第3章 ★約束の日からの心模様、雨のち曇
第3章 ★約束の日からの心模様、雨のち曇
《2013年7月7日 甲戌の日 先負 小暑/七夕》
上海でのステキな一夜を過ごしたわたしとボサボサ男こと陳健三。この時、ひとつの約束をした。日本に亡命できた暁には「また七夕の日に逢いましょう」と誓い合ったのだ。
私の記憶が正しければ、七月七日午後五時、神戸のビーナス・ブリッジ。一年後か、二年後か、三年後か、四年後か……。
わたしは二年後の七月六日に亡命を果たすことができた。この時、わたしは亡命するにあたり、外務省官僚の平野のおっちゃんの養女となっていた。名前も「共和国人民・金美姫」から「日本人・平野ミキ」に変わっていた。わたしはこの日から平野のおっちゃんの家に住むことになった。その日の夜、平野のおっちゃんご夫婦とご馳走に預かった。フグ料理を堪能した。日本ではフグは幸福の「福」にあやかって「フク」とも呼ばれている。大阪ではフグのことを『鉄』と言い、フグ鍋を「てっちり」、フグ刺しを「てっさ」と呼ぶ。わたしはてっさに惚れ込み、てっさをたらふく食べた。そして、わたしはフグとボサボサ男のことで気分が高揚して一睡もできなかった。
一方の陳健三は、中国公安による逮捕を事前に知り、出逢った翌朝に香港経由で「微笑みの国」タイの首都「バンコク」へ逃亡。その後、タイ国内の北部にある高原の古都「チェンマイ」や南部にある商業都市「ハジャイ」で雲隠れしながら外務省官僚の平野のおっちゃんの協力を得て、一年後に日本へ亡命。
こうしてふたりは二年後には日本にいた。そして二年後の七月七日の日を迎えた。天気予報は晴れ。降水確率ゼロ%。彦星と織姫が逢うには絶好の日だ。
眠れずに一睡もできなかったわたしは、日本での朝食を味わった。温かいご飯に納豆、焼き鮭、佃煮、豆腐の味噌汁。納豆は似て非なるものが満州を起源とする朝鮮半島の伝統食品にある。「ソクチャン(南ではチョングッチャン)」と呼ばれるモノで、日本みたいにご飯にはかけない。鍋料理のペーストとして使われることが多い。日本の納豆に比べ、臭いがきついのが特徴。南朝鮮(韓国)では健康志向の高まりで日本の納豆が人気で、需要がチョングッチャンを追い越す勢いにあるという。文化の違いも時代が流れ行くなかで変遷して、国境を越えて共有されていくのだろう。
わたしは納豆が大好きだ。北朝鮮のソクチャンよりも食べやすく美味しい。それは企業努力の賜物らしい。日本で地域格差のあった納豆がこの二十年間で大きく変わった。主に東日本で食べられてきた納豆が西日本でも食べられるようになった。「大阪人は納豆嫌い」というのが常套句でなくなったのだ。その独特な臭いを軽減したり、糸を引くという食べにくさを変えるべく超小粒にしたりすることによって食べやすくなった。
これは元来の納豆の長所を否定するものだが、地域や人によって長所は得てして短所にも成り得る。その短所を上手く補う日本企業の頑張りがこんなところでも垣間見えて面白いのだ。
朝食を終えたわたしに、おっとりして上品な雰囲気のある洋子さんから「これから一緒に買い物に行きませんか?」とお誘いを受けた。もちろん、わたしは喜んでお誘いをお受けした。
デパートは午前十時より営業しているので、それに合わせて行く。
大阪環状線の内回り電車は四、五分置きに走っている。過密ダイヤではなかろうか。それでいて電車はほぼ満員状態。ピョンヤンの地下鉄とは大違いじゃないの。
洋子さんは「黄色い線より前にいると危ないわよ」と言って、かなり後ろの方で待っていた。
「おばさん、どうしてそんな後ろで待っているの?」と訊ねた。
「この前もあったのだけれど、精神障がい者がホームで人を突き飛ばすケースが増えているらしいのよ。それで、気を付けているってわけよ」
「洋子おばさん、それにしてもちょっと後ろすぎません」
「アハハ。そう言われてみれば、そうね」と洋子さんは言って、躊躇しながらゆっくり三歩だけ前に出た。わたしは言いたいことをズバズバ言う方なので、知らず知らずのうちに人を傷つけているのかもしれない。この洋子さんの件でふと、そう思った。その性分は日本に来たからと言って変わるわけもなく、どちらかと言えば一層、磨きがかかった気さえしていた。
