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私のせいにしないでください

作者:

(仕事による)ストレスの発散で書いたので支離滅裂かも……

設定もガバガバですσ(^_^;)アセアセ...

それでも許せるよという方のみお読みください。

読後の苦情は受け付けません。

天窓から差し込む光が一人の少女を包み込むように降り注いでいる。


少女は一心に祈りを捧げている。


半年前、この世に復活した『魔王』を退治すべく旅立った婚約者の無事を祈るために……


少女以外誰もいない教会内は静まり返っている。


いつもなら窓の外からでも聞こえてくる鳥の鳴き声さえ響いてこない。


少女の祈りを中断させたのは彼女付の侍女の言葉だった。


侍女の言葉に少女は寂しそうな笑みを浮かべると、祭壇の上にあるステンドグラスを見上げた。


「全ては『聖女』のお望み通りなのですね。ならば……」


少女のつぶやきは静かだった教会内に力なく響いた。


「急ぎ、お父様のもとへ向かいます」


侍女に指示をだし、もう一度祈りを捧げた少女はすっと背を伸ばして教会を後にした。


***


少女が父親の仕事場である王城に着くと、城内は騒然としていた。


神のお告げにより『聖女』に選ばれた少女と『護衛騎士』として『魔王討伐』に同行している王弟殿下の子息が手紙にて懇願してきた事柄が原因である。


『聖女』と『護衛騎士』は連名で【魔王討伐が成功した暁には『聖女』と『護衛騎士』の婚姻を認めて欲しい】と書いてきたのである。


まだ『魔王討伐』の途中でありながら、早くも成功報酬を強請ってきたのである。

しかもすでに男女の関係にあると国の『影』からも報告が上がっている。

これには国王をはじめ、重鎮たちも開いた口が塞がらなかったという。


神殿側は必ずしも『聖女』が純潔である必要はないと声を上げているが、国王たちは疑心暗鬼になっていた。

一般的に『聖女』とは聖なる乙女……つまり処女であることが第一条件であると信じていたからである。


なにより『聖女』による魔族討伐が遅々として進んでいないことも国王たちに疑惑を抱かせている。

神殿側は『心が清らかな乙女なのです』と再三声を上げているが、国が纏めた婚約者がいる者との婚姻を望む者が『清らか』なのかという疑問も発生している。


『聖女』には『魔王討伐』を無事に成し遂げた時、望みの報酬を払う事は伝えてある。

『護衛騎士』たちにも『英雄』という名の肩書と十分な報酬(地位及び資産)が支払われることが内定していた。


国王と重鎮たちは聖女の願いをどうするかを話し合っていた。

その時、少女の到着を知らされた少女の父親はすぐに会議室に来るよう伝えたのだった。


「宰相?」

「娘の気持ちを聞きたいのです」

「…………そなたの娘には申し訳ないと思う」

「娘も事情を話せば理解します」

「図らずもそなた達の希望が叶うという事か」

「はて、それはどういう意味でしょうか?」

にっこりと笑みを浮かべる宰相に国王は小さなため息をついた。

二人のやり取りを見ていた重鎮たちは全員、二人から視線を反らしたのだった。

主に宰相の視界から隠れようとしていた。


しばらくして少女が会議室に入室すると、国王自ら『聖女』と『護衛騎士』から届けられた手紙について説明をした。

少女は静かに国王の話を聞き終えると、深々と頭を下げた。

「すべては聖女様のお望みのままに」

少女の言葉に重鎮たちは憐みの視線を少女に向けた。

「そなたに異存はないのか?わしの甥であり、第一位王位継承者の資格を持つフランツと並び立つために今まで努力してきたのであろう」

「私は別に王妃になりたいなど思ったことがございません。それに、今まで努力してきたことが全て無駄になることはありません。いつかお役に立てることもあるでしょう」

「そなたにこそ、この国の頂点に立ってほしかったのだがな」

「陛下、私のことは今はどうでもいいのです。聖女と護衛騎士の士気を上げるためにも、お二人の婚姻の許可を」

