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第13章 ♁愛のレシピに感激の夫~ロシア人のお祖母ちゃんの味

第十三章 ♁愛のレシピに感激の夫~ロシア人のお祖母ちゃんの味

 

《2016年12月24日 庚辰(かのえたつ)の日 赤口 クリスマスイヴ》


 「うーん、これは実にうまい。これはポトフやな。お祖母(ばあ)ちゃんのポトフの味がじんわりと(よみがえ)ってくる。ああっ、目から汗が……」

 「お父ちゃん、泣いてる~。大丈夫なん?」

 「ナナ、涙は心の汗や」と父親・健三としての威厳(いげん)がひょっこり顔を出した。

 そこへ台所にいたわたしがデザートのリンゴ二個を十六等分にして持ってきた。 

 「よかったら、どうぞ。このリンゴはお隣さんからのお裾分(すそわ)け。お隣さんの実家が青森だから、有り難いわよね。最近、スーパーでリンゴが高騰(こうとう)しているから」

 「そういや、ニュースでもやっていたな。今年は例年になく野菜や果物の価格が高いって」

 「お母ちゃん、お父ちゃんがこれポトフって言っていたよ」

 「ポトフ? 健三さん、ポトフって何?」

 「ハハハ。作った本人が知らないなんて不思議やな。もしかして、作っている時だけワシのお祖母ちゃんが乗り移ったんやないか。味が滅茶似ているし、びっくりや。ポトフというのはフランスの伝統的な鍋料理で、お祖母ちゃんはその昔、修業でフランスに行ったそうや」

 「わたしとしては、日本的な家庭料理を家族に食べてもらいたかったのだけれど……それがあなたのお祖母ちゃんの味『ポトフ』になったのならそれはそれで嬉しいわ。きっと、あなたのお祖母ちゃんがわたしのとろくさい料理を見て助けに来てくれたのよ」

 「そうだな、きっと。わしは肉じゃがとやらは食べたことがないんで分からないが、ポトフが食べられただけでホンマに幸せやで。ありがとう、ミキ」。夫はまだ目をウルウルと(うる)ませている。

 そして、夫は娘がいる前でわたしに軽くハグした。

「久しぶりにタンゴを踊ろう」と健ちゃんがわたしの耳元で(ささや)く。

「娘がいるのよ……」

 「ナナはお母ちゃんとお父ちゃんが踊るのを見たいだろ」。夫は娘に訊く。

 「見たーい。お父ちゃん踊れるの?」

 「踊れるさ。中国では歌って踊れる作家として有名だったんだから(笑)。ナナ、一番下の左から二枚目のレコードを掛けてくれ」

 「クスクスクスッ。マジ、お父ちゃん。その体系で。分かった。これかな?」。そういえば最近、健ちゃんのお腹は妊産婦のようにぽっこりしている。娘は笑顔で健ちゃんにレコードのジャケットが見えるように両手で見せる。

 「それや、それ。ミキと初めて踊った曲が収録されているアルバム」 

 わたしはすぐに思い出した、上海(シャンハイ)での夜を。「『ラ・クンパルシータ』ね」

 「そうそう。アルゼンチン・タンゴで最もポピュラーな曲『ラ・クンパルシータ』。じゃあ、ナナ、一曲目だから頭から頼む」

 「お父ちゃん、分かった」

 曲が軽快に流れ出し、わたしと健ちゃんは曲に合わせて息もピッタリとセクシーに舞い踊った。娘のナナは何か物珍しいものを見ているように口をぽかんと開けている。

 娘の手前、少し恥ずかしかったけれど、わたしは内心、とても(うれ)しかった。

          ♁

 アルゼンチン・タンゴ『ラ・クンパルシータ』を踊って、わたしは普段抑えていたものがマグマのように熱くなるのを懼れながらも感じてしまい、肉体が一介の肉塊のままでは不憫なようにも思われた。その夜、わたしはベッドでもタンゴを踊るように久しぶりに夫との愛欲に(おぼ)れた。夫とこれまでにないほど身体中を弄り合い、火照った身体と身体が重なり身悶えしながら幾度(いくど)も幾度もエクスタシーを感じずにはいられなかった。


◎主な登場人物

▼わたし(広田ミキ/金美姫)

ピョンヤン出身/舞踏家/ニッポンへ脱北/ドジ・のろま/父外務省高官/母小学校教師/アカブチムラソイ/タンゴ/結婚・出産/子不知自殺未遂/記憶喪失/2児の母/コンビニバイト

▼健ちゃん(広田健三/陳健三)

広田家家長/中国遼寧省出身/農家三男/無戸籍/北京大医学部卒/元外科医/発禁処分作家/ボサボサ頭/ニッポン亡命/大正浪漫文化/竜宮の使い/大阪マラソン/母親白系ロシア人

