第二十五話 実戦の始まり
「横から来きますの、デミラプル二匹!」
キーラとアオイが正面に対峙するのは緑色の鱗に覆われたデミラプル――トカゲに似た二足歩行型の小型魔獣三匹を相手に槍と刀剣を振るう最中、さらに二匹のデミラプルが茂みの奥から接近してきた。
「こちら側は俺が見る。ケインとフレイヤは前のサポート!」
「はい!」
「おぅ!」
ケインから借りた召喚銃の使い勝手は、俺の予想した威力や稼働効率よりも遥かに現実的な面で使いやすかった。
銃身の横から伸びるチャージハンドルを引き、核となる獣核に魔力の生成を開始させる。
グリップと銃身を保持する両手に抑え切れないほどの振動を感じながらも、銃口の先に立つ照準器の役目を果たす円の中に、迫り来るデミラプルの一匹を捉える。
「撃つぞ!」
周囲に照射開始の宣言し、飛び掛かるために重心を下げたデミラプトルの一匹へとグリップ横に備え付けられたトリガーを引く。
その瞬間――さらに大きく振動する銃身を力で押さえつけ、銃口の先から放出された魔力の塊がデミラプルに直撃し、大型の鹿ほどある体を小爆発と共に弾き飛ばした。
痛声をあげて転げるデミラプルを視認し、同時に召喚銃に付けた紐帯を回して背へと背負う。
そして、一歩踏み込むと同時に抜剣。アオイの刀剣ほど細くはないが、俺が持ち込んだ剣身が細めの長剣はヘイム大陸製の名剣――魔剣ローグ。
柄から魔力を流し込めば剣身がほのかに赤く染まり、斬れ味と硬度を飛躍的に向上させる。
「ハァッ!」
二匹のうち健在な方の首を横なぎにし、噴き上がる血潮を避けるように踊りながら召喚銃の一撃を喰らったデミラプルへと肉薄し、魔剣ローグを持ち替えて剣先を下に——被弾の影響で立ち上がれないデミラプトルの首を地面ごと突き刺した。
耳に残る不快な叫び声をあげてデミラプルは絶命し、真綿に刺した針を抜くように魔剣ローグを地面から引き抜いた。
「どうやら、そちらも終わったようだな」
「幼生体程度、何匹いようと構いませんの」
「――順調」
剣身から滴り落ちる魔獣の血を振り落とし、鞘に戻して皆と合流する。
「ラグナ、剣技も中々いい筋をしているな」
指導教官として戦闘を見守っていたゼクスが、すれ違いざまに声を掛けてきた。
「魔核を売ってくれたハンターに色々と教わってな」
「ほぅ、そのハンターも随分と腕が立つようだな。教え子の剣筋がそれほど見事ならば、師匠は相当に有名なハンターなんだろうな……名前を、聞いてもいいか?」
「……サイクルス・バルバティーレ」
「なッ、剣聖サイクルスか!? ラース教王国の剣聖がまさかブレイヴ王国にいたとは……だが、剣聖が代替わりしたのは三〇年近く前のはず、いつから知り合いなんだ?」
ラース教皇国はミルズ大陸の南東に位置する小国だ。教皇と呼ばれる王や帝王と同列の地位に立つものが国を支配し、国民すべてが教皇を狂信的に崇拝している特殊な国家。
魔族と魔獣を滅ぼすべき怨敵と位置づけ、事あるごとに屈強な剣士をヘイム大陸に送り込み、死ぬその瞬間まで退く事なく戦い続ける狂戦士たちを育てている。
剣聖とは、一人で魔族を圧倒するほどの剣技を習得し、〈真影〉なしでも対等以上に渡り合う達人に贈られる称号だ。
その称号が贈られるのは、教皇国で最強であり最狂の剣士ただ一人――三〇年ほど前、たった一人でヘイム大陸に乗り込んできた剣聖サイクルス・バルバティーレと俺は対峙した。
剣聖サイクルスはその名に恥じぬ、最高の剣技を習得していたが、奴の強さはそれだけではなかった。
長きに渡る魔族との闘争の果てに、俺たちが行使する魔法のメカニズムを解析し、ヘリアルと魔核の種の関係性について調べ上げ、魔族を倒すのに人数は必要なく、その習性を利用した決闘による一対一で勝負を挑めば、いとも簡単に斬り伏せれられると結論づけた。
