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第18章 ☽健ちゃん、心機一転中国語からニッポン語で小説を執筆-その2

第十八章 ☽健ちゃん、心機一転中国語からニッポン語で小説を執筆-その2


《2018年2月4日 丁卯(ひのとう)の日 赤口 立春》

 あれから一か月後。健ちゃんは焦りまくっていた。まだあらすじさえまともにできていなかったからだ。しかも、応募の締め切りまで一か月ちょっとしかない。仕事があるから真夜中に書くしかあるまい。一か月前は子どもたちとの即席編集ミーティングも行われ、「これでイケる」と意気込んでいた健ちゃんだったが、お隣さんの奥さんが入院し、しかも旦那(だんな)さんは新潟県に出張ということもあって、お隣さんの子どもたちは我が家で騒がしくしていた。なかでもブーちゃんはナナと夜遅くまで遊んでいた。健ちゃんは気が散って、原稿を書く気力さえ失いかけていた。それでも、何とか原稿を書きながらあらすじをまとめていった。

 〈梗概(あらすじ)再校(さいこう))〉

 《一卵性双子の二人が一心同体(いっしんどうたい)となって悪い人たちを懲らしめる。如意棒を持って『メラメラメラ、悪霊退散(あくりょうたいさん)!』。

 その双子の名は兄が平等(びょうどう)、弟が公平(こうへい)と言った。一九八四年十一月一日生まれの三十二歳。不本意に死んだ公平は平等の身体を借りて、世の中の不本意な存在を次々と抹殺してゆくのだった。患者を薬漬(くすりづ)けにしてカネの亡者(もうじゃ)となった病院長、女性タレントに性接待までさせて仕事を取らせる悪徳な芸能プロダクション社長、海外に愛人や愛人の子どもまで作っておきながらのほほんと生きている企業戦士という名のまやかし商社マン、過保護に育てられて暴力沙汰(ぼうりょくざた)や麻薬、大学への裏口入学、強姦など何をやっても許されると勘違いしている大手企業経営者のドラ息子、男を金づるとしてしか見ていないブランドに身を固めた勘違いオンナ……。

 この双子は、七歳の時に両親が離婚し、引き裂かれた。兄は金持ちの母に引き取られ、弟は貧乏な父の元に預けられた。兄は悠々自適(ゆうゆうじてき)に暮らし、弟は酒浸りの元弁護士の父を見ながらバイトの日々。

 兄弟が離れ離れになってから十七年後のとある日。偶然に大阪の有名なたこ焼屋の前で再会する。以前にもましてそっくりな二人。まるで鏡の中の自分を見ているようでさえあった。

 そこで、兄が不意にこぼした言葉に弟は驚愕(きょうがく)する。その言葉とは、「もうダメだ。シニタイ。オレ、シニタイ」。弟は兄が幸せに暮らしているとばかり思っていたが、現実はそうではなかったのだ。そこで、弟は兄の言葉が信じ難く「それなら三日間だけ兄貴の人生を見させてほしい」と提案し、兄もそれを受け入れて、三日間だけ公平は平等に、平等は公平に成り代わった。

 その初日のこと。平等に変装していた公平がなんと帰らぬ人になってしまったのだ。そして、時計や指輪などの所持品から平等が故人(こじん)として葬儀が執り行われた。それを公平に変わっていた平等が知ったのは二日後のTVでのニュース。悲嘆(ひたん)に暮れるも、過ぎたことはどうしようもない。

 その日から、平等は貧しい公平としての人生を歩むことになる。公平は幼稚園からの幼馴染みの女性・新子ミュウと長年同棲(どうせい)しており、しかもその家にはアル中の元弁護士の父もいてと、大変な状況に追い込まれる。ミュウは平等にとっても幼馴染みではあるが女性としては見られず戸惑う日々。平等にとって愛する女性はもうこの世にはいない広田ミキただひとりだった。 