それからもうひとつ気になったことがあったので洋子さんに聞いた。「二列に並んでください」とプラットホームに書いてあるのにきちんと並ばないですよね、しかも電車が来た瞬間に後ろの方から順番を完全に無視してダッシュして走って来る。危ないわよね」。
「確かに危ない。それで私も突き飛ばされたことがあるわ、大阪人はせっかちなところがあるのよね。大阪弁でそれを『イラチ』って言うのだけどね。例えば、エスカレーターに乗っても早足で歩いたり、横断歩道で青に変わる前にフライングして渡ったり、エレベーターに乗ったら即効で閉まるボタンを連打したりするのよ」
「それって冗談でしょ」
「本当に本当の話。大阪にいればすぐに体験できるわよ」
「なんかそれって疲れないのかしら。時間に追われているようで」
「確かに。だから大阪の人が世界で一番の早足だっていうデータもあるわ」
「なるほどね」。わたしは洋子さんの一言一句に納得しながらも、この忙しない大阪で生きていけるのだろうかと不安に思った。
★ ★
大阪・梅田にある百貨店には十時前に着いた。店の前でバーゲンセールを待ちわびた人々が列をなして並んでいた。わたしたちもその一番後ろに並んだ。わたしは、こういう風にして並んだ経験は今までない。初体験だった。
そしてオープンの十時になり、並んだ順番に老若男女がデパートへと入ってゆく。手を繋いだ若いカップルもいれば、ぺちゃくちゃと井戸端会議中の年配女性グループ、それからひとりぼっちながらもウキウキワクワクしている男性や女性もいる。その光景を目の当たりにして、平和な国に来たんだなぁという実感が沸々と湧いてきた。
入り口に入ると待ち構えた店員たちがずらりと並んで「いらっしゃいませ」と笑顔で挨拶する。清楚で奥ゆかしい。これが日本流のおもてなしなんだ。「おばさん、すごいわ」。
「わたしらは当たり前に思っているけれどね。百貨店自体がいま売上げの落ち込みで存亡の危機にあるのよ。インターネットでのショッピングが『エマゾーン』をはじめ『ヤッホー』、『楽市市場』などが台頭してきて業績を伸ばしているらしいわ」
「エマゾーンにヤッホー、楽市市場ね。メモっとこ」。私は、初めて聞く単語があれば直ぐにメモを取れるようジャケットのポケットにミニサイズの手帳を忍ばせている。
店員がそわそわしながらわたしたちに何か言いたげにしていたので訊ねた。「どうかされましたか?」。
「失礼かとは思ったのですが、お二人の会話が偶然、耳に入ったものですから……」
「で、何でしょう?」
「ちょっと差し出がましいとお思いになるかも知れませんがよろしいでしょうか?」
「ですから、何ですか?」。わたしは苦虫を噛み潰したような顔をしてみせた。
その女性店員は、わたしを睥睨して呆れ返ったようにこう言うのであった。
「エマゾーンはアマゾン、ヤッホーはヤフー、楽市市場は楽天市場だと思うのですが……」
その言葉に恐縮している洋子おばさん。「すみません。もう年なものでちょっとボケも入っているものですから。ミキさん、ウソを言ったみたいでごめんなさい」。洋子おばさんが、何かかわいそうになったので、わたしが反撃してやった。
「おばさんが謝ることなんて何もないわ。あなた、名前はなんていうの?」
「すみませんでした。中村、中村のりこと申します」
わたしは腹いせにでっかい声でこう言ってやった。
「店員の中村のりこが鼻毛を伸ばして、鼻くそをほじくって、皆様のお越しをここで心待ちにしております。皆様のお越しを鼻毛伸ばーしてお待ちしております。中村、中村のり子でございまーす」
中村店員は、何も言わず赤い顔をしてどこかへ走り去った。
おばさんも周りの人も物見遊山で楽しんだようにケラケラ笑っている。わたしは、やり過ぎたと後悔しきりだった。それで、帰り際に受付カウンターに中村店員あてにお詫びのメッセージと粗品を置いていった。「中村店員、本当に申し訳ありませんでした」。
ショッピングは、共和国にはない豊富な品揃えで十分楽しめた。