「……わかった。しかし無条件で認めるわけにはいかない。条件を付ける」

「陛下!?」

愕きの声を上げる少女に国王は目元を緩め、少女の頬を軽く撫でた。

「そなたとフランツの婚約は解消する。そなたには不名誉な噂がこれから流れるだろう。許せ」

「いいえ、私の名誉など国の名誉に比べれば塵のようなもの。どうぞ、陛下のお望みのままに」

宰相は静かに娘の様子を見ていた。

娘の名が傷つく事は親としては何としても避けたいところだが、避けられそうもない。


『聖女』に婚約者を取られた娘。

王妃になりそこなった娘。

王家から縁を切られた娘。


等々不名誉な噂が流れることは必至。

娘に今後、良縁があるかといえば否としか言いようがないことは宰相も十分理解している。

だが、娘の姿を見て娘の好きにさせようと密かに決意していたのだった。

「聖女と護衛騎士の婚姻は認める。ただし、魔王討伐に関係している者達が全員無事である事」

「陛下、それはいくらなんでも。魔王との闘いは命がけですぞ」

「回復魔術に特化している白魔導士も数名同行している。この城に戻ってくるときに傷がついていなければ条件を満たすであろう?」

にやりと笑う国王に宰相は小さく息を吐くと

「つまりは、関係者全員、誰一人欠けることがないようにという条件を飲めば許可すると書状を送ればよろしいですか?」

「ああ」

国王が頷くと宰相は小さく呪文を唱え、何もない空間から一通の書簡を出現させ、先ほどの条件を記し国王にサインと印を押すよう国王の目の前に置いた。

国王がサインと国璽を押すと書簡は銀色の光を放った。

「では、早速お二人に届けさせましょう」

宰相が部下に早馬で届けるよう指示を出すと、張りつめていた空気が若干緩んだ。


重鎮たちはそれぞれの職場に戻るために会議室を退出し、後に残ったのは国王と宰相と少女のみ。


「して、そなたの方にはフランツから連絡は?」

「ありません」

「ない?」

「はい、出立されたその日から一度も」

「一度も!?」

「ええ、私の存在など忘れているのでしょうね」

「いや、しかし」

「お二人から届いた手紙に私のことが一言でも書かれていましたか?婚約解消の依頼や、私に対する謝罪などありましたか?」

「……ない」

「彼にとって私という存在はその程度だったという事ですわ。出立前にあれだけ『必ず無事に帰るから待っていてくれ』なんて仰っていたのにね。私はあの方にとって取り換えの利くお人形だったのですわ」

ふっと笑う少女に国王も宰相も何も言えなかった。


もともとフランツと少女の婚約はフランツの我儘を国王が叶えた形で成立していた。

そこに少女の気持ちなど一欠けらも存在していなかったのである。


「では、私も屋敷に帰ります。お父様、今日はいつごろ帰られますか?」

「いつもと同じ時間に」

「わかりました。お食事の用意をして待っていますね」

「ああ、気を付けて帰るんだぞ」

「はい。陛下、御前失礼いたします」

美しいカテーシーをして部屋から出ていく少女を国王と宰相は静かに見送った。



***


『魔王討伐』が成れた時、『聖女』の願い通り『聖女』と『護衛騎士』の婚姻を認めるという告知は瞬く間に国中に広がった。


ある者は当然の報酬だと言い。

ある者は婚約者がいた者を横取りした『聖女』とは一体どのような存在なのかと問いかけ。

ある者は婚約者に相談もなく婚約破棄をし『聖女』に乗り換えた『護衛騎士』に憤っていた。


『護衛騎士』の婚約者であった少女は悲しそうな表情を浮かべながらも日課にしている教会への参拝を事欠かさずにいた。


ある者が『聖女に婚約者を取られて悔しくないのか』と問いかけた。

少女は薄らと瞳に涙を浮かべながら「聖女様のお蔭でまだ私たちは平穏に暮らせています。きっと聖女様ならこの世界を平和に導いてくださいます。一番の功労者である聖女様のお願いは無下にはできません。国王陛下も国の行く末を思えばこそ、このような決断を下されたのです。私は一国民としてそれに従うだけです」と答えたという。


