序章2話✡︎トールとオプスの出会い✡︎
それから百年程経った日、トールは軍を引き連れ、グーダが戦っているオーク部族統一の最後の戦いに応援としてアグドに向かう。
グーダは巧みな戦術を活かし、多くの部族を僅かな戦闘で取り込んで行ったが、最後の部族だけは屈せず、仕方なく被害を小さくする為に、最大の大国クリタスの力を借りる事を選んだ。
グーダはトールはが引き連れた軍勢を見て、出迎えの用意を万全に整える。
そしてトールが到着するとトールに言う。
「トール!この軍勢の規模はなんだ!
大き過ぎないか⁈」
「父上がな……
我がクリタスが関わって失敗をする様な事があってはならぬと……
こっちも有難迷惑してんだ!わざわざ叫ぶな‼︎」
とトールが叫び、トールが引き連れたゴブリンの兵達も笑い声を漏らす。
そしてベルリス平原に大規模な陣を展開し兵を休ませる。
二日後にヴァラディア山麓にある、抵抗する最後の部族を包囲し降伏を促す為に出陣する。
そこにトールの元にクリタス山脈から、ニュークリアス鉱石が発見された報告が入る。
巨人族が探し求めていた鉱石の鉱脈がクリタス領内にあったのだ。
トールはその報告を受け、直ぐに巨人族に知らせる様に指示をだす。
巨人族はクリアスと言う、強力な兵器を考え出し、その原料ニュークリアス鉱石を探し求めて居た。
巨人族は想定していた。
災いの日、地上と冥界の狭間、闇の女神オプスが統治する暗黒の世界が力を失った時。
冥界は直接地上に乗り込んで来ると、その時地上世界の力で冥界に勝たなくてはならない。
その為に究極の兵器を科学の力で作ろうとしていた。
それがどれ程の悲しみと苦しみを産み出す物かも知らずに……
その日の夜トールは深い眠りにつき夢を見ていた。
「トール、トール起きなさい」
夢の中でその声に起こされた。
そしてその声がした方を見て、トールが驚く……
紫の髪にキラキラと星が瞬いている、夜に星空の下で見たら見分けがつかない程その髪は美しく、雪の様な白い肌の美しい女性。
幼さを残し可愛らしくも美しい顔立ちが印象的である。
そして背中が大きく空いた漆黒の中に星々が瞬くドレスを着ている。そして何故かその瞳はつぶっている。
愛らしくも妖艶に美しく……それでいて神聖な輝きを優しく放っている女性がいた。
トールはその余りにも現実離れした美しさに一眼で心を奪われた。
闇の女神オプスがトールに語りかけて来たのだ。
「まさか……オプス様?」
「えぇ、トール闇の眷属において、闇の光を持つ者よ……
私から一つお願いがあります。
この先……
遠くない未来この世界が無に帰るか、生き残るか……その分かれ道に出会います。」
「なっ…オプス様!一体何が起こるのですか‼︎」
オプスは沈黙し間を置いて話す。
「破滅の女神が冥界に産まれました。
その知恵に私は及ばず……」
そうオプスが顔を曇らせ、うつむいてしまう。
「オプス様!
我らゴブリンはオプス様の為に幾らでも命を捨てます!
我らを暗黒の世界にお戻し下さい!」
トールは叫んだが……
「なりません‼︎
貴方達が居なくなれば、誰が地上を守るのですか⁈
私が愛した地上を誰が守るのですか?
トールよ、何かあれば風の女神ウィンディアに祈りなさい!
