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プロローグ

彼女の遺体を発見したのは、家のメイドだった。

シャンデリアに縄をかけ、首を吊って死んでいたという。


多くの人が「どうして愛姫様が…」と呟いた。

家も、学校も騒然とした。

彼女と付き合いのあった人はみな青白い顔で泣いていた。

彼女の葬式には有名人も多く出席した。


俺にも、どうしてこうなってしまったのかよく分からなかった。

成績優秀、文武両道、眉目秀麗、勇猛果敢、気宇壮大…

そんな完璧超人な義妹、愛姫(あいら)がどうして自殺なんてしようか。


そして思い出すのは彼女が自殺した日の出来事…

それは学校の昼食時間、賑わう食堂で起きた。


「おい、愛姫。お前紗由(さゆ)にいじめをしているらしいな」


ご丁寧に食堂にいる全員に聞こえる声量で少年は言った。

紗由というのは、俺たちと同じクラスにいる一人の少女の名だ。


その声に、友達と共に食事をしていた愛姫含む全員が食事を止め、二人に注目した。


「…失礼ながら、私には身に覚えがありません」


神話の女神像のような完璧な美貌を一切変えることなく彼女は言った。


「何をとぼけたことを。お前が紗由の教科書を捨てたり、制服を破いたりしているのだろうッ!?」

「…証拠は、あるのでしょうか?」


愛姫の声は糾弾している少年と反対に、とても落ち着いていた。

何よりその食堂にいる全員が分かっているのだ。

「愛姫様はそんなことをする人ではない」と。


愛姫は四大財閥の一つ、二条家の長女のため権力もあり、成績は常に三位以内。

その上運動もでき、誰に対しても平等で優しい彼女は「聖女様」と慕われている。

意識しないと感情が浮かばないその美貌も、日本人にしては珍しいオッドアイの瞳も、亜麻色の髪も、有名モデルとは比べものにならないほどの輝きを誇っていた。


だから彼女はいじめなんてことをする必要がないのだ。

いじめなくても一般人が彼女に勝る点など()()()()()のだから。


「証拠はまだない!だが、お前しかないだろう!?」

「…その考えの根拠は何でしょう?」

「お前は俺に一途に愛されている紗由に嫉妬したのだろうッ!!」


((((自意識過剰過ぎだッ!このくそ野郎ッッ!!))))

食堂にいる全員の心情が寸分たがわず一致した。

一条の御曹司と言ってもよくそこまで自信満々に言い張れたものだ。


「…はぁ。言い分は全く理解できませんが、私は紗由さんをいじめたりしておりません。第一私は彼女と話したこともないのですよ?そんな人をどう恨めろとおっしゃるのです」

「…くそっ!いつか絶対証拠を見つけてお前を糾弾してやるッ!この糞女ッ!」


分が悪いと見たや、少年は颯爽と食堂から去っていった。

逃げ足だけは速いらしい。


「お騒がせして申し訳ございません。皆さん、食事を再開しましょうか」


未だに静かな食堂に、愛姫が穏やかな声で再開を告げる。

食堂にいる百人以上の視線をすべて受けながら微笑んだ。

それが引き金となり、みな徐に食事を再開する。


だんだんと盛り上がっていく食堂を横目に、俺も食事を再開した。


**


「愛姫は……アイツが好きだったのか?」


ぽつりと愛姫の墓の前で呟く。

好きな人に大勢の前で糾弾されたとき、どんな気持ちだっただろう。

自殺したとき、どんな心情だっただろう。


悲しかっただろうか。

苦しかっただろうか。

それとも、怒っていただろうか。


不甲斐ない義兄でごめん。

お前の苦しみに気づいてやれなくてごめん。

兄としてなにもお前に返せなくてごめん。

最期までお前に伝えられなくてごめん。


「愛姫……お前が好きだ。俺と……俺と、付き合ってくれ……」


ぽたり、ぽたりと落ちた雫は、愛姫の墓石に吸い込まれて消えていく。

寒くなった北の風に俺の告白は流されていった。


「もし、もう一度やり直せたなら―俺は………ッ!」


次は大きな声でそう告げた。

途端ー

揺れる視界が暗転する。

吐き気を催す浮遊感に、俺は思わず意識を手放してしまった…。

















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