周囲の者達はそんな少女を痛ましく思い、そっと見守ることに落ち着いたのだった。



***


そんなある日、国中を震撼させる出来事が起こった。


『護衛騎士』の婚約者であった少女……宰相の娘である、アンネリースが何者かに浚われたのだ。

しかも、聖なる場所である教会内で……


多くの騎士や兵士たちが彼女の行方を捜した。

しかし、いくら探しても彼女の姿を見た者はいなかった。


最後に目撃されたのが教会で祈っている姿だったという。


宰相は寝る間を惜しんで娘を探し回った。

だが、教会で祈り始めた姿を教会の神父が見たのを最後に娘の姿を見かけた者がいないという。


アンネリースが姿を消して2か月がたった頃、宰相宅に一通の書簡が届いた。


宰相はそれを読んだ後、ずっと続けていた娘の捜索を打ち切った。


書簡の主は『魔王アレクシス』


「貴殿の娘は我が妃、魔王妃として娶らせてもらった」


たった一文、そう書かれていたという。


国王は使者を使い『魔王討伐』メンバーにこのことを伝え、アンネリースを早急に無事に連れ戻すように命令を下した。

しかし『聖女』はそれを拒否した。

『聖女』曰く「魔族の手に落ちた者ならば、討伐対象である」と。


宰相は『聖女』の言葉に絶望した。

宰相はその位を辞し、自ら魔王のもとに向かうと国王に申し出た。


最後にせめて愛しい娘に会いたいと。


国王や重鎮たちは必死に引き止めたが、妻を数年前に亡くし、生き甲斐である一人娘を溺愛していた彼を止めることはできなかった。

いや、彼が張り巡らせた罠に悉くはまり、彼を魔王のもとへ向かわせてしまったのだった。


宰相は魔王領にたどり着くとすぐさま魔王城に迎え入れられた。

旅の途中でアンネリースの父だと知られると魔族がこぞって彼を丁寧に扱い、すぐに魔王領に送ってくれたのだった。

『聖女』たちが一年以上かけてもまだ、たどり着けなかった場所にたった数十日で辿りついてしまったのだった。


「あら、お父様」

魔王城で出迎えたのは以前よりも少しふっくらとした娘・アンネリースだった。

「アンネ、無事だったんだな」

「ええ、魔王(アレク)様が大切にしてくださっているので」

にっこりと今まで見たこともない美しい笑みを浮かべる娘に宰相は首を傾げた。


多くの魔族の者に慕われている娘の姿に。


「アンネリースの父上であらせられるか?」

娘の様子を茫然と見つめていた宰相に金髪碧眼の青年が声を掛けてきた。

この世の者とは思えないほどの美しい顔をしている。

「私はアレクシス。魔王を名乗っている者です」

宰相に向かって頭を下げる美青年に宰相は慌てる。

「アルバン・フォン・キュンチェルです。娘がお世話になっているそうで……」

「いやいや、リースにはこちらの方こそ世話になっている」

にっこりと微笑む青年アレクシスは立ち話もなんだからと宰相…アルバンを客室に自ら案内をした。


「実は私とアンネリースは幼い頃に出会っているんですよ」

客室のソファに座り、美味しいお茶とお菓子を頂いていたアルバンにアレクシスが昔話を始めた。

アレクシスの話を聞き、アルバンはあることを思い出した。


「では貴方はあの時の?」

「ええ、あの時は大変お世話になりました」

深々と頭を下げるアレクシスにアルバンは慌てて顔の前で手を横に振り

「いやいや、世話と言っても怪我が治るまでの間でしたから、お気になさらずに」

「ですが……」

「しかし、あの時の少年が貴方だとは……世間は広いようで狭いのですな」

ああ、お茶が美味しいと呟くアルバンにアンネリースはやれやれと首を振った。


「お父様、現実から目を反らさないでくださいな」

「いや、しかし……」

「昔、我が家の領地内で大けがをして瀕死の状態だったアレク様を介抱したのは事実なんですからね」

「……魔族だとは思わなかったんだよな~」

10数年前のことを思い出すアルバンにアレクシスはクスリと笑みを浮かべる。

「私はもともと人間ですよ。魔王に就任したのも数年前ですし」

「は?」

「10数年前、瀕死の状態だったどこの誰ともわからない私を助けてくれた貴方方のことはずっと忘れずにおりました。恥ずかしながらあの時、懸命に私の介護をしてくれたアンネリースにほのかな想いを抱いてしまったんです。まあ初恋とでも言いますか……」

ほんのり頬を染めるアレクシスをまじまじと見つめるアルバン。

アレクシスの隣りに幸せそうに寄り添うように座っている娘の姿を見て納得した。

「なるほど、娘がフランツ殿との婚約をやけに嫌がると思っていたら……貴方に心を捧げていたのですね」

「え?」

「お父様!!」

驚くアレクシスと真っ赤になるアンネリース。

「アレクシス殿が魔族になったのはいつごろです?」

「アンネリースがフランツ殿と婚約した直後です」

キッパリと告げるアレクシスにアルバンはうんうんと頷く。

「昔、祖父から聞いたことがあるのを思い出したよ。魔力を大量に持っている者が負の感情を爆発させると魔族に落ちるってね。アレクシス殿はまさにそれに当てはまるんじゃないかな?」

「半分は当たっていると思います」

「半分?」

「私は魔族と人間のハーフなんです。私が貴方方にお世話になった時はまだ人間でした。とある事情から魔族である父方の親族に命を狙われていたのです。父は魔族の中でもトップクラスにいた人物だったので」

「あー、もしかしてお家騒動?」

「はい、母は父が唯一愛した人間でした。本妻にも子供は居りましたが私よりも魔力も知力も体力も弱かったので父が私を跡継ぎにすると宣言してしまったために母と二人の逃亡生活は始まったのです」

