満面の笑み
聡史は笑顔で迎え、向かいの席へ案内した。葵は緊張した様子で席に着くと、聡史と視線が合った。葵は咄嗟に俯くと、聡史は優しく微笑み話し始めた。
「葵さん、緊張していますか?男性恐怖症で男の人と上手く話せないことは知っていますので、ゆっくり自分のペースで話して大丈夫ですよ。もし、私を見るのが怖ければ俯いたままでも構いませんので」
聡史の言葉に少し気持ちが楽になった葵だが、申し訳ない気持ちにもなった。なるべく俯かないように気を付けようと思いながら、前を見てゆっくりと話す。
「烏丸様。ご配慮、ありがとうございます。あのっ、生徒会長を務めていると聞きました。生徒会のお仕事、大変ではありませんか?」
葵は何を話せばいいか分からず、茜と奈緒から聞いていた生徒会長の話をする。すると、聡史は一瞬驚いた顔を見せた。
「知っているなんて驚きました。確かに生徒会は行事も近いので忙しいですが、大変ではありません。父の仕事を手伝うよりは楽ですよ。あと、私のことは名前で呼んでください」
「あっ、はい。では…。さ、聡史様」
葵は勇気を出して名前で呼ぶと、聡史の表情は満面の笑みに変わる。それを見た葵は、一瞬ドキッとしたのと同時に恥ずかしくなり頰を赤らめた。
「葵さん、顔が赤いですよ?疲れてしまいましたか?それとも体調が優れないのでは?」
葵の頬が赤いことに気付き、聡史は声を掛け心配そうに見つめる。
「あ、あのっ…」
見つめられて更に恥ずかしくなり、大丈夫と言いたいのに上手く言葉に出来ない。葵はどうすればいいか分からず、ぎゅっと目を閉じた。
「すみません。きっと私が葵さんを困らせているのでしょうね」
怒鳴られることはなく、反対に謝られたことに驚いた葵は聡史を見る。すると、今にも泣き出してしまいそうな寂しげな表情をしていた。
「そ、そんなことありません!わ、私が、上手く…その、話せないから…。ご、ごめんなさい。傷つけてしまって」
傷つけてしまったと思った葵は、頑張って話し聡史に謝る。
「葵さんは上手く話せてますよ。今だって私とちゃんと会話が出来ているじゃないですか!もっと自信を持ってください。今日は疲れたでしょうから、これでお開きにしましょう」
「いえ、あのっ、大丈夫です」
「無理はダメです!あと、葵さんが嫌でなければ連絡先の交換をしませんか?まずは、メッセージのやりとりで仲良くさせてください」
聡史からの突然の提案に葵は驚いた。だが、少なからず仲良くなりたい気持ちがあった葵は、連絡先を交換しようと思った。
「…はい。連絡先の交換、よろしくお願いします」
葵の返事に聡史は安堵し、そして笑顔になった。その笑顔を見た葵もまた、聡史に笑顔を向けたのだった。