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第十一話 クラスメート①




「おはようございます、ラグナ様」

「おはよう、リーデ」


 翌朝、館の私室にリーデが朝食を持って入ってきた。


 復活してから――いや、魔王だった頃から毎朝のように繰り返されてきたことだが、お互いにそれが面倒だとは思わない。もう五〇〇年以上繰り返してきた当たり前の慣習であり、むしろこれがなくては一日が始まらない。


「学園の制服、とても似合っております」


 朝食をテーブルに置き、第七学園の制服に身を包んだ俺の周囲を回りながら、リーデがシワの確認や糸くずを取って身支度を整えていく。

 セブンズジェムの制服は第一~第七でそれぞれ違う、分校の場合は徽章だけで統一された制服はない。

 第一学園の制服が騎士服風の儀礼服に近いデザインなのに比べ、第七学園の制服は軍の訓練生かと思うほどに地味なデザインであった。


 正面に回ったリーデが胸に付けた徽章の傾きを修正しつつ、話を続ける。


魔動車クレストの準備はできております。それと、昨日のうちにハイネルが整備所の手配を整えておきました。お帰りになったころには、うまやの改修が終わっているかと思います」

「初日の講義のあとはクレストの大改造だな」


 制服を汚さないように朝食をとりながら、館と奴隷商人から手に入れたレイ商会の報告を聞き、権利書を手に入れた奴隷たちの動向も確認した。

 男女八名の奴隷のうち、少女三名を館のメイドとして働かせることはすでに決めているが、メイドとしての仕事をリーデが教えるわけにはいかない。俺の身の回りの世話をするという命題がある以上、人族の少女をメイドにするための教育に割ける時間など、リーデには一分一秒たりとも存在しないのだ。


 結果、斡旋所から執事だけではなく、新たにメイド長として熟年の女性を雇い入れ、今はレイ商会の所有物となった商館にて、教育実習を行っている。近日中には教育を終え、館で働きだすことになるだろう。


 王都の東に位置する商業都市ゴルドから呼び寄せているリーデ直属の部下三人も、同日時頃には合流できる見通しだ。




 セブンズジェムの召喚科校舎は、入学試験において〈召喚〉の性能評価テストを行った場所であり、獣核ビスト魔核マテリアルによる〈真影シャドウ〉を使用した演習などが行えるように、演習場を併設した校舎が王都の外に建設されている。


 学生寮もその敷地内に建設されているのだが、俺のように王都から通うときには馬車なり魔動車クレストなりで通学することになる。

 もちろん、家庭の事情で学生寮に入る余裕も馬車を利用する余裕もない生徒も存在し、彼らは歩きで王都から校舎まで通っている。


 召喚科校舎は三階建てで、学年ごとに階数が変わる。新一年生となる俺は、一階の上級組に割り当てられた教室へと入っていった。


「よう、ラグナ!」

「おはよう、ケイン」


 教室内では何人かの生徒たちが雑談に興じていた。その中には入学式で友人となったケインの姿もある。教室は大きな黒板と教壇に向かい合うように、三人掛けの長机が二列で並べられていた。

 黒板には座席表が貼られ、すでに座る席が指定されているようだ。


 俺の席は一番前の真ん中か……。


「オレの一つ前だぜ、ラグナ。この分だと、オレたちはたぶん同じパーティだ」


 そうなのか? とケインの言葉に疑問を持ったが、座席が指定されているということは、その位置には何かしらの意味がある。今後一年は同じメンバーでパーティを組んでいくことを考えれば、講義の座席も近い場所に指定した方が都合良いのは容易に想像がつく。


 それに、最前席の長机は俺ともう一人だけが指定されており、三人掛けの最前列でありながら一名分の空きがある。ここに指導教官が座るとすれば、最前列二人と二列目三人と合わせて六人のパーティか。


「さすがはマグナート工房の一人息子というわけか、指導教官が組み込まれるパーティに編成されるということは、召喚の方も相当に期待できそうだな」


 俺の返しにケインはニヤリと口元を緩ませた。


「それは追々な――正直なところ、オレとしては〈真影シャドウ〉よりも現在研究開発中の携帯用兵器に期待してほしいけどな」


 ほぅ、昨日ハイネルに聞いておいたが、ケインの実家であるマグナート工房はブレイヴ王国でも有数の軍事工房で、歩兵用の兵器開発から魔動車クレスト魔動船クレイシップの製造・開発、一般家庭から上流階級向けの日用品など、幅広い分野で様々な魔道具を研究・開発・生産している。


 そのマグナート工房が研究開発中の携帯用兵器というのは興味がある。戦時や魔獣狩りにおいて、召喚行使前後の人族の立ち回りは人それぞれだ。

 魔核マテリアルによって召喚された〈真影シャドウ〉は全高五メートルほどの騎士型ナイトを始め、俺のナグルファルのように巨大な飛空挺の場合もある。

 他の鳥獣型アニマル投影型マインドにしても、大型の〈真影シャドウ〉が召喚されることがほとんどだ。


 それに比べれば獣核ビストの〈真影シャドウ〉は小型だ——それでも人の身よりかは大きいが——。


 そして、〈真影シャドウ〉を長時間纏うには内包魔力のコントロールや精神力の強化が必要だ。遠征や魔獣狩りでは、〈真影シャドウ〉を召喚している時間よりも遥かに長い時間を素の状態で過ごす。