母親は逃げる途中でアレクシスを逃がすために自ら捕まり、殺されたという。

「母を殺されたと知った父は正妻とその一族を殲滅させました」

「殲滅?」

「はい、私の命を護るためだけに」

「それはまた、魔族らしいというかなんというか」

「アルバン殿は誤解されているようですが、我々魔族とて無意味に殺戮をしているわけではないのですよ?自分たちの大切なものを守るためだけに力を使っているに過ぎないのです。大昔、魔族と人間は手を取り合って生活していたんですが、我々の力や長寿である事を脅威に思う人間が増えたために今のような争う関係になっただけです」

「つまり、魔族側からしたらただ大切なものを護っているだけだと?」

「ええ、魔族と人間が袂を分けた後も何度か交渉を続けてきてはいたのですが、人間側は魔族よりも欲深いのか魔族領に生成する植物や珍しい生き物を金儲けの道具にするために侵略してくるのですよ」

「なるほど……」

考え込みだしたアルバンにアンネリースはしばらく放置しておきましょうとアレクシスに告げた。

一度考え込んだら自分自身が納得するまで父親が浮上してくることがないことを幼い頃から見てきた娘ならでわの扱いである。



アルバンが再び浮上してきたのは翌日の朝の事だった。

ずっと同じ姿勢で考え込んでいたアルバンだったが、嬉々とした表情を浮かべて娘たちの前に現れたのだった。


「は?キュンチェル領と魔王領で取引を始める!?」

「次期領主となるブルーノにはわしから手紙を送って了承を得る」

「あの子なら速攻了承の返事が来るわよ!あの子は昔から珍しいモノには目がないじゃない!魔族が作った工芸品なんていって見せたら糸目を付けずにあれこれ買い漁るに決まっているわ」

「そこは上手く誘導するに決まっているだろうが。ブルーノが欲しがりそうなものを目の前に吊るせば交易だろうが何だろうがそつなく熟すに決まっている。あいつの経営に関する才能はわが一族で右に出るもはいないからな。あいつのおかげでキュンチェル領は国庫以上の資産を持っているのだから。ちなみにさっき手紙は送っておいた」