▼ナナ(広田ナナ/チュッチュッ)

広田家長女/タイ難民キャンプ出身/ビルマ人/ニッポン亡命/悪戯好き/高田馬場/交通事故/あすなろ/児童養護施設/養女/道頓堀小/ハイカラさん/福山先生/失語症/車椅子

▼ヒカル(広田ヒカル)

広田家次女/大阪生まれ/天使のハートマーク/ダウン症/ルルドの泉/奇跡/明るい/笑顔/霊媒師アザミン/プリン・イチゴ好き/亡命家族を結び付ける接着剤/天体観測/流れ星

▼平野のおっちゃん(平野哲)

外務省官僚/福岡県八女市出身/両親を幼くして亡くす/ミキ・健三ら亡命者支援/ヒマワリ・サンシャイン/ミキの父・金均一の友人/ミキ養父/西行法師/吉野奥千本に卜居/満開の桜の樹の下で銃殺

▼洋子さん(平野洋子/旧姓有栖川)

平野哲の妻/旧皇族/奥ゆかしさ/ミキ養母/ミキと健三のヨリを戻す/ゆめのまち養育館/福山恵/奈良県・吉野/夫婦で早朝にジョギング、古都奈良散策/いけばな家元/みたらし団子/韓国ドラマ

▼アザミン(水田あざみ/斎木あざみ)

霊媒師/津軽イタコの家系/弱視/青森県・鯵ヶ沢町出身/10歳の時に村八分/大阪・梓巫女町/琉球ユタ修業/ミキの善き理解者/夫は水田豊部長刑事/2男2女の母親/直接的・間接的にミキを救う

▼塙光男(朴鐘九/河合光男)

北朝鮮の孤児/スパイ/金日成総合大卒/ニヒルなイケメン/新潟県可塑村村長の養子/同県大合併市市長/ミキの初恋の相手/北朝鮮、ニッポン乗っ取り計画首謀者/ミキを誘拐/親不知不慮の事故死

◎主な登場人物

▼わたし(広田ミキ/金美姫)

ピョンヤン出身/舞踏家/ニッポンへ脱北/ドジ・のろま/父外務省高官/母小学校教師/アカブチムラソイ/タンゴ/結婚・出産/子不知自殺未遂/記憶喪失/2児の母/コンビニバイト

▼健ちゃん(広田健三/陳健三)

広田家家長/中国遼寧省出身/農家三男/無戸籍/北京大医学部卒/元外科医/発禁処分作家/ボサボサ頭/ニッポン亡命/大正浪漫文化/竜宮の使い/大阪マラソン/母親白系ロシア人

▼ナナ(広田ナナ/チュッチュッ)

広田家長女/タイ難民キャンプ出身/ビルマ人/ニッポン亡命/悪戯好き/高田馬場/交通事故/あすなろ/児童養護施設/養女/道頓堀小/ハイカラさん/福山先生/失語症/車椅子

▼ヒカル(広田ヒカル)

広田家次女/大阪生まれ/天使のハートマーク/ダウン症/ルルドの泉/奇跡/明るい/笑顔/霊媒師アザミン/プリン・イチゴ好き/亡命家族を結び付ける接着剤/天体観測/流れ星

▼平野のおっちゃん(平野哲)

外務省官僚/福岡県八女市出身/両親を幼くして亡くす/ミキ・健三ら亡命者支援/ヒマワリ・サンシャイン/ミキの父・金均一の友人/ミキ養父/西行法師/吉野奥千本に卜居/満開の桜の樹の下で銃殺

▼洋子さん(平野洋子/旧姓有栖川)

平野哲の妻/旧皇族/奥ゆかしさ/ミキ養母/ミキと健三のヨリを戻す/ゆめのまち養育館/福山恵/奈良県・吉野/夫婦で早朝にジョギング、古都奈良散策/いけばな家元/みたらし団子/韓国ドラマ

▼アザミン(水田あざみ/斎木あざみ)

霊媒師/津軽イタコの家系/弱視/青森県・鯵ヶ沢町出身/10歳の時に村八分/大阪・梓巫女町/琉球ユタ修業/ミキの善き理解者/夫は水田豊部長刑事/2男2女の母親/直接的・間接的にミキを救う

▼塙光男(朴鐘九/河合光男)

北朝鮮の孤児/スパイ/金日成総合大卒/ニヒルなイケメン/新潟県可塑村村長の養子/同県大合併市市長/ミキの初恋の相手/北朝鮮、ニッポン乗っ取り計画首謀者/ミキを誘拐/親不知不慮の事故死


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