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7、デビュー

それから毎日幼稚園から帰宅してから色々なレッスンの日々を過ごし、復習として三花ちゃん先生の個人レッスンを受けて僕は遅れを取り戻すべく努力した。


いよいよ今日はピアノと歌のレッスンの日。早いもので僕がこの世界にきてから1週間が経とうとしていた。ピアノを弾いているとレッスンの先生が来た。


 「えらいね。やる気十分の様だね。はい、これが約束のサインだよ。あと三花ちゃんに頼まれて僕の友人の作曲家のサインも貰っておいたからね。」


カバンからサインの入っている色紙の束を出しながら言い、三花ちゃんに手渡した。


 「わーい。ありがとうございます。後生の宝物にさせて頂きますね。」


ぺこりとおじぎをして感謝の意を述べる。


 「でも三花ちゃん、有名な人じゃなく無名の新人のサインも欲しいなんてどうしたの?」


先生は疑問に思い問いかける。


 「ただなんとなくですよ。曲を聴いて将来有望だと思いましたから・・・。」


僕は前世では入手困難であっただろう将来活躍する作曲家の方々のサインを見て微笑んでいた。


 「棚に入れて大事に保管しときますね。お宝になるでしょうから。」


僕はひとまずサインの束を別の机の上に移動し、ほこりがかぶらない様に紙を乗せた。


 「でも僕にとっては三花ちゃんこそ将来有望だと思うな。と言う事で三花ちゃんのサインをちょうだいよ。」


と、先生は色紙とペンを差し出してきた。

僕は三花ちゃんと相談する。


 《サインは何か考えてあるの?》


と僕が聞くと、


 《いいえ、まだよ。ひとまず名前を書けばいいんじゃないかしら?》


心の中で相談し、色紙に名前と今日の日付を記入する。

 

 「ありがとう。僕もお宝にするよ。」


先生が言う。


 『ふう~。文字の練習をしていてよかった。』


僕は心の中であんどする。 


先生はカバンに色紙を入れると替わりに書類を出してきた。


 「先週の新曲の歌詞が数日前に出来上がってね。ぜひ三花ちゃんに教えようと思っていたんだよ。」


と、デモテープを聴かせてくれた。初見のはずだが僕にとっては過去の曲で、懐かしのヒットソングとして聞き覚えいる。 

曲が終わり先生が歌詞の書かれた楽譜を渡してきた。


 「では三花ちゃん、歌えるかな?これが今日のレッスンといこうか。」


と先生はピアノの前にスタンバイして僕待ちの状態であった。


 「でも先生いいのでしょうか?私が歌うなんて。」


恐る恐る聞いてみると、


 「いいんだよ。この曲は君をイメージした曲なんだ。ぜひ君に歌って欲しい。」


僕は驚いた。まさかこの曲は三花ちゃんをイメージした曲だったなんて・・・。

で、早速歌ってみた。一応何回か聴いた事があるのでリズムはなんとなく覚えている。

複数回歌うと先生が、


 「やっぱり三花ちゃんはすごいね。今日初めて聴いた曲なのにもうマスターするなんて。」


手放しで拍手喝采をしてくれる。が僕は複雑な心境だった。


 『いや、すでに何回も聴いた事があるからなんだけどな・・・。』


先生は驚く様な事を提案してきた。


 「どうだい?歌手デビューする気はないかい?」


その問いかけを反すうする。うれしいと思う反面面倒な事になったなとも思った。


 「うれしい話ですが家族と相談してから返答したいと思います。それと今はまだ顔出しNGでお願いします。」


後世で顔出しNGの歌手は何人もいたし、大々的にデビューしてこけたとなれば目も開けていられない。

ひとまず保留にしておいた。


が、先生はある一言を発するともはや退路が無いと覚悟を決めた。


 「いや。もう三花ちゃんの親御さんとは話はつけてあるんだよ。で、快諾してくれたよ。一応君の要望である顔出しNGで話を進めるけどいいかい?」


 『そういえば、この曲はヒットソングであったにもかかわらず歌手は表に出てこなかったな。これで謎は解けたぞ。』


 僕は念の為、芸名が必要だと進言した。


 「それはもちろん考えてあるよ。なにか希望はあるかい?」


先生は僕が乗り気なのに気をよくして答えた。


 「では三花なので『みかん』と言うのはどうでしょうか?」


と僕は名前をもじって『みかん』と提案した。


 「『みかん』ね。なんとか希望に叶えられる様に上層部と相談してみるよ。で、所属事務所だけどどこがいいかい?」


もちろん答えは決まっている。僕は即答する。


 「先生の事務所がいいです。」


 「別にいいけど理由は何かい?」


先生が改めて質問してくるとまたもや答えた。


 「私は先生が好きです。ファンでもあります。今後先生と一緒により一層盛り立てたいと思います。

ですから、先生!よろしくお願い致します!」


 おじぎをして希望を述べる。


 「うれしい事を言ってくれるね。そこまで言うなら僕の事務所所属と言う事でいいんだね。ではしばらく時間がかかるけど期待して待ってていてね。少し早いけど今後ともよろしくね。」