「事後報告ですか!?」

キャイキャイ騒ぎながらも次々とキュンチェル領と魔王領の交易を勝手に進めているアルバンとアンネリースにアレクシスはくすくすと笑って見守っていた。



その後、魔王領とキュンチェル領は密かに交易を始めた。

表だって行う事はできない。

『魔王討伐』を行っている『聖女一行』の存在があるからだ。


しかし、アルバンはこっそりと国王には密書を送っていた。


アルバンからの密書を読み、国王と重鎮たちは頭を抱えることとなった。

魔族と人間の争いの原因が人間側にあることが分かったからである。

大々的に『魔王討伐』を宣伝して『聖女一行』を送り出し、褒賞の件も告知してある手前、中止にすることはできない。

『和平交渉』に切り替える方法もあるが、聖女は『魔族は悪。悪は滅びるべし』といいながら各地を回っていることを考えればそれは無理難題だろうというのが国王の意見だ。


幸いにも『聖女一行』はまだ魔王領から遥か遠いところを行動している。

まるで魔王領に近づくのを避けるかのように……


国王は重鎮たちと話し合い、次期キュンチェル領主であるブルーノを交え、秘密裏に魔王と和平を結ぶことにした。

和平を締結後、ひっそりと聖女たちに和平条約の使者役をしてもらおうという魂胆である。


しかし『聖女』は再び王令に『否』を唱えた。

魔族がいる限り自分たちに平穏な日々は来ないと言って。


そこで『魔王討伐』のシナリオを魔王自らが立てた。

魔王の身代わりを討伐させるという何とも言えないシナリオだが、魔王の魔力を練り込んで作り上げた身代わり人形は魔王とアンネリースそっくりに作った。

瓜二つでアルバンは見分けがつかないと驚きを隠せずにいたがどこか興奮したように人形の娘夫婦との会話を楽しんでいる様子だった。

魔力の一部を譲渡しているので会話することも魔法を放つ事もでき、記憶も共有可能だという。


聖女たちが魔王討伐をしている間、魔王たちは王都にあるアンネリースが祈りを捧げていた教会に隠れる予定だ。

実はこの国に存在する教会の半数近くは魔族が運営していた。

正確には魔族と人間の混血一族(人間の血が濃い者達)が運営している。

『いつか再び人間と魔族が手を取り合えるように』という願いが込めており、魔族だろうと人間だろうと出入りは自由だという。

もっとも人間が多い時間帯に魔族の者が訪れることはないという。

昼間は人間が、夜は魔族が集まるという。


魔族も『神』から生まれたと言われているから『神』を信仰するのは悪いことではないと魔族の教育内容に含まれているからである。


ゆえに魔王(アレクシス)がアンネリースを教会から浚うことなど造作もない事だったとアルバンは後に知ることになる。


混血一族が運営している教会を『(いにしえ)教会』と呼ぶ。

国が興る前からある教会であり、魔族と人間との共存を謳ってきた『古より存在する教会』と言われているからだ。

対してその他の教会を『新教会』と呼ぶ。

『新教会』は『魔族は悪しき存在、人間こそが至上の存在である』と謳っている団体であるが数は『古教会』よりも少ないが王侯貴族からの支援があり発言力は強い。


ちなみにアンネリースは幼い頃、アレクシスから彼の両親の話を聞いて『古教会』支持派になっていた。

アルバンもどちらかと言えば『古教会』派である。

彼自身忘れていた事だが、キュンチェル家の祖先が昔魔族の娘と恋仲だったこともありキュンチェル家の人間は魔族を忌避することは少なかった。

少ないだけで全くいなかったわけではないが。


魔王と国王が立てたシナリオは一寸の狂いもなく進められた。

まるで『聖女一行』の行動があらかじめ分かっていたかのようなシナリオだったのだ。



数か月後、『聖女一行』が『魔王』を討伐したという報せが国中を駆け巡った。



***


『聖女一行』が華々しく王都に帰還した。

『聖女』と『護衛騎士』は仲睦まじく常に寄り添っていた。


国王に帰還を報告を済ませ、褒賞の件に話が進んだ時、その場にいた者達は驚きを隠せずマジマジと国王を見つめることとなった。


「どうしてですか!?なんでフランツとの婚姻が認められないのですか!?」

褒賞の内容に納得のいかない聖女は国王にかみつく勢いかのように声を上げている。

その声は甲高く、一部の者達にとって不快な音として響いているらしく顔を顰める者が幾人かいた。

「どうして?理由を言わなければわからないのか?」

国王も聖女の声に顔を顰めるが国の代表として話を進めていた。

「わかりません!」

きっぱりと言い切る聖女に誰もが唖然とした表情で聖女と国王を交互に見つめていた。

「わしはそなた達の婚姻を認める条件として『魔王討伐に関係している者達が全員無事である事』と(したた)めてあったはずだが?」

「全員無事に傷一つなくここにいるではありませんか!」

「いいや、足りない」

「え?」

国王の言葉に『帰還の儀』に参列していた貴族たちも首を傾げた。

『聖女一行』は誰一人として欠けていないし、怪我をしている者もいなかったからだ。

「『護衛騎士』フランツの元婚約者だったアンネリース・フォン・キュンチェルも立派な関係者だ。彼女はそなた達の無事を毎日祈るために教会に足を運んでいた。そのアンネリースをそなた達は魔王と共に殺害した」

「フランツと令嬢の婚約は無効になったのだから無関係者でしょ!」

「そなた達の旅の資金の大半がキュンチェル家から出されていたのにか?」

「…………え?どういうこと?」

「まさか、知らなかったのか?婚約者であったフランツが旅の途中、困ることがないようにとキュンチェル家がそなた達の旅の資金を用意したのだぞ。フランツは出発前にキュンチェル伯と資金について話していたよな?詳しい受け取り方法などは書簡にして渡したよな?現に、書簡に認めた方法でそなた達はキュンチェル家が冒険者ギルドに預けていたお金を引き出していたのだから。まさか知らなかったとは言わないよな?フランツ」

「…………はい。キュンチェル家当主の委任印(委任状の判子バージョン)を預かり、ギルドからお金を引き出しました」

今まで笑顔を浮かべていたフランツは俯き、小さな声で答えた。

「国から出ていたんじゃ……」

「もちろん、国からも出していた。だが、恥ずかしい話我が国の国庫は乏しい。いつ終わるかもわからぬ旅の資金を常に出し続けることは困難だった。そなたが旅に出る前に旅の必需品だからといって購入していた各店から送られてくる『聖女』名義の請求書の山の処理が追い付かないほどだった。資金繰りに困惑していた時、キュンチェル家が独自のルートで切り開いた交易で得た利益をそなた達の旅の資金に回してくれていたのだ。国としてはありがたかった。国が借り受けると申し出たが、娘の婚約者の為ならと無償で回してくれていたのだぞ。婚約破棄後もこの国の為になるのならと返済は不要とまで言ってくれたのだ。これでもキュンチェル家は無関係だと言えるか?」