 その時にどうやって身を守るか、その命題は人族にとって永遠の課題とも言えた。


 ケインの言う携帯用兵器とは、その命題に一石を投じる新兵器なり得るか、否か。


「楽しみにしておくよ」


 心からそう思い、近くの席に座る別の学生たちとも挨拶を交わしていく。


 上級組には俺を含めて二九名の生徒がおり、指導教官一名が足されて合計三〇名、六人パーティーが五つの構成になると思われる。


 続々と教室に入ってくる男女比は、ほぼ五分だろうか。皆、黒板に貼られた座席表を確認し、席へと着いて同じパーティになると思われる生徒へ挨拶を交わしていく。

 鞄から書籍を取り出し、周囲とのコミュニケーションはそこそこにして自分の殻に閉じこもる者、入学式で貰った教材をパラパラとめくっている者、机に伏して寝ている者、色々な人族がいて、見ていて飽きない。


 そして、中には指定の座席に着席した後、そのまま腕を前に組んで目を瞑り、瞑想でも始めるかのように黙って講義の開始を待つ者もいる。


 そう――ケインの横に座った青い長髪の少女が正にそれだ。


 同級生と交友を持つつもりはないと言いたげな態度ではあるが、同じパーティになると思われる少女が席に着けば、この少年が黙っているはずがない。


「よぅ、オレはケイン・マグナート、こっちは前の席のラグナ・レイだ。君はなんて言うんだい?」


 俺の紹介まで加えながら、ケインが青髪の少女に話しかけた。


「――アオイ・トウジョウだ」


 青髪の少女は片目だけ瞼を開き、視線を僅かに動かして俺とケインを確認すると、再び瞼は閉じられ瞑想へと戻っていった。


「って、それだけ? せっかく隣の席になったんだ、もっと君のことを聞かせてよ」


 ケインはアオイに色々と質問を浴びせていくが、アオイからの返答は一切なし。しかし、どれだけ無視されてもケインは話し続けていた。

 その様子を見ているのも飽きたので周囲の生徒たちを見渡すと、今度はケインを挟んでアオイの反対側に、見覚えのある少女が着席した。


「キーラ・プル・エカルラートですの」

「ラグナ・レイだ」

「あら、貴方は飛空艇の〈真影シャドウ〉を召喚したラグナね。あの一撃は凄かったですわ――それに、一緒のパーティになれそうで助かるのよ」

「助かる?」

「えぇ、だって未開領域への遠征で飛空艇が使えれば、時間を無駄にすることなく現地へ移動できますもの」

「俺の〈真影シャドウ〉を馬車代わりにするなら、対価は用意してもらうぞ?」


 俺の返しにキーラが口元を緩ませる。彼女の容姿には覚えがあった。俺がセブンズジェムの入学試験を受けた時に、受験番号が一つ前の少女だったはずだ。

 桃色の長髪をポニーテールで纏め、整った顔立ちは一目見れば忘れないほどの美少女。


 ケインが熱心に話しかけるアオイも人族の美的感覚で言えば間違いなく美少女であったが、周囲に無関心な態度では華がない。

 しかし、キーラはその仕草や間の取り方全てに華があり、周囲の男子生徒たちもその振る舞いに目を奪われていた。


「ん? 聞き覚えのある声がすると思えばキーラじゃないか。なんだよ、お前もこの組だったのかよ」


 体ごとアオイの方に向けていたケインがこちらに気づき、首だけ回して話しかけてきたかと思えば、すぐにとても残念そうな表情を浮かべてキーラのことを見ていた。


「あら、ケイン。あなたこそ最前列のパーティに席を取れるとは思っていませんでしたの。それに――ワタシの名前をアナタが見逃すはずないじゃない」


 と、キーラが指さす先にあるのは黒板に貼られた座席表だ。どうやらキーラとケインの二人は知った仲のようだが、確かに座席表で自分の席を確認すれば、その隣の名前だって当然目に入っていたはずだ。


 ケインは少しバツが悪そうにキーラから視線を逸らすと、その先にあるのは俺の視線だ。


「こいつはキーラ・プル・エカルラート、オレの幼馴染のお嬢様だよ。気をつけろよ、ラグナ。こいつは自分がどれほど周りから愛されているのかをよ~く知っている。どうすれば愛されるのかもよ~く知っている。話を合わせていると、いつの間にか小間使いにされちまうぞ」

「ケイン、その言い方は少々傷つきますの。これから一年は一緒に過ごすのですから、仲良くしましょ。そちらの“死神”トウジョウもよろしくお願い致しますわ」


 “死神”――そう呼ばれたアオイは、瞑想をやめてゆっくりと目を開いた。


「エカルラート家にまでそう呼ばれるとは、先代様たちは相当に恐れられているようだ」

「死神……?」

「ラグナはご存じなくて? トウジョウ家は面白い家系で、幼少の頃よりのちの〈召喚〉に備えてとある訓練をしますの」

「そうすると、どうなる?」

「召喚した〈真影シャドウ〉が全て似通った形状と能力を保有しますのよ。王国軍ではその〈真影シャドウ〉と決して明かされない訓練内容を恐れ、“死神”と呼ぶようになったそうですわ」


 ほぅ……聞き覚え、というより見覚えがある話だな。一五〇年ほど前にあった人族の大侵攻の中に、四つ腕の騎士型ナイトが何体も参戦しているのを見た。

 どのようにして同型を量産しているのか判らなかったが、一つの家系が独自の研究で一つの方法を生み出していたわけか。


 アオイに視線を向けると、彼女も俺のことを見ていた。僅かにその青い瞳と視線が重なるが、アオイはすぐに関心をなくしたように再び瞼を閉じて瞑想に耽っていった。





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