裾の広がったパンツ「ガウチョパンツ」がちょっと気に入ったので、それでまずAショップで店員さんにガウチョパンツに合うコーディネートをしてもらった。ガウチョと言えば、私はタンゴの名曲で『ガウチョの嘆き』を思い出す。
その店員さんによると、わたしは背丈が一六八センチと少しある方なので、ガウチョパンツが合うらしい。ガウチョパンツはフェミニンなベージュにし、トップスはショート丈のものが良いらしいので、伸縮性があってフィット感があるハイネックのグレー「リブニット」にショート丈の黒色ジャケットを羽織った。靴は、甘く柔らかなドラジェカラーのパンプスを履いて完了。全体的にニッポン的な大人女子のフェミニンコーディネートとなった。洋子さんが、娘となったわたしにこれら一式をプレゼントしてくれた。
それなのに、わたしは洋子さんを「お母さん」とは呼べない。早く呼べるようにしなければと思っているのであるが、天に召された母に悪いような気がして、そう易々と呼べそうもないのである。「洋子おばさん、ごめんなさい」。
★ ★
その日、早速ガウチョパンツのコーデに着替えて午後三時少し前に家を出た。電車に乗り、神戸三宮駅には四時前に着いた。そこからはバスで7系統神戸駅方面に乗って諏訪山公園下のバス停で降りた。目指す場所はそこから歩いて十五分程。約束の時間である五時より三十分近くも前に着いてしまった。この場所は既にカップルで一杯だった。あとで知ったのだが、この日が七夕の日でしかも日曜日ということもあって特に多かったようだ。
けれど、約束の時間になっても彼は来なかった。
約束の時間から約一時間待ったけれど、約束の場所、神戸のビーナス・ブリッジに彼は姿を現さなかった。
カップルはここで南京錠を取り付けるのがお決まりらしい。ここで大好きな人と鍵を掛けると結ばれるというのだ。
もしかして、すれ違ったのかもと、彼のことをよく知る平野のおっちゃんに電話をして「あの、おじさん。上海でお会いした陳健三さんから最近、連絡ありました?」って尋ねたら、逆におっちゃんから聞かれた。「陳君と何か約束でもしているのか?」と。
それで、わたしは「いいえ、特に……」とお茶を濁したが、「最近、連絡はないな。おじさん、いま上海で、ちょっと取り込んでいるから。お土産は買ったからな。それじゃ」と忙しげに言って電話を切られた。ついていない。いつもは優しいおっちゃんにまで素気無くされた。
帰り際、夕日はまさに沈もうとしていた。諏訪山公園下でバスを待っていると、何気なく空を見上げた。すると、どうだろう。彼と見るはずだった星はとてもキラキラ輝いているのだ。気分は一層、切なくなるばかりだった。
「健ちゃん、今度会ったら、ただではすまないわよ」と叫んだ、心の中で。
わたしはその日の夜、一睡もできなかった。
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《2013年8月7日 戊戌の日 友引 下弦の月》
それから一か月後のこと。
家に帰ったら、ボサボサ頭の彼がいた。
一瞬、彼の頭を搗ち割ってやろうかとさえ思った。腹立たしさがまず先に訪れた。
彼は上海の時のように飄々として平野のおっちゃんと談笑していたのである。わたしはまるで天敵を見るかのようにイラッときていた。
「なんて顔しているんじゃ。ミキらしくないのう。折角、陳くんを家にご招待したのに。この前の電話で……」。平野のおっちゃんの言葉を遮るように、わたしは不機嫌そうな態度で「あの、ちょっと着替えてきます」と言って彼にろくに挨拶もせず自分の部屋に入った。
わたしはジャージに着替えて、心を落ち着かせるようにゆっくりと自分の部屋から三人がいる応接間へ行った。
この三人というのは、平野のおっちゃんと洋子さん、それからボサボサ男。
このボサボサ男、一週間前にわたしと約束をしておきながらすっぽかしたのである。何ていう男なのだろう。それ以来、正直言ってわたしは彼から一切連絡がなく落ち込んでいた。
なのに、ボサボサ男のこの笑顔は何なのだろう。あまりにも人を小馬鹿にしているではないか。あれ以来、わたしは食欲がなくて、ろくすっぽ何も食べていないというのに。ボサボサ男のこの笑顔は一体何なんだろう。しかも、ボサボサ男は食欲が旺盛で、ご飯をおかわりしてやがる。