国王からの説明に『聖女一行』は口を噤んだ。

「なぜ、王令として『アンネリース嬢を連れ戻せ』とそなた達に伝令を伝えのかフランツならば理解してくれると思ったが伝わなかったのだな。キュンチェル家が今まで国に資金を過剰に提供してくれていたのはすべてアンネリース嬢とフランツの幼い頃からの関係があったからだ。だが、その関係は『婚約破棄』と『魔王討伐』で壊された。フランツにとってアンネリース嬢は簡単に切り捨てられる、簡単に殺せる程度の存在だったんだな。幼馴染としての情すらなかったのだな」

深いため息をつく国王にフランツは反論できずにいた。

実際、魔王城でアンネリースと再会したフランツはアンネリースの声を一言も聞かずに左胸に剣を刺したのだから。


「というわけで、聖女への褒賞である『護衛騎士フランツとの婚姻』は簡単には認めることはできぬ」

「なんで?どうして!?魔王を倒したのに……」

俯き肩を震わせる聖女をフランツがそっと抱き寄せた。

参列していた貴族からは『魔王討伐』という偉業を成し遂げたのだから認めてはという声が上がった。


暫しの間、婚姻賛成派と反対派が言い争い会場は騒然とした。


長い沈黙の後、国王が口を開いた。

「だが、そなた達の今後の活動次第では考えないわけでもない」

「え?」

「フランツから王位継承権をはく奪し、辺境伯爵位を授ける。フランツは騎士団を退団し、一領主として国に仕えてもらう。領地は元魔王領と隣接した土地だ。魔族が再びこちら側に危害を加えることがないよう監視をするように」

「……でも、フランツ以外に王位を継げる人は……」

「わが娘である第一王女に婿を迎え、その者を次期国王とする」

国王の突然の宣言に参列者たちからざわめきが起きる。

第一王女と言えば王位継承権が従兄弟であるフランツよりも低いことからいずれ国外に嫁ぐのだからと勉学に励んでいることはこの国に住むものなら誰もが知っている事である。

諸外国からも是非にと申し込みが多数あることも。

そしてアンネリースとは無二の親友であったことも。

「次に聖女には国内にある教会全てに巡礼してもらう」

「それは……」

「そなた達がどのように『魔王討伐』を行ったのかを教会に通う者たちに語ればいい」

「陛下、それは『古教会』『新教会』問わずにですか?」

神父見習いであり『聖女一行』に参加していた白魔導士が問う。

「当然であろう?わしは国内にある教会全てと先ほど申したはずだが?」

「しかし『古教会』は……」

「嫌だと申すなら、婚姻は諦めるのだな」

フランツの腕の中で俯いていた聖女が顔を上げ、国王を見つめる。

「巡礼を行えば認めて貰えますか?」

「言ったであろう。そなた達の活動次第だと」

「わかりました、私は陛下のお言葉に従います」

フランツの腕にしがみ付きながらの宣言にある者は笑みを浮かべ、ある者は顔を歪めた。


終始、王族に対するマナーがなっていなかった『聖女』に対して……


広間の外では『聖女』のマナーの教師達があまりの出来の悪さに辞表を片手に卒倒していたそうだ。


***


「『聖女』が教会巡礼を受け入れたそうだよ」

白薔薇が咲き誇る庭に面したサンルームでお茶をしていたアンネリースにアレクシスが笑いながら話しかける。

「陛下も甘いわね。結局は猶予期間を与えるんですもの」

「聖女様と護衛騎士殿は無事に巡礼を終えれば愛しの愛しの恋人と結婚できると張り切るんじゃないか?」

「そうね『新教会』では歓迎されるでしょうけど『古教会』はどうでしょう。ほら、聖女たちが必死に人形と遊んでいる間に私達が広めたあの物語」

「『魔と聖のはざま』のことか?」

「ええ、貴方から聞いた魔族に伝わるあの悲恋話を絵本にしてブルーノが出版したのよ。そしたらキュンチェル領から国内はおろか、国外にまで広がったんですって。それ以降『新教会』の教えは本当に正しいのかという議論があちこちで起こっているそうよ。そんな中、魔王を斃した聖女様が自慢げに魔王討伐の話をしたらどうなるかしら」

「…………多少の反発は出るな」

「しかも、聖女様はあの物語に出てくる主人公の婚約者を奪った妹と似たような立場なのよ」

「ああ、主人公の婚約者を寝取った……言われてみれば似てるな。国から『聖女』と認められ、姉の婚約者だった騎士を自分の『聖騎士』にして、『魔族』を討伐する旅に出る。一方、主人公は『聖女』の姉という事で魔族に浚われてしまう。恐怖に怯える主人公を一人の魔族の青年が優しく話しかけたり珍しい物を送ったりし、次第に二人は恋に落ちていく。しかし『聖女』は魔族の青年を主人公の前で殺し、魔族と心通わせたとして主人公をも殺してしまうという。……ってそれは俺達にも当てはまっているんじゃないか?」