 四十九日(しじゅうくにち)忌。弟はこの世に残してきた愛すべきミュウと父親にもう一度会いたいと平等の前に現れ、平等が提示した「平等の堕天使(だてんし)・悪魔となる」という条件を()む。弟は七日の猶予をもらい、うち六日間にミュウと父親に最高のおもてなしをして、最後の七日目にこのふたりをこの世から葬る。公平はこの時から平等の堕天使・悪魔になったのだ。それから始まった悪業退散。

 その中のひとりに自分の母・優子(ゆうこ)もいた。平等の悲しむ気持ちを思うと躊躇(ちゅうちょ)する公平だったが、それでもやり遂げた。「世の中に不公平はあってはならぬ。それが平等というものだ」。それが二人の名前の由来でもある。そして、優子が亡くなったことを知った、死んだはずのミキが平等の元に帰ってくる。放火自殺したのは一緒にいた友人で、自殺ではなく他殺だったという。犯行を主導したのは平等の母・優子だった。公平はこれで平等が幸せになれると信じ、平等に別れを告げる。「俺の分まで幸せになってほしい」と言い残して鏡の中へと消えていった…。》

 今回は、大人目線で見てもらおうと洋子さんとお隣さんの水田夫婦に協力を(あお)いだ。第二回編集ミーティングだ。

 水田豊部長刑事が切り出した。「なかなか面白い発想ですね。鏡の中から現れ、鏡の中へと去ってゆく。ところで、犯行の手口はどういうふうに?」と刑事らしい疑問を提示した。

 「犯行の手口ですか? 目には目を、歯には歯をといった具合で…」とやや口籠(くちごも)り具体的なことはまだ決まっていないのが丸分かりの健ちゃんだった。こんな時は、決まって健ちゃんの右手は鼻の頭に行き、もじもじしながら鼻を掻き始める。

 水田部長刑事はう~んと(うな)りながら「目には目をということは、悪人にも同じ思いをさせるってことでしょうか?」と刑事なので聴き取りは御手(おて)の物だ。健ちゃんは水田部長刑事が刑事であることを知らない。わたしから水田部長刑事には刑事であることを口止めしておいたから、自分で言うことはないだろう。

 「何か尋問を受けているような気がしてきました。気のせいでしょうが……」。腑に落ちない表情の健ちゃん。

 水田部長刑事は「分かっちゃいましたか」と言って再び健ちゃんに名刺を差し出した。

 その名刺を見た健ちゃんは「ええ、悪い冗談はよしてくださいよ。エイプリル・フールじゃあるまいし」と言ってカレンダーを(のぞ)()んだと思ったら、「あさってはバレンタインデーですね。今年は妻がいないから今年は本命チョコもらえないな」と妙ちくりんなことを言う健ちゃん。

 水田部長刑事は真顔になり、「広田さん、ちょっと話を聞いてもらえませんか? 大事な話です」と(かしこ)まって言う。 

 「何でしょう?」。お隣さんが刑事さんだと、もう開き直るしかない。まな板の鯉だ。健ちゃんは、煮ても焼いても何とでもしやがれといった感じで、逆に()()り返った。

 「私は広田家族を救う監視要員として政府から派遣された水田豊です。それなのに平野さんを狙撃犯に殺され、奥様を病院で誘拐されるなど失態続きで面目もありません」と部長刑事は土下座をしてみせた。「そこまでしなくても……。過ぎたことですから、水に流しましょう。ところで、お義父さんを狙撃した犯人の目星は付いているんでしょうか?」。心配そうに聞く健ちゃん。

 「ええ。目星は付いております。大阪で無差別発砲テロ事件を起こして既に指名手配中です。私もずっとその犯人を追っておりまして、事件前々日に吉野に雲隠れしたという情報を得て、私も前日に吉野に入りました。広田一家が吉野に行く列車に偶然乗り合わせておりました。何しろその父親も連続殺人犯でまだ捕まっておりません。ただ平野さんを狙撃した犯人がそいつかどうかの確証は得ておりませんが十中八苦(じゅっちゅうはっく)間違いはないと思われます」

