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あれこれ考えていて気付いたら2人に不安気な目で見られた。
「おい、黙り込んでどうしたんだよ?」
「もしかして私のこと覚えてない…ですか?」
琴音に至っては少し泣きそうな顔だ。
「…いや、覚えてるよ琴音。ただ僕のことがよく分かったなって思って。…ほら、いまこんな容姿でしょ?女っぽくないでしょ?」
「ああ!うん、確かに最初は分からなかったけど名前と和樹くんとのやり取りを見て、この人は絶対に出流ちゃんだ!って確信したんだよー。」
そう嬉しそうに笑顔で語る姿は流石ヒロインというべきか可愛い。
栗色のボブカットに、大きなクリッとした目にマスカラいらずのまつ毛、スッと通った鼻に小さめの口、童顔と身長のせいで容姿が実年齢より少し幼く見えるが、それでもかなりの美少女である。
「そうだったんだ。僕のこと覚えててくれて嬉しいな。折角だからもう少し喋りたい所なんだけど…、」
「どうかしたのか?」
和樹が聞いてきた質問に一瞬迷ったが、素直に答えることにした。
「うん、癒月先生に渡す書類忘れてた。今日の朝もってこいって言われてたんだよ。」
「お前…それは忘れちゃダメだろうが!」
僕がヒラヒラと一枚の書類を見せると、和樹は眉を潜めて声を荒げた。
「うん、ごめん。てなわけで、届けてくるよ。和樹は、琴音と先に教室行ってて。」
「…ああ、分かった。……大丈夫だったんだろうな?」
その声は心底心配している音色が含まれている。
「うん、今年も問題なかったよ。大丈夫。それより早く行かないと遅れるよ。」
笑顔で答えると、和樹は訝しげに見つつもそれ以上の詮索をやめた。
「そうか。…琴音行くぞ。」
「え?う、うん。」
琴音が、複雑な面持ちで教室に向かう和樹と僕を不安気に交互に見ていたので、安心してという意味で笑顔で手を振って琴音を見送った。
「…ふぅ。」
心配の中に混じっていた後悔が滲み出ていた顔だった。この話題が出るたびに見せている彼の表情を思い出して、自分の表情も歪み、それを落ち着かせるために息をつく。
「…僕は、そんな顔をさせるためにお前を守ったんじゃ無いんだけどな…。」
呟いた言葉が、2人が居なくなった廊下に虚しく響いた。
「和樹、僕は君を守れて後悔してないよ。」