「そうよ」

「そうよって。リースはそれを分かっていてブルーノ殿に出版を薦めたのか?」

「違うわよ。貴方から昔話を聞き終えたブルーノから『まるで君とアレクシス殿の物語のようだね』って言われて気づいたのよ。だからね、ちょっと聖女様と護衛騎士様を懲らしめられればいいなって思って出版の許可を出しちゃったのよ」

「そしたら徐々に魔族とのあり方の見直しが各地で起こっていると?」

「そうなのよね。てっきり発禁扱いになると思ったんだけど……ほら『新教会』の人達って『魔族は悪しき存在、人間こそが至上の存在である』って謳ってはお金を巻き上げていたでしょ?『古教会』の教えが支持されたら今まで通り巻き上げることが困難になるじゃない?それに魔族との共存を呼び掛けている声も大きくなってきたし……『魔と聖のはざま』も極悪本とか言われて火にくべられると思ったのよね」

ティーカップに注がれたお茶を眺めながらアンネリースは小さくため息をつく。

「この子が成人するまでは平穏でいたいわね」

大きなお腹をさすりながら眉を下げるアンネリースにだがアレクシスは笑みを深めた。

「彼女たちが俺達の存在に気づくのはずっと先になるさ。まさか、崩壊した魔王城に再び人(魔族)が暮らしているなんて考えもしないだろうよ。それに彼女たちは目先のことにしか執着していないようだからね」

アンネリースの横に座るとアンネリースの大きなお腹に触れ

「そうだな、この子たちが5歳の誕生日を迎えるまでは大丈夫だよ」

「それは貴方の『未来視』?」

「ああ、さっき視えた。この子たちの5歳の誕生日に乗り込んできてギャーギャー騒ぐ姿がね」

「えー、騒ぐの?この子たちの誕生日に?やめてほしいわ」

「大丈夫、この子たちが彼女たちを追っ払う姿が見えたからね」

「え?」

「この子たちは俺達が想像している以上に賢く優しく素直な子に育つよ」

「あら、そこは一緒にそう育てようって言ってほしかったわ。でもそうね。優しく素直な子に育ってくれればいいわ」

「賢くなくていいの?」

「私が望むのは五体満足で優しくて素直な子。別に賢くなくてもいいわ」

ふんわりと優しい笑みを浮かべるアンネリースにアレクシスもそれもそうだなと頷く。


***


『聖女巡礼』は失敗に終わった。

『新教会』では快く聖女は迎え入れられた。

真剣に聞く子供たちに聖女は声高々に話したのだ。

魔族とは悪である。

悪は滅びなければならないと。

『新教会』ではその言葉は支持された。


しかし『古教会』では眉をひそめる者が多かった。

聖女の話に反対意見を出した者が聖女の信者(魔王討伐一行)に怪我を負わされたのは最悪だった。

反対意見を出した者に暴力を振るった信者を止めるフリすらしなかった聖女に民は落胆したのだ。


さらに『魔と聖のはざま』が流行し始めると聖女こそが悪人ではないかという声が上がった。

聖女は必死に自分の正統性を説いたが、信じる者は少なかった。


魔族と人間の争いの原因が人間側にあることが公になったことも『聖女巡礼』の失敗の原因だろう。

王家が隠していた人間による魔王領への侵略理由を知らされた国民の中には侵略推進者たちを捉え、尋問したという噂もあちこちで聞かれるようになっていた。


そんな時、旧魔王領に魔王が復活したという噂が流れた。



数年後

「お父様!あのうるさい女の人がまた来てるよ」

「父上、あの人が入れないように結界を張ること出来ないの?」

うんざり顔の男女の双子の子供にアレクシスは苦笑いを浮かべることしかできなかった。


「あの人ずっと『なぜヒロインである私がこんな目にあっているのよ!すべてはあんたのせいよ!』って母上に向かって怒鳴っているんだけど」

「『ヒロイン』って物語の女主人公のことだよね?あの人、なんかの物語の主人公なの?」

「さあ、それは本人にしかわからないんじゃないのか?」

「父上、知っていて黙っているの?」

「なにを?」

「あの人が言っている事って『乙女ゲーム』の事だよね?父上もその内容を知っているから母上の事を助けたんでしょ?」

「えー!お父様もお母様も登場人物だったの!?私が知っているのは次世代編だったから気づかなかったわ」

「僕は母上の名前を知った時に思い出したんだけどね」

「私はつい最近『次世代編』を思い出したんだけど……きっかけは忘れたわ。でもいい加減鬱陶しいのよね。自分が結婚できなかったのは『逆ハー』を目指していろんな男に粉を振りまいたせいなのにお母様のせいにするのはおかしくない?」