ウィンディアは貴方に力を貸してくれるでしょう」
そう激しくも優しくトールに訴えた。
「私よりも地上をお願いします」
オプスは瞳を閉じたまま涙を流していた。
そしてトールの左手を握る、オプスの想いが温もりとしてトールに伝わる。
その時トールの身体の奥底から闇の力が溢れ出し、オプスがそっと手を離した。
トールの手の平から闇の光が解き放たれる。
「手を握りなさい……」
オプスが囁き。
トールは左手を何も持たず握ると斬馬刀の様な大剣を握っていた。
刀身は漆黒で模様があり、その模様は蠢き幾つもの闇の渦が渦巻いている。
持ち手はメドゥーサの蛇の髪が鉄と化し異様な姿をしている。
「闇の神剣、暗黒……それを貴方だけに許します。
他の者に持たせてはなりません。
メドゥーサの蛇が貴方以外の者に噛み付き、その者を石に変えるでしょう。
その力を使い最後まで地上の為に戦いなさい……
地上を愛し戦いなさい」
そうトールに言いオプスは消えてしまった。
「オプス様……」
トールは闇の女神オプスを心から愛していた…一目で惚れたが愛を初めて知った。
だが叶う筈が無い愛をトールは必死になって受け止めようとした。
翌朝トールが目覚めた時、オプスが授けた闇の神剣暗黒をトールは握っていた。
「ウォオオオオオオ!」
力強く叫び叶わぬ愛を天に訴える。
その様子を風の女神ウィンディアは涙を流して見守る事しか出来なかった。
その天界は騒ぎになっていた。
闇の女神オプスが破滅の神の罠にかかり、
死竜タナトスの体内に囚われてしまったのだ。
直ぐに天使達の軍勢が集まり、救出すべく創造神アイン自ら暗黒の世界に赴き探索するが、愛娘闇の女神オプスを飲み込んだタナトスは冥界の奥深くに去った後だった。
地上ではトールの叫び声にグーダが急いでトールの天幕に飛び込んで来て兵達も集まって来る。
トールが握りしめている暗黒を目にしたグーダは聞く。
「トールそれは何だ……」
トールは天幕の外に出て静かに言う。
「闇の女神オプス様が私の夢に現れ……この闇の神剣暗黒を我に託された。
私以外の者が持つと、その者はメドゥーサの力によって石にされるらしい……
俺以外誰も触れるな!いいな‼︎」
トールは命に関わる事では一切嘘は言わない、その場にいた者達も解っていたが僅かに疑った。
だがその刀身の暗黒の渦が動いているのを見て信じるしか無かった。
「トール!何をそんなに沈んでいるんだ、お前らしく無い!
オプス様が神剣を授けてくれたんだろ?喜ばないか」
グーダが言うとトールはグーダを睨み空を見上げ叫んだ!
「我らが神!闇の女神オプス様は!
冥界の神、破滅の女神に敗れたのだ‼︎
この意味が解るか⁈
我らはオプス様を失ったが闇の眷属として地上を守らねばならぬ‼︎
ゴブリンの戦士達よ!
来たる日の為に己を磨き上げよ‼︎」
誰もが衝撃を受けた。
創世以来、神が敗れたなど聞いた事が無かった。
六大神を象徴する六芒星の一つ闇の星が消えたのだ……
それが世界にどう影響するのか誰も想像出来なかった。
「すぐにこの事を父上と巨人族に伝えよ!」
トールは早馬を出して使いをだす。
「グーダ……俺も信じたくは無いが……
この暗黒がその証だ!
アグド平定に時間をかけるべきでは無い!
直ぐに出陣をするぞ‼︎」
トールは斬馬刀の様に暗黒を背負い、支度が終わるのを待ちきれず僅かな側近を連れて出陣する。
グーダもそれに続き僅かな兵を率いて出陣した。
トールは速かった凄まじく馬を飛ばし溢れる想いを、何かにぶつけたい衝動に駆られるが、それを抑えただ強く手綱を握りしめていた。
トール達の陣からヴァラディア山まで五日かかる。
グーダが休息地点として三日程馬を走らせた場所に小さなオークの陣がある。
そこまで休まず行くつもりだ、トールは夜通し馬を加減しながら走りグーダも必死に後を追った。
翌日の夕方にはその小さなオークの陣に到着した。
トールの側近達は暗くなってから到着した、それから少ししてグーダの隊が到着する。
トールが率いて来た本隊は明後日到着する可能性がある、かなりの差が開いた。
トールは考える、明日も夜通し走れば二日短縮して三日で着くと、その速度は相手は予想してない筈。
天幕の外で夜空を見上げながら一人で考えてるトールを見つけグーダが言う。
「トール、飛ばし過ぎだぞ!気持ちは解るが、部下の事も考えろ!」
「グーダ……愛する人はいるか……?」
トールがふいに聞いてくる。
グーダはそう聞かれてどうした?と考えたが武骨な戦士の一族のせいだろう。
グーダに大切な人が居るが……手の届かない人でその想いを伝える事が出来ない。