「陳さん、こんばんは。お元気でしたか? どう見ても変ですよね、この状況」。わたしは、ふてぶてしい態度を取った。この時のわたしはきっと醜いアヒルの子だっただろう。そうでなければ、金魚鉢の金魚のように哀れみ憐れんで飼い殺しにされている愚かな賢者のようであったかもしれない。また、そうでなければ善良な人間のマスクをかぶった鬼畜な獣であったかもしれない。そう考えると、恐ろしい気がした。わたしはなんて愚かしい人間なんだ。誰か焼肉のタレで真っ黒に汚れたおしぼりをわたしの顔に投げつけてやろうと思う奴はいないのかとさえ思った。誰もやらないならいっその事、自分で目の前の焼肉のタレに顔を突っ込んでやろうとさえ思った。馬鹿馬鹿しいったらありゃしない。
「こんばんは。元気ですよ。ミキさんも元気そうで何よりですね。今日は先生に招待されて来ました。先生はこんな素敵なお嬢さんを娘さんにされて羨ましいですね。本当にそう思います」
「アハハハハ。陳くん、何を言うんだね。今日はいつもにも増しておべんちゃらが上手いね。それに比べて、今日のミキは愛想がない。どうしたんだ。何かあったのか?」。心配そうにわたしの顔を覗き見る平野のおっちゃん。
「そうよ、そうよ。どうしたの? いつもと違うわよ。ミキらしくないわよ」。洋子さんは、わたしの顔を一瞥して悲しそうな表情をして声を震わせて言った。
「洋子おばさん、ミキらしくないって。じゃあ、ミキらしいってどういうことなのか教えてください」 。わたしは悪魔にでも取り憑かれたように洋子さんにまで八つ当たりをした。わたしって人間として失格だね。最悪、最低だね。本当にどうかしている、わたしったら。
平野のおっちゃんは呆れた顔をして「今日はもう自分の部屋に戻りなさい」 とわたしに向かって怒鳴りつけた。わたしは泣きそうになった。自分の顔を手で覆うようにして走って自分の部屋に戻った。
部屋に戻ったら、ダムが決壊したかのように、涙が止め処もなく流れてきた。共和国から亡命してから初めての泪。何か失恋した時のような泪だった。
応接間からは、三人の会話が聞こえてくる。何だか楽しそうだ。
「陳くん、ニッポンに来た時はてっきり大阪に住むものと思っていたから、驚いたぞ。愛知県で鳶職とはのう。ハハハ。飛びすぎじゃないのか?」と平野のおっちゃんがダジャレを言った。
「ハハハ。確かに。外科医、作家の後だけに鳶職をやるとは自分でも考えてはいなかったのですが、そこの浦神社長とバンコクからの飛行機で隣になって、それで浦神社長と話していたら、『うちに来ないか』とおっしゃっていただいたので、断る理由も特になく、有り難くお受けしたという訳です」
「ほう。陳くんの世話をしようとは、その社長はかなりの人徳者じゃのう」
「すると、僕のようなものをニッポンに亡命させる暴挙に出た先生は人徳者以上、ある種、神の域に達していると言っても言い過ぎではないでしょうね」
「アナタが神なら、私は何?」
「イヴではないしのう。ヴィーナスでもなかろう。ましてや琉球の女神ウヤバル・ブナダラやアイヌのルルコシンブなど有り得ん」
「じゃあ、何なのよ?」。わたしに刺激されたのか、日頃は非常に穏やかな気質の洋子さんがイラついている。
「強いて言えばじゃのう、玉依姫かのう。巫女さんのような霊的能力がありそうな雰囲気を持っとる」
「それは褒めているの、それとも貶しているの?」。洋子さんは珍しくイラついている。
「もちろん、褒めておるのじゃ」
「あー、そうなんだ。良かったあ」と洋子さんは安心したようで笑顔を浮かべている。本当に良かった。わたしはドアをほんの少し開け、泥棒猫のようにしてその様子を窺った。
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《2013年8月9日 丁未の日 先負 長崎原爆忌 ムーミンの日》
それら二日後の夜。洋子さんがわた部屋に来て、健ちゃんのことを尋ねてきた。
「ミキさん、ちょっといいかしら?」