 「もしかして証拠が不十分なんですか?」

 「うーん。それは何しろ早朝のことですし、目撃者は今のところ流れ(だま)に当たって重傷の男性しかおりません。しかも監視カメラもありませんでした」

 「えっ、そんなあ……」と健ちゃんは悲嘆に暮れた。

 「お気持ちは察しますが、そんなに落ち込まないで下さい。その容疑者の名前は日本名が達川勲(たつかわ・いさお)という朝鮮籍の男です。心当たりはありませんか?」。水田部長刑事は(たず)ねた。

 「朝鮮籍の男ですか? 本名は何て言うのでしょう?」

 「本名は徐智勲(ソ・ジフン)。山口県熊毛(くまげ)田布施(たぶせ)町(現・周南(しゅうなん)市)出身。四十歳。自称・フリージャーナリスト。身長一八〇センチ。中肉中背。背中に龍の刺青(タトゥー)あり。一匹狼で指定暴力団には一切所属せず影のフィクサーとも呼ばれていて、いまの首相官邸とも黒いウワサがあります」

 「そこって首相の地元ではありませんか?」

 「それで二の足を踏んでおるわけです。田布施には明治維新の前からキナ臭い深い闇がありましてな。それを払拭(ふっしょく)しない限り親子二代で連続殺人事件を起こしているのにも関わらず迷宮入りになりかねない。智勲の父親はまるで神隠しにでもあったかのように、この三十年の間、行方(ゆくえ)が分からないまま時効になってしまいました。これには、私のような刑事の手に負えない何かがあると踏んでおります」。水田部長刑事は頬杖(ほおづえ)を突いてみせた。


◎主な登場人物

▼わたし(広田ミキ/金美姫)

ピョンヤン出身/舞踏家/ニッポンへ脱北/ドジ・のろま/父外務省高官/母小学校教師/アカブチムラソイ/タンゴ/結婚・出産/子不知自殺未遂/記憶喪失/2児の母/コンビニバイト

▼健ちゃん(広田健三/陳健三)

広田家家長/中国遼寧省出身/農家三男/無戸籍/北京大医学部卒/元外科医/発禁処分作家/ボサボサ頭/ニッポン亡命/大正浪漫文化/竜宮の使い/大阪マラソン/母親白系ロシア人

▼ナナ(広田ナナ/チュッチュッ)

広田家長女/タイ難民キャンプ出身/ビルマ人/ニッポン亡命/悪戯好き/高田馬場/交通事故/あすなろ/児童養護施設/養女/道頓堀小/ハイカラさん/福山先生/失語症/車椅子

▼ヒカル(広田ヒカル)

広田家次女/大阪生まれ/天使のハートマーク/ダウン症/ルルドの泉/奇跡/明るい/笑顔/霊媒師アザミン/プリン・イチゴ好き/亡命家族を結び付ける接着剤/天体観測/流れ星

▼平野のおっちゃん(平野哲)

外務省官僚/福岡県八女市出身/両親を幼くして亡くす/ミキ・健三ら亡命者支援/ヒマワリ・サンシャイン/ミキの父・金均一の友人/ミキ養父/西行法師/吉野奥千本に卜居/満開の桜の樹の下で銃殺

▼洋子さん(平野洋子/旧姓有栖川)

平野哲の妻/旧皇族/奥ゆかしさ/ミキ養母/ミキと健三のヨリを戻す/ゆめのまち養育館/福山恵/奈良県・吉野/夫婦で早朝にジョギング、古都奈良散策/いけばな家元/みたらし団子/韓国ドラマ

▼アザミン(水田あざみ/斎木あざみ)

霊媒師/津軽イタコの家系/弱視/青森県・鯵ヶ沢町出身/10歳の時に村八分/大阪・梓巫女町/琉球ユタ修業/ミキの善き理解者/夫は水田豊部長刑事/2男2女の母親/直接的・間接的にミキを救う

▼塙光男(朴鐘九/河合光男)

北朝鮮の孤児/スパイ/金日成総合大卒/ニヒルなイケメン/新潟県可塑村村長の養子/同県大合併市市長/ミキの初恋の相手/北朝鮮、ニッポン乗っ取り計画首謀者/ミキを誘拐/親不知不慮の事故死


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