たタナトスはまた空間を歪ませ冥界に去って行ってしまう。
「忌々しい……我が娘を使い地上に現れるとは……必ずや蘇らぬ程に!
砕いてくれようぞ‼︎」
それを見た巨人は即座に理解した、闇の女神オプスを救い出さねばならぬと。
「直ぐにサンタリアに帰るぞ!
闇の女神オプスを救い出さねばならぬ!
軍を編成せよ!」
彼は巨人族の王ザラハドールの息子ザラハトス巨人族の王子であった。
小都市パラトはほぼ壊滅し、数千のエルフの命が冥界に引きずり込まれてしまった。
トールはそれを知らずに、直ぐに出陣をした側近も連れずに一人で出てしまった。
溢れる想いをトールにはどうする事も出来なかった。
「あの馬鹿が!追うぞ‼︎」
グーダが、連れて来た兵ではなくその陣にいた兵に命じて後を追う、無論トールの側近達も気が気ではない、直ぐに後を追い出陣した。
トールの兵はユニオンレグヌス、ゴブリンの旗印を掲げている。
この旗に弓引く事は世界最大の大国クリタスに弓引く事を意味する、それは一部族にとって滅亡を意味する。
トールはそれを最大限に利用する事を瞬時に考えた。
(地上を愛せか……あぁ地上は愛している。
私の祖国、まだ全ての部族が手を取り合う訳では無い…だがこの世界は美しい……)
トールは馬を走らせ風を感じていた。
その風に悲しみを乗せ風を切り馬を走らせていた。
一日半後にオーク族の抵抗する最後の部族の砦に着いた。
オーク達はクリタスの王子自ら来た事に驚きを隠せない。
「トールよ!クリタスの王子よ!
何しに来た‼︎
これはオーク族の争いだ!
ゴブリンは立ち去るが良い‼︎」
族長が叫びトールに訴えるが、そこに水の鳥が飛んできてトールの肩に乗る。
トールはその水の鳥を優しく指に乗せてから手の平に乗せると。
水の鳥は羊皮紙に変わっていった。
それを読んだトールは愕然とする。
だが一つの希望の光がトールの心に差し込んだ。
(オプス様は生きておられる……)
トールは心からその光を感じ、心の中で誰にも悟られない様に一筋の涙を流した。
「それは何の知らせだ!」
族長が叫び聞いて来たが、トールは深呼吸し心の瞳を見開いて叫んだ。
「貴様ら良く聞けぇ‼︎
今や各種族!
各部族が争ってる場合では無い!
我らの女神オプス様が!
死竜タナトスに捕らえられたのだ‼︎
二日前セレスのパラトがタナトスの餌食になり壊滅した!
貴様ら知っているか⁈
地上が冥界に敗れた時!
何が起こるか知ってる者はいるか⁈
我らの地上が!冥界に敗れた時‼︎
破壊神クロノス様は!
地上を無に返される‼︎
その意味が解るか‼︎」
その叫びに部族達は動揺した。
それを畳み掛ける様にトールは更に叫んだ!
「今!
この時にっ!
それでも抵抗するのであれば!
我がクリタスは力づくでも制圧し!
地上世界の全てから!
争いの源を消滅させて見せる‼︎」
そして最後に……
「お前達の仲間も……
家族も……愛する者も……
地上が冥界に敗れて仕舞えば……
誰も生き残れない……
良く考えてくれ、良く話し合ってくれ……
そして来たる日の為に!
戦士達は己と戦い!己を磨き続けよ‼︎」
優しく言い最後に腹の底から叫んだ。
その最後の叫びはトール自身に対しても叫んでいた。
そして誰もが感じた。
トールは地上を守る為に戦うつもりだと、それを呼びかけに来たのだと。
「ふざけるな!そんな話で我は騙されんぞ!」
抵抗するオークの族長が叫び歩み寄ってくる。
(オプス様、これが最初で最後だ……許せ……)
トールは静かに暗黒を抜き地面に突き刺して言う。
「これは闇の神剣暗黒……
闇の女神オプス様が俺だけに託された神剣、これが証だ……
疑うなら持って見ろ……
俺以外の誰かが持てば、メドゥーサの蛇に石にされるらしい……」
族長は信じず鼻で笑い暗黒を握りしめ、そして振り上げた時、鉄の蛇が蠢き腕に噛み付いた。
族長は暗黒を捨てようとするが、鉄の蛇が絡みつき捨てられず。
掴んだ腕はみるみる石と化して行く……
「なっ?まさか誠か!助けてくれ!」
周りの兵達にはどうする事も出来ない、あまりの見たことの無い光景に恐れてしまった。
「悪りぃな……
助け方なんて知らん、なんせ神の剣だからな……
信じなかった罰!その身で味わえ‼︎」
トールが叫んだ時には既に族長は石像と化していた。
鉄の蛇が役目を終え、その石にした腕を締め上げ砕き元の形に戻って行く。
トールは暗黒を拾い静かに背負い、静かに何も言わずにその場を去った。
トールは馬にのり、自らの軍に帰って行く。
(オプス様、貴女が愛した地上を何があろうとも守って見せます。
そして何年経とうとも……
何千何万年経とうとも貴女を!
私の手で救って見せる‼︎)
トールは闇の女神オプスに心の中で永遠の愛を誓った。
そしてその為にトールは各種族のまだ抵抗する部族の統一、地上世界の力を一つにまとめる事に全てをかけて取り組み始める。