「はい。おばさん、畏まって何でしょうか?」
「あの、ミキさんはこの前うちに来た陳君のことをどう思っているのかしら?」
わたしはその言葉に理性を失った。鼻息も荒くなった。健ちゃんへのもどかしさが爆発しそうだった。「おばさん、ちょっと聞いてちょうだい」。
「陳君と何かあったの?」
「約束した七月七日の日。あの人、来なかったのよ。上海では『七夕の夜の星を神戸で一緒に見よう。ニッポンに亡命した暁には必ず逢おう。いいね?』ってキザなことを言っていたのに。来ないのってどういうことかしら。なのに、あの人、この前この家に来たでしょ。おっちゃんに招待されて。何かおかしくない。わたしとの約束を平気ですっぽかしておいて。しかも、ひと言も謝罪の言葉がなかったのよ。それに、『オレは何も悪くはない』というようなあの横柄な態度は何なのよ」とわたしは健ちゃんに対して相当にいきり立っていた。
「あー、そうなの。それは時が解決してくれるから、そんなに興奮しなくて、大丈夫。彼も、あなたにゾッコンみたいだから」
「あの人、おばちゃんに何て言ったの?」
「それはナイショ。とにかく、その件は心配しなくても大丈夫だから。気持ちを穏やかにして。ところで、今度の日曜日、私と付き合ってくれる?」
「それはいいですけれど。どこへ連れて行ってくれるのかしら?」
「OKね。ミキさん、ありがとう。場所は当日までのお楽しみということにして。今夜はゆっくり休んでね」と洋子さんはわたしの両手を握ってそう言った。
「はい、おばさん。おばさんのお誘いなら、いつだってOKですから。そんなに気を遣わなくていいですよ」ってわたしが言うと、洋子さんは目を潤ませて感情を露わにして感激していた。おばさんは、とってもステキなお母さんというよりか女性。わたしの養母になってくれて本当にありがとう。いつの日か「お母さん」と呼べる日が来ると良いんだけれど。今はまだそう呼ぶには抵抗がある。まだわたしの心の奥の奥には、天国へと旅立った母がいるから。
それにしても、洋子さんの「彼も、あなたにゾッコンみたいだから」っていう言葉が引っ掛かる。
◎主な登場人物
▼わたし(広田ミキ/金美姫)
ピョンヤン出身/舞踏家/ニッポンへ脱北/ドジ・のろま/父外務省高官/母小学校教師/アカブチムラソイ/タンゴ/結婚・出産/子不知自殺未遂/記憶喪失/2児の母/コンビニバイト
▼健ちゃん(広田健三/陳健三)
広田家家長/中国遼寧省出身/農家三男/無戸籍/北京大医学部卒/元外科医/発禁処分作家/ボサボサ頭/ニッポン亡命/大正浪漫文化/竜宮の使い/大阪マラソン/母親白系ロシア人
▼ナナ(広田ナナ/チュッチュッ)
広田家長女/タイ難民キャンプ出身/ビルマ人/ニッポン亡命/悪戯好き/高田馬場/交通事故/あすなろ/児童養護施設/養女/道頓堀小/ハイカラさん/福山先生/失語症/車椅子
▼ヒカル(広田ヒカル)
広田家次女/大阪生まれ/天使のハートマーク/ダウン症/ルルドの泉/奇跡/明るい/笑顔/霊媒師アザミン/プリン・イチゴ好き/亡命家族を結び付ける接着剤/天体観測/流れ星
▼平野のおっちゃん(平野哲)
外務省官僚/福岡県八女市出身/両親を幼くして亡くす/ミキ・健三ら亡命者支援/ヒマワリ・サンシャイン/ミキの父・金均一の友人/ミキ養父/西行法師/吉野奥千本に卜居/満開の桜の樹の下で銃殺
▼洋子さん(平野洋子/旧姓有栖川)
平野哲の妻/旧皇族/奥ゆかしさ/ミキ養母/ミキと健三のヨリを戻す/ゆめのまち養育館/福山恵/奈良県・吉野/夫婦で早朝にジョギング、古都奈良散策/いけばな家元/みたらし団子/韓国ドラマ
▼アザミン(水田あざみ/斎木あざみ)
霊媒師/津軽イタコの家系/弱視/青森県・鯵ヶ沢町出身/10歳の時に村八分/大阪・梓巫女町/琉球ユタ修業/ミキの善き理解者/夫は水田豊部長刑事/2男2女の母親/直接的・間接的にミキを救う
▼塙光男(朴鐘九/河合光男)
北朝鮮の孤児/スパイ/金日成総合大卒/ニヒルなイケメン/新潟県可塑村村長の養子/同県大合併市市長/ミキの初恋の相手/北朝鮮、ニッポン乗っ取り計画首謀者/ミキを誘拐/親不知不慮の事故死