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第三十二話 刺客①

10/3 誤字修正




 丘陵地帯でキャンプしながら、回収屋コレクターのベオルード団が到着するのを待つこと二時間。


 魔核マテリアルタイプの〈真影シャドウ〉を召喚したフレイヤを始め、激しい戦闘を繰り返していたキーラやアオイたちは交代で仮眠をとっている。

 人族の内包魔力量では召喚を長時間行使するのは難しい。特に戦闘行動の連続は内包魔力の消耗が激しく、食事や睡眠などで外部から魔力を取り込んだり、内包魔力を回復させる必要がある。


 だが、鳥獣型アニマルのケインとゼクスに関してはそれほど激しい消費はしていなかった。

 〈真影シャドウ〉そのものが持つ飛行能力や輸送能力など、鳥獣型アニマルであるが故の自然な行動に関する魔力消費はそれほど多くはない。


 これは俺の飛空挺も原理的に同様であり、空を飛ぶ船という能力や理に則った行動ならば、短時間で魔力切れを起こして飛行不能などといった本末転倒なことにはならない。


 少女たち三人が休んでいる間、男たち三人で周囲の警戒を続ける。もちろん、その範囲を越えて広く周囲をヘリアルたちに警戒させている。


 そのヘリアルたちがベオルード団とは到底思えない――怪しいパーティの姿を捉えた。


 あいつらは何だ?


 セブンズジェムの学生服とは違う、本職のハンターが着る軽装。頭部を覆う毛皮のフードで人相は判らないが、若い少年たちではなく、屈強な男たちの体格だと一目で判る。

 そして、何よりもそのパーティを警戒させるのは、明らかにこちらの様子を窺いながら身を隠している点だ。


 監視させているヘリアルは小さな小動物型。攻撃力も防御力もない、偵察だけの能力しか持たせていないが、茂みの中を進ませて会話が聞こえる位置にまで接近させた。


「ガキどもの半分は魔力の回復中のようだ」

「へへッ、そいつは都合がいい。いいかオメェら、依頼は黒髪の小僧だけだが、栗毛の姫様が持っている魔核マテリアルも頂くぞ」

「他の四人は?」

「犯すも嬲るも好きにしろ――と言いたいところだが、回収屋コレクターが来る前に殺せ、俺たちがここにいた痕跡は残さずな」


 ヘリアルの耳を通して怪しいパーティの会話を盗み聞く——なるほど、狙いは俺と魔核マテリアル――何とも愚かな判断を下した奴がいるようだ……学園統括委員会エッターか?


 大型魔獣の陰で佇みながら、刺客とも言える男たちが潜む茂みに視線を向ける。今の会話を聞けば、俺の誘拐が第一目標だと判る。魔核マテリアルよりも俺の身柄を望む者……それは飛空挺で交渉した、学園統括委員会エッターのベケット委員に他ならない。


 飛空挺の〈真影シャドウ〉を召喚してみせたことにより、学園統括委員会エッターのベケット委員は俺に〈真影シャドウ〉召喚に関する研究への助力を求めた。

 だがそれは、俺の自由を限りなく束縛するものであり、召喚を思い通りに実現するという研究は、人族にとって人体実験すら許容する狂気に満ち溢れたものだ。


 そこに実験動物モルモットとして協力するなど、魔族の俺からすれば到底承服しかねる要請だった。


 そして何より、ミルズ大陸で暇を弄びながら日々の生活を楽しむことを邪魔されたくもない。


 しかし、学園統括委員会エッターはそこに剣を突き立てようとしている。


 早急に対処する必要があるな――。


『我は命ずる。三指の理をもって顕現せよ、一つは惑わしの霧、一つは風、深き眠りに落ちて微睡まどろみの世界に沈め――睡夢の世界スリーピング・ワールド


 奴らがここへ奇襲を仕掛けてくる前に、ゼクスとケインが奴らの存在に気づく前に、速やかに状況を掌握し、敵を排除する。


 さりげなくゼクスとケインの死角へ移動し、小声で素早く呪文を唱えた。前に構えた右手の先に緑色の輪環魔法陣が浮かび上がり、光る指先を差し込むと魔紋マジックスペルが輪の内側を駆け巡る。


 同時に、左手を握り込んで魔力を集中させ、魔核の種プルトを作り出して地面に投げた。


「さぁ、起き上がれ。そして俺のパーティを守るのだ」


 大型魔獣とその周囲で野営するゼクスたちを薄緑色の霧が覆い隠す。そして地面を転がる魔核の種プルトは、瞬く間に周囲の土を取り込み、頭部のない人型ヘリアルとなって立ち上がった。


 人の形を模倣すれば、そこに首があるべき場所で光る赤い単眼の輝きに一つ頷き、背中に担いでいた召喚銃ビストルを片手で構え、薄緑色の霧の向こうへ狙いを定める。

 