「ほんと、責任は辺境伯たちに取ってもらいたいよね」

魔王城の正門前で繰り広げられている『聖女による演説』は最近では魔王領での見世物の一つとなりつつある。

聖女の演説が終わる頃に魔王妃が登場し、

「いい加減にしてくださいませ。私は貴女のことなど存じておりません。どなたかと間違えておいでなのでは?それからご自分が幸せを逃がしたのを私のせいになさらないでくださいな」

という言葉と共に魔方陣を出現させると『聖女』を強制的に辺境伯領の館に送り出すのだった。


辺境伯領に強制送還された『聖女』はかつての聖女信仰者たち(辺境伯は離脱済み)に慰められ、再び魔王領を目指すという行動を繰り返すのであった。


だがそれも魔王から国王への嫌味たっぷりな親書が届けられたことによって終演を迎える。

『聖女』の監視の意味を含め辺境伯に『聖女』を娶らせたからである。

国王は『自分の我儘を押し通して王令で結ばせた婚約者を捨ててまで婚姻を望んでいた女性だ。異論は受け付けない』と辺境伯に伝えたそうだ。



***蛇足***


「次世代編のゲームのプロローグ通りなら、僕たちを産んで死ぬはずだった母上。父上は僕たちが生まれる前に殺されているはずだったんだよね」

優雅にティータイムを楽しむ魔王父子(おやこ)

「でも父上は母上を死なせたくなくて、和平という道を選んだ」

「そうなの?お父様」

テーブルを挟んだ向こう側から見つめてくる子供たちにアレクシスは笑みを浮かべ

「さあ、それはどうだろうね。それは、父様と母様のヒミツだ」

「え?ということは母上も!?」

「話したことはないけどね。多分……お前たちが想像している通りだと思うよ。だけどね」

いったん言葉を切り、真剣に子供達の顔を見つめるアレクシス。

「過去の記憶と似ているからとなにもその通りにする必要はない。今俺達はこの地で自分たちの意志で生きている。ここは『ゲーム』や『物語』の世界なんかじゃないんだってことだよ」

お茶請けのお菓子を美味しそうに食べるアレクシスに子供達も納得した表情を浮かべた。


「あら、珍しいわね。3人だけのお茶会なんて」

ガチャリと扉の開く音がすると一人の女性が入室してきた。

「あ、お母様。もう起きて大丈夫なの?」

「ええ、お医者様にも許可を頂いたわ」

アレクシスはすっと席を立つと、そっと女性に手を差し伸べた。

「だが、あまり無理はするなよ。リース」

「ええ、もちろんよ」

にっこりと微笑みながらアレクシスにエスコートされ椅子に座る女性・アンネリース。

「お医者様が仰るには双子ですって」

まだふくらみが小さいお腹をさすりながら愛おしそうにつぶやくアンネリース。

お腹をさすっている手を優しく包み込むように重ねるアレクシス。

双子の子供たちは嬉しそうにそんな両親を見つめていた。



相変わらずジャンル不明作品。

一応恋愛ジャンルにしたけど……恋愛であっているのか!?


もともと連載用に考えていた作品の劣化版ヾ(--;)ぉぃ

勢いだけで書き上げたので色々とツッコミどころはあるだろう作品です。

何時かリメイクしたいな~

アレクとの出会いとか、再会場面とか付け加えたい(←多分できない)


『聖女』は下級貴族にしようか平民にしようか迷って明記せず。

異世界からの召喚ではない。


最後は尻切れで申し訳ない。

ただ、これ以上は必要ないかなと思ってぶった切りました。

辺境伯のその後とか……


あくまでもこの話はアンネリース側のお話なので……(ーー;)


ちなみにアンネリースはアレクシスや双子の子供たちほど昔の記憶=前世の記憶がありません。

ただ、幼い頃に夢に見たことが起きている気がすると思っている程度です(多分)

婚約者に捨てられる夢をみてそれが現実となった。

なら嘆くよりも幼い頃に出会った初恋の彼を探した方が建設的よねってことで行動していたんだと思います。

それを作品に生かせない自分の文才のなさが辛い……




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― 新着の感想 ―
[一言] フランツ視点も見たいかな?
[気になる点] 侵略推進者たちを捉え、 捕らえ
[一言] フランツが聖女に乗り換えて幼馴染としての情も無くなっていった洗脳の過程と、信者から離脱した心情の経過と押し付けられた後の苦悩とかあれば読みたいですねえ
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