先生は右手を僕の前に差し出してきた。すぐに意図を察すると右手を出し握手をした。



 レッスンが終わると先生は両親と歌手デビューの話をしていた。今はまだ企画段階なので兄達には内緒にしているらしい。どこで情報が洩れるかわからないからだ。


 それから数週間が経ち、いよいよレコーディングの日が来た。それまでは今までと変わらずのレッスンをしていて、ついにこの日が訪れた。

僕は両親と共にスタジオを訪れて先生とスタッフの人と廊下を歩いていると、多くの人がすれ違いざま私達に向かい会釈をしたり、振り返りこちらを見ていた。

 

収録は一発撮りで成功し見学者の度肝を抜いた。芸名は僕の希望通り『みかん』に決まり、スタッフからもサインをせがまれ何枚か書いた。この時は何気なく貰ったサインだがのちにお宝になるとは想像も出来なかっただろうと振り返ってみてそう思った。


 

 そうこうしている内にレコード、カセットテープの発売日。すなわち僕の歌手デビューの日が来た。

初日こそまずますの売れ行きだったが有名作曲家、作詞者のネームバリューと口コミでうなぎのぼりの売り上げを果たした。

 

顔出しNGにしているのでTV画面に出てないが歌謡番組のランキング上位に入ったり、ラジオで僕の歌がリクエストされ流される。幼稚園の友達が口ずさんでいた時は内心ビビった時がある。中には歌声が似ているねと指摘された事もある。果ては幼稚園の運動会や住民運動会で流された時は誇らしくもあり気恥ずかしさもあった。


  


 「『みかん』ちゃんの歌手デビューと売り上げ大ヒットに祝して乾杯!」


歌のレッスンの先生の所属する社長が乾杯の音頭を取る。


 「「「「乾杯!」」」」


先生含め僕の両親、僕、その他スタッフの方々とデビューパーティーを開いていた。

でも残念な事に兄達は来ていない。そもそも僕の歌手デビューの話もしていない。

それは兄達が友達に自慢して僕の事が露見してしまう恐れがあると言う事を相談しての結果だ。

だからいまだに実の妹の曲を聴いて、ファンになっているとは思いもよらないだろう・・・と思う。



 「では『みかん』さんより挨拶をしてもらいます。どうぞこちらへ。」


と社長が僕を促す。


 「紹介にあずかりました『みかん』です。まずは社長並びにスタッフの方々お疲れ様でした。そして今後ともよろしくお願いいたします。」


つつがなく挨拶を終えた僕は一安心していると社長が驚きの言葉を発した。


 「『みかん』さんのデビュー曲は好評です。と言う事で第二弾を発売したいと思います。」


と壇上で発表した。


 「「「おお~」」」


スタッフの方々も驚きを禁じえなかったがやる気に満ち溢れているのが分かった。


 「既に準備は出来ています。後日すぐにでも収録して発表出来ますが『みかん』さん、どうしますか?」


と、僕に向かい社長が言ってくる。


 「はい。わかりました。」


と返事をする。


そうして僕の歌第二弾が発売される事が決定した。



楽譜を見せて貰うとこれもまた有名曲である。すなわち以前の僕、もとい三花ちゃんが歌っていた事になる。確か何枚かのシングルを発売された後アルバムが発売していたなと思い出す。

僕にとっては過去の曲なので一応はメロディーを覚えているが、まさに運命的な感じがしていた。


何回か練習して収録を済ませ発売日を待つ。もうこの世界に来てから1年が経とうとしていた。


くしくも発売日は僕が転生してきてちょうど1年と言う節目の日であった。

話題性があり瞬く間に店頭から売り切れ入荷待ちの状態になった。

後から聞いた話だが社長は笑いが止まらなかったらしい。


そうして続いて第三弾、第四弾、第五弾・・・と発売して行き遂に集大成であるアルバムを販売する所までこぎつけた。

 

 


 そうしてあっという間に幼稚園を卒園する日が訪れ、小学校に入学するまでに至った。

駆け足でしたが幼稚園編を終わります。

次回から小学校編に入る予定です。

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