それだけの力を、剣聖サイクルスは持っていた。
魔族は最強を決めるために必ず決闘を行う。そのルールは様々だが、挑まれれば断りはしない。それが魔王を選定する唯一つの方法であり、魔族が唯一共感する感性であるからだ。
剣聖サイクルスに剣での決闘を挑まれた俺は六日六晩掛けて奴と斬り合い、七日目の日の出を迎えた瞬間——疲労と逆光に視界を失い、ついに隙を見せたサイクルスの首を刎ねた。
その一戦の中で俺の剣技は飛躍的に向上し、魔王に匹敵する人族の存在を確信できないまま進めていた計略――死を偽装し、魔王の座を退いてミルズ大陸で復活する計案に、成功する可能性を見た。
「サイクルスとは古い付き合いだ。今はどこにいるか知らないが、魔核を売った金で悠々自適な生活でもしているだろう」
「ラースの剣聖が悠々自適……どうも想像つかないが、お前の強さの秘密が少し見えてきた気がするな」
適当に話したのだがな……ゼクスの興味を逸らせればそれでいいか。
ゼクスには剣聖のことをパーティメンバーに秘密にしておくように一言添え、アオイがデミラプルの胸を開いているところへ合流した。
「どうだラグナ、召喚銃を使ってみた感想は?」
デミラプルの胸を開き、まだ未成熟な獣核を取り出しているアオイを見下ろしながら、ケインが自慢げな表情で問いかけてきた。
「悪くはない……だが、やはりまだ細部が甘いせいで使い勝手が良いとは言い切れないな、魔力を弾丸に変換する時の振動は精密射撃の妨げになるし、連続射撃の際に銃身が発熱するのも解消する必要がある。魔力回路に問題があるのだろうが、経路なのか伝導体に問題があるのかは、分解してみないと判らないな。威力はデミ程度なら十分だが、本格的に魔獣を相手にするのは威力不足だ。クズ獣核とはいえ、魔力の生成率は本来のものとそう変わりはしない。現状は生成した魔力を暴走させて、方向性を与えることで攻撃しているに過ぎない。これでは耐久性をいくら増したところで、すぐに壊れ――」
「あーッ、わかった! わかったからその辺にしておいてくれ!」
召喚銃を使用した感想を懇々と並べ立ててやったが、ケインの自慢げな表情は消え去り、うんざりしたようにうな垂れてしまった。
「そ、それでもこの武器はすごいです! 今まで私のような非力な後衛は軽弓で前衛をサポートするしかありませんでしたが、召喚獣なら私でも軽弓以上の威力を出すことができそうです」
ケインを慰めるように、フレイヤが手に持つ美麗な銀細工が施された軽弓を撫でながら呟いた。
確かに、〈真影〉を召喚しない場合、人族は剣や槍、そして弓などの簡素な遠距離武器で戦うしかない。
フレイヤのような非力な少女の場合、下がって弓を引いたとしても、その威力は魔獣にとって雀の涙にもならないものだろう。
現にここまでの戦闘でも、フレイヤの役目は牽制と前衛のカバーにしかなっていない。弓の修練を長く積んでいるのか、その精度には感心させられたが、威力に関してはもはやどうにもならない。
だが、これが召喚銃に置き換われば、威力に関してはクズ獣核の生成する魔力が全てを代替わりしてくれる。
今後も召喚銃の改良が進めば、魔獣と魔族にとって大きな脅威になることは間違いない。
「――採れた」
召喚銃の評価を話し合っていると、アオイがデミラプルの側で立ち上がった。
こちらへ振り返るその手には、俺たちの左手に着けられた魔核や獣核よりも小ぶりで、トゲトゲしい赤い小石を持っていた。
「さぁ、ラグナ。そろそろ獣核の属性とやらをどうやって見極めるのか、それを教えて欲しいですの」
アオイの横に立つキーラが、アオイの手の平に転がるクズ獣核を摘まみ上げ、角度を変えながら陽の光にかざして眺めると、諦めたように肩をすくめてこちらに投げてよこした。