 視界を自分で塞いでいながらも、俺は見えない敵をしっかりと捉えていた。


 学園統括委員会エッターが送り込んできた刺客たちも、突如大型魔獣を覆った霧に何らかの変化を感じ取ったのか、茂みから飛び出して次々に召喚を行使していた。

 その行使の瞬間に起こる、魔力の爆発とも言える波動を感じているのだ。


 ケインとゼクスは“睡夢の世界スリーピング・ワールド”によって即座に深い眠りへと落ちている。すでに仮眠している小娘たちも、起きることはないだろう。

 これがヘイム大陸での戦闘行動中ならば、魔法を警戒して精神防御にも内包魔力を回し、即座に睡眠状態に陥るなどということはないのだが、ミルズ大陸で不意の魔法に対処できるほどケインの経験値は高くないし、ゼクスも対魔法、対魔族という環境から離れすぎていた。


 召喚銃ビストルの照準を魔力の奔流に合わせ、〈真影シャドウ〉の装甲を撃ち抜けるほどの攻撃力を持たせるため、内蔵されている獣核ビストに加えて俺本来の魔力を流し込んで増幅ブーストする。


「時間がない、一気にらせてもらうぞ」


 そう、いつ回収屋コレクターが現れるか判らない状況だ。ヘリアルに監視させているとはいえ、戦闘の狼煙や音を見聞きされては面倒だ。


 召喚銃ビストルのトリガーを引き絞り撃ち出した魔弾は、マグナート工房が想定した威力を遥かに上回る大魔力を放出し、召喚銃ビストルの銃口はその衝撃で破裂した。


『くそっ、これはなんだ!』

『おい、何かひかっ――』

『カイン!!』

『散開しろ!」


 “睡夢の世界スリーピング・ワールド”の中から放たれた魔弾に、刺客たちは意表を突かれていた。

 〈真影シャドウ〉を纏った直後に襲いかかった高速の飛翔物は、直撃と同時に騎士型ナイト真影シャドウ〉の上半身を丸呑みにし、血肉の一欠片も残さず消滅させて霧散。


 上半身を失い、下半身だけとなった騎士型ナイトは、一歩二歩とたたらを踏むように歩き――地に倒れた。


 薄緑色の霧の中からの攻撃に、残りの刺客五人は即座に散開。大型魔獣を挟んで二人と三人に別れ、臆することなく霧の中に突入して来た。


 六人とも騎士型ナイトか――やはり、ハンターは汎用性が高い騎士型ナイトが多いな。だが好都合だ、鳥獣型アニマル投影型マインドの場合、予想外の能力で離脱される可能性もある。


 だが、俺の姿を一目でも見たら――逃しはしない。


 そう考える俺の目は、体内の皇魔核ルーン・マテリアルを活性化させた影響で、黒目から真紅に輝く魔族の目へと変貌していた。


 銃口が破裂した召喚銃ビストルを投げ捨て、腰に佩く魔剣ローグを抜剣して霧の中を突き進む。


『ぬおッ!』


 召喚獣ビストルで撃ち抜いた〈真影シャドウ〉の側を走るもう一騎との距離を詰め、瞬時に〈真影シャドウ〉の形態を確認する。


 中型騎士型ナイトの重量級、装備は大鎚系――動きは遅いが防御力は高そうだ。


 中型といっても、目の前に迫る〈真影シャドウ〉の全長は二mメラールを優に超える。

 対する俺の身長は一六〇cmセントメラール程度しかない。圧倒的な身長差は、それだけで戦闘の優劣に結びつくのだが――。


『な、生身のガキが〈真影シャドウ〉とやり合う気か!』 


 ――当たり前だ、俺は第十三代魔王ラグナ・レイ・レドウィン。


「貴様程度に搦め手など必要あるものか、正面から切り伏せる!」


 〈真影シャドウ〉の大鎚が頭上に振り上げられ、目前にまで迫った俺を叩き潰さんと、地を割る勢いで大打撃が振り下ろされた。


 地を打つ衝撃は地面を大きく湾曲させながら広がり、引き起こされた地揺れの大きさは横たわる大型魔獣がわずかに跳ね上がるほど大きかった――その一撃を鼻先で急停止し、軽く跳躍することで全てを回避。


 そして地面を叩いた大鎚の上に軽やかに着地し、同時に魔剣ローグへ魔力を通していく。赤く染まっていく刀身と同じように、俺の目もさらに輝きを増して真紅に輝く。


『あ、赤目だと?!』


 大鎚の上に直立した俺の目線は、ちょうど〈真影シャドウ〉の頭部と同じ高さにあった。


 奴は〈真影シャドウ〉の中から見たのだ。俺の赤い眼を――魔族の赤い眼を。


 俺の目に恐怖したのか、それとも身の危険を感じ取ったのか、大鎚を地面から引き上げようと力を入れるために上半身を起こし、フルフェイスの下に一筋の隙間が空いた瞬間、魔剣ローグを一薙ぎし、〈真影シャドウ〉の首を斬り飛ばした。




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