事情聴取
俺が愛姫が死んでしまうという記憶を思い出して早一週間。
一日目は愛姫が生きていることが信じられなくて失神。
二日目はこれが現実だと分かって大号泣。
三日目から今日まで、愛姫を死なせない方法を考えていた。
「…つまりは一条の野郎に愛姫が恋をしなければ良いわけなんだよなぁ……というか、あんな性格くそ野郎のどこに惚れたんだ?愛姫は」
顔が良いことは認めよう。
だが、四大財閥のトップ一条家の長男としてチヤホヤ育てられてきたアイツは我満だし、空気読めないし、思いやりもない。
いくら成績が良くて運動が出来ても、アイツがモテない理由がそれだ。
「うーん…どうしよう。学園への入学手続きは終わっちゃっているし…」
「…兄さん。さっきからどうしたの?」
「うぇ?」
愛姫の声で現実に戻れば、俺たちはお茶会の真っ最中だった。
目の前にはケーキやマカロンがたくさん並べられている。
そういえば、天気がいいから庭でお茶会をしようって誘われたんだっけ?
ふと前を見れば紅茶を飲みながら、半目で俺を睨む愛姫がいた。
「い、いや…ちょっとね……」
思わず彼女の目を避けて言い訳をすると、訝しそうに口を開いた。
「兄さん、一週間くらい前から変よ?それに、さっきの一人ごとを聞いていると、まるで私が一条さんに恋をするみたいじゃない」
「…」
いや、多分、多分ね?
憶測でしかないんだけど、お前は一条に「糞女」と呼ばれたことを気に病んで自殺するんだよ。
もしかしたら別の死因があるかもしれないけど…それが一番優勢。
…ん?あれ?
ということは…「糞女」と呼ばれなければ良い…?
つまり、女じゃなければ良いワケだッ!
「愛姫ッ!お前男装して学園に行ってくれないかッ?!」
「!?!? だ、男装?」
珍しく無表情の仮面が外れ、困惑した表情をあらわにする。
まぁ、無理もないが。
「え、どうして?」
「えーっとな…詳しいことは話せないんだが、お前が男装してくれれば万事解決なんだよッ!」
「……いや、意味が分からないから」
「頼む、愛姫ッ!」
愛姫は心が優しいから、ごり押しすればどんな理不尽な意見も飲んでくれることを知っている。
え?優しさを逆手に取るなんて卑怯?
結果良ければすべてよし!全ては彼女のためなんだからねッ!
「……どうしてそこまで言うのか、理由を教えてくれれば」
「―ッ!」
そう来たか。
でもなんて言えばいいんだ?
お前が死ぬ夢を見た…とか?
「兄さん。嘘偽りなく言って。どんな荒唐無稽な話でも認めるって約束するわ」
…思考を読まれた気がする。
はぁ、こうなったら愛姫は引かない。
「……分かったよ」
本当、この義妹には敵わないなぁ。
「…一週間前にな、ココと同じ世界で生きた記憶…?のようなものを思い出したんだ…」
そして俺は出来る限り正確にあの話をした。
愛姫が死ぬところもしっかりと。
淹れたてだった紅茶がすっかり冷めた時、俺はすべてを話し終えた。
「…と、いうことなんだ」
一言も発しずに黙って聞いていた愛姫の顔は、いつになく険しい。
「…なるほど、そういうことだったのね。…私が一条さんに振られたショックで自殺…ねぇ…絶対にありえないと思うんだけどなぁ…だって私は……だし」
ぶつぶつと呟きながら、ちらりと俺を見る愛姫。
何を言っているのかは聞こえないが、大方疑われているのだろう。
「…どんな荒唐無稽な話でも認めるって言ってしまったし、この話は認めるわ。それで彼にいじめの犯人として疑われないように、私に男装を進めているわけね」
「…うん。そういうことになるね」
思わず苦笑いしながら白状すれば「はぁ」とため息をついて愛姫は俺を見抜いた。
「分かった。男装、するわ」
「! 本当に!?」
「私に二言はないわ…そうと決まれば、学園へ事情説明と、男装の準備…かつらやさらしも必要ね……」
「学園への手配は任せておいて。適当に言っておくから」
よしッ!これから忙しくなるぞッ!
目指せ!愛姫死亡ルート回避